ホワイトデー前夜の3月13日、「英国男優を愛でる会」が開催されました。
「海外の男優はイギリスでもアメリカでも同じなのでは?」と思っていた筆者がカルチャーショックを受けるほど、男優愛と萌えに満ちあふれたイベントでした。
■イギリスづくしに演出された会場
主催は英国の放送局BBCのドラマを世界各国でいち早く届けるチャンネルブランドのBBC FIRSTを展開する、日本唯一のミステリー専門チャンネルのAXNミステリー。
会場は東京・渋谷にある東京カルチャーカルチャー。AXNミステリーとのコラボイベントとしては、昨年「金田一耕助ナイト」というイベントが開催されました。
入ってまず目を惹くのが、ズラリと飾られた英国男優のポスター! スマホで撮影するファンの方も多数。お気に入りもそれぞれ違うようです。
会場はイギリス一色。イギリス伝統の紅茶である「ヨークシャーティー」も特別にふるまわれました。ふくよかな香りが漂います。ティーバッグとは思えぬくらい濃厚な味!
そしてイギリス自体が好きな人のために、「イギリスの暮らし」をテーマにした雑誌『RSVP』も販売。
本場イギリスの生活情報だけでなく、日本にあるブリティッシュ・パブの情報なども掲載。アイリッシュ・パブは時折街中で見かけますが、ブリティッシュ・パブとなると数が少ないのだそう。落ち着いた雰囲気のパブにも興味が湧いてきました。
パブといったら英国料理。ということで、今回会場では特別メニューも提供。魚を揚げたフィッシュ・アンド・チップス、ゆで卵を肉などで包んで揚げたスコッチエッグは、馴染みがあります。
はじめましてだったのは、ホットトディ。ウィスキーのお湯割りに、蜂蜜・レモンを加えたもので、風邪の薬としても飲まれるそう。バランタインの香りが鼻に抜け、甘くて美味しかったです。
今回パフェの形状で出されたのはトライフル。フルーツやクリーム、スポンジなどをどんどん重ねて、気楽につくるデザートです。
■英国のドラマや俳優の特徴が見えてきた
料理に舌鼓を打っている中、どんどんお客さんがやってきます。会場は抽選で招待された100名のファンで満員! 年代はさまざまですが「男優を愛でる」というテーマからか、9割が女性でした。
AXNミステリーの中の人によるBBC FIRSTの取り組みの話の後、司会の青山さんから本イベントの趣旨が語られます。男優愛を最大限に解放しつつも、推しつけ(!?)はせずにみんなで愉しく推しを愛でましょうとアナウンスがされ、いよいよ宴のはじまりです!
登壇したのは、雑誌『SPUR』で映画レビューをしているジャーナリストの萩原麻理さん、オジさま大好きのイラストレーターの諏岸(すぎし)さん、20年間英国ドラマを販売してきたBBCスタジオズジャパンの木下美雪さんの3名。
みんなで「英国男優に乾杯」した後、まずは海外ドラマ・映画における英国の立ち位置について、萩原さんが解説。
1990年代は、ヒュー・グラント主演の映画『フォー・ウェディング』(今年同じメンバーで25年後を描いた短編映画が製作される、との情報にヒュー様ファンから歓声があがります)に代表されるように、ロマンチック・コメディの印象が強め。
同作を制作したワーキング・タイトル社は、その後『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ラブ・アクチュアリー』などの作品を世に出します。
なるほど、こうして並べるとなんとなく傾向が見えてきますね。
2000年代になると、ハリウッドとの共作が増えます。世界的な大ヒット映画の『ハリー・ポッター』シリーズから、ダニエル・クレイグによりリブートされた『007』シリーズ、バットマンをシリアスなスーパーヒーローとして描いた『ダークナイト』など。こうして、イギリスの監督・俳優が世界へと羽ばたいていきます。
極め付きが2010年からBBCで放送された『SHERLOCK/シャーロック』(スライドが登場しただけで、会場からは拍手の嵐)。主演のベネディクト・カンバーバッチはBBCの顔となり、実力が認められトップスターへ。
特に、これらイギリスの作品はアメリカでブームとなるより前に、日本で人気に火が付いていたんだそう。リアルタイムでOAを見るためだけに渡英する熱狂的なファンの話などが語られました。
さらに「英国のドラマと俳優がなぜ魅力なのか?」木下さんによる分析。
そのひとつの鍵が“シェイクスピア”。16世紀のロンドンからの歴史ある劇場文化は、現在のイギリスにも引き継がれており、巧みなストーリーや演技力のある俳優が生まれる土壌があります。実際に今でもTVプロデューサーは、自ら小劇場に通って有望な若手を探しているのだとか。
もうひとつは“インディ”ことインディペンデント プロデューサー。1990年代に法令ができ、英国の放送局は、自社でないインディから25%の番組調達が決められました。このクリエイティブを尊重した制度によって、競争が生まれ、クオリティの高い様々な作品が生まれました。実は、先ほどの『シャーロック』もインディ生まれなんですって!
今後のキーワードとして“ダイバーシティ(多様性)”が挙げられました。イギリスでは、昔から身分差別やLGBTなどの問題も懐深くコメディで描いてきました。その新しいことへ大胆に取り組む姿勢は、今も変わらないそう。
確かに日本のドラマでは、シリアスなテーマを正面から捉えた作品はあまりないなぁと感じました。
旬なドラマとして、AXNミステリーのBBC FIRSTでイドリス・エルバ主演の『刑事ジョン・ルーサー』が紹介されました。英国で1月に放映されたばかりのドラマが、4月から日本で放映されますよ。
■セーター&カーディガン萌え? 40歳代は若手? 英国男優愛で盛り上がる
いよいよ本日のメインイベント。3人の登壇者による、推している英国男優に対する3分間のプレゼンが行われます。
1番手の萩原さんのテーマは【世界最高にかわいい生き物】。一体どんな動物なのか? それは……
「ベン・ウィショーです!」と萩原さんが開口一番。キャーという歓声や賛同の拍手が巻き起こります!
その美しさについて、時代物にあたる映画『ブライト・スター いちばん美しい恋の詩』での繊細で病弱な姿が語られます。萩原さんによると「英国男優は、一度はコスチュームプレイをやってほしい」とのこと。
一方『007 スカイフォール』では、歴代シリーズ最年少のガジェット担当の役を演じました。「カーディガンに眼鏡でマグカップの姿に、女子はズキューンと胸打たれます」とのこと。
『クラウドアトラス』出演の頃から自身がゲイであることをオープンにし、切ない役も演じきるなど、話は尽きませんでしたがここで3分間が終了。あらためて、先程挙がった服装の話題でアフタートークが進みます。
カーディガンやセーターに着目した萌えってあるんですか? という質問に、「素肌にVネックがいい」「とっくりという感じのほうがいい」「……無いです」「部屋着っぽいのもいいですよね」などさまざまな意見が出てきます。
会場からの大きな賛同と、司会の青山さんの「セーター映画やカーディガン萌えってあるんだ……」と愕然とした様子が印象的でした。
AXNミステリーで4月から放映の『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』に登場するベンの姿を見ながら、1時間経過により(会場からは「いつの間にそんな時間が経ったの!」と驚きの声)一旦休憩。
休憩明けは、諏岸さんのプレゼンから始まります。テーマは「英国イケオジ偏愛主義宣言」。そのストライクゾーンとなる男優は“50歳以上”からで、40歳代はまだまだ若手として見ているとのこと。
先のベン・ウィショーなどについても、今よりも30年後の熟成した姿が楽しみとのことでした。
会場にもオジさまファンの女子は結構います。イドリス・エルバ、アラン・リックマン、コリン・ファースといった俳優の名前があがり、「困り顔」「深みの増す皺」といった魅力ポイントが触れられるたびに、黄色い歓声がわきあがります。
アフタートークでも、数年前に亡くなったアラン・リックマン(『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生役が有名)などの名が挙がり、推しである英国男優と同じ時代を生きてリアルタイムでドラマが見られることの幸せ、という話題になりました。
最後の木下さんのプレゼンは【イドリスと私】というタイトル通り、イドリス・エルバが対象。まず演じる役柄から入るという木下さんからは、『刑事ジョン・ルーサー』での渋い色気、ツイードのコートが似合う、そして声がいいなどの推しポイントが語られます。
さらに【無人島でサバイバルするならどの男優を選ぶか?】というお題を自ら提唱。イドリスならなんとかしてくれそうとの主張と共に、秘蔵写真が公開されました。
アフタートークでは、イケオジ好きの諏岸さんもイドリスはストライクとの話に(ただし46歳なので「若手」とのこと)。
誰と無人島に行くかというテーマでもひと盛り上がり。萩原さんが選んだのは(ベンが好きだけど彼は弱そうなのでやめて)トム・ハーディー。諏岸さんはコリン・ファースを連れてくけど、横からただただ見ていたい(それって無人島関係ないのでは……?)との回答がありました。
なんか、学校の放課後にダベってる感じで楽しい! 客席からも私なら誰々という声がちらほら聞こえてきました。
最後のコーナーはアンケート結果の分析。好きな男優などのランキングが発表されました。通常のアンケートよりも、コメントが多かったそうです。
好きな男優1位は、大方予想の通りベネディクト・カンバーバッチ。『シャーロック』人気は強いです。
萩原さんによると、テニスのウインブルドンの中継で、観客席で彼を見ることもあるそう。そして諏岸さんはその横にいるお父さん(!!)がかわくて惹かれるそうで、どんどん話はマニアックで愉しい方向へ向かっていきます。
2位はコリン・ファース。『キングスマン』でのスーツ姿に惹かれたなどの意見がありました。
3位はヒュー・グラント。こちらには納得と驚きの声とがあがります。顔が上品なのにゲスい、イケメン情けない男の代表など、ちょっと違った角度からの評価ポイントがあるようです。
ちなみに4位以下は、エディ・レッドメイン、ケネス・ブラナー、ダニエル・クレイグ、デビッド・スーシェ、マーティン・フリーマン、ジェームズ・ノートン、トム・ヒドルストンと続きました。
また注目の若手英国俳優の結果も発表。こちらは、エディ・レッドメインが1位で、以下、トム・ホランド、タロン・エジャートン、ニコラス・ホルト、ベネディクト・カンバーバッチ(こちらにも5位でランクイン!)、ジェームズ・ノートン、トム・ヒューズ、ベン・ハーディ、ベン・ウィショー、サム・ヒューアンと続きました。
お気に入りの英国男優はいたでしょうか?
さらに萩原さんが6年前に雑誌『SPUR』に掲載した、UK男子図鑑の話に。2013年当時、英国男優を「ロックンロール枠」「アイドルスター枠」といった多様なカテゴリで紹介。当時も反響は大きく、コリン・ファースが入ってないぞというクレームが多く届いたそうです。
今回は【UK男子図鑑2019年版を作るなら?】というテーマでトーク。そもそも「ロマコメ枠」自体が少ない一方、「スーパーヒーロー枠」はむしろ激戦区になっているなど、時代の流れを感じる意見も出てきました。
「セクシーおやじ枠」には、今や『Mr.ビーン』ではなく『メグレ警視』の印象も強いローワン・アトキンソン、「スーパーヒーロー枠」にむしろ悪役として存在感を放った『ヴェノム』のリズ・アーメッドや、『X-MEN』のマイケル・ファスベンダー、いろいろオファーがあったらしいジェイソン・ステイサムなどの名前などが挙がりました。
もっとほかの人の意見も聞きながらお酒飲んでわいわいしたい、との意見も出てきましたが、残念ながら時間いっぱい。楽しい宴はこれにて終了となりました。
最後にお客さんに感想を聞いてみました。お友達同士という2人の女子。でも、友達同士でもここまで英国男優について話で盛り上がったことはこれまでなかったそう。予想よりかなり濃い話が聞けてとても楽しかったと語ってくれました。
また男性がいるテーブルにもインタビュー。単なる英国男優の人気投票だったらならどうしようと不安だったものの、これまで考えたことのなかった分析や着眼点が聞けて興味深かったとのことでした。
刑事ドラマ好きとしては、アクションやセックスシーンが多めのアメリカドラマに対し、人物を丁寧に描写していくイギリスドラマがお好きなんだそう。
そして終了後も興奮冷めやらず。Twitter上ではハッシュタグ「#英国男優を愛でる会」でリアルタイムと参加後の感想、行ってみたかった人たちの熱い声があふれかえっていました。
ちょうど筆者が同席したテーブルには、海外ドラマのポータルサイト「海外ドラマboard」のライターさんが来ており、英国ドラマ全体のポイントを教えてもらいました。
英国ドラマは、日本やアメリカのドラマのように全13話や26話ではなく、全2話や5話など短くまとまっているものが多いとのこと。そのため、ちょっとまとまった時間があれば一気に集中して見ることができるんだそうです。
最後に今回、主催のAXNミステリーで放送されるBBC FIRSTの注目作をご紹介。
「刑事ジョン・ルーサー」(シーズン5)
AXNミステリーで、4/20(土)夕方6時 全2話一挙放送
「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」
AXNミステリーで、4/20(土)夜10時 全3話一挙放送
もっとさまざまなドラマを見て、あの話の輪の中にどっぷりと浸かりたい。次回の開催は未定とのことでしたが、そう思える至福の時間でした。
高柳優/イベニア