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なぜ映画『1999年の夏休み』に恋する人が多いのか? 裏話と30年ぶりの秘話。

アイコン30年ぶりに上映された名作映画の裏話

2018/09/20(公開:2018/09/20)
今夏公開された映画『1999年の夏休み』のデジタルリマスター版が話題です。30年前に公開された映画ですが、新旧問わず多くのファンを魅了しています。

非常にオリジナリティ要素の強い同作品。本映画がデビュー作である深津絵里さんをはじめ主役の男の子4人を演じたのは全員女の子。そこから別途声優が声を当てるという演出。萩尾望都さんの人気マンガ『トーマの心臓』がモチーフなどなど。

しかし、その他にも、透明感あふれる映像や思春期ならではの葛藤など、作品の魅力は多岐に渡ります。



概要は先日エキサイトニュースに掲載しましたが、ここでは文字数の都合上で泣く泣く削った裏話や、金子修介監督らへのより踏み込んだインタビューなど、さまざまな角度から映画『1999年の夏休み』の魅力に迫ります。



裏話1:『カメラを止めるな!』を止めた映画だった。

まずは軽めのトリビアから。 最初にデジタルリマスター版が公開され、連日満員だった新宿の映画館・ケイズシネマ。こちらは当時『カメラを止めるな!』を上映する数少ない映画館でもありました。しかし『1999年の夏休み』公開の2週間は、こちらの上映はお休み。

つまり、結果的に『カメラを止めるな!』を止めたことになったそうです(笑)。間違えて行列に並び、勘違いに気づいたがそのまま見てハマった人もいたという面白エピソードもあったそう。公開時にはトークショーも行われ、豪華ゲスト(※)によるポスターへのサインの寄せ書きサインも行われました。

この後、公開は全国各地の映画館へ徐々に広がっていきます。30年前に『1999年の夏休み』を上映していた映画館の人が、その後支配人となっていたことでデジタルリマスター版上映へと繋がったという奇跡の積み重ねもあったそうです。

※豪華ゲスト:敬称略で、金子修介(監督)、宮島依里(悠/薫役)、大寳智子(和彦役)、村田博美(直人の声)、佐々木望(和彦の声)、中村由利子(音楽)、高間賢治(撮影監督)、篠原哲雄(監督、当時監督助手)、中森明夫(作家・アイドル評論家)、安東弘樹(アナウンサー)、眞嶋優(女優)、春日太一(映画史研究家)、金子二郎(脚本家、金子監督の弟)、杉野希妃(女優、映画監督)といった方々。



裏話2:『1999年の夏休み』が作られたのは1987年の夏休み。

公開は30年前の1988年でしたが、実際に映画の撮影が行われたのは前年の1987年。4人の女優さんは全員学生だったので、本当に夏休みの間の撮影でした。

主演女優の宮島依里さんによると、撮影は大変暑く汗も沢山かいたとのこと。しかし、金子監督は映像から男の汗臭さは徹底して排除。結果、夏の美しい緑や湖に代表される爽やかなイメージが浮かぶ作品となりました。

なお、タイトルの「1999年」とは(当時から見た)1999年のありえる未来像という意味ではなく、ノストラダムスに代表される世紀末のイメージを記号化したもの。そのため、具体的にいつの時代かわからないように、当時の風俗的な物を排除して作られています。

その結果、21世紀の今見ても古くささを感じず、近未来の印象を受ける人が多いようです(筆者は卵を割るだけの巨大な装置が印象的です)。



裏話3:蘇った映画のカギは中村由利子さんの音楽

映画の抒情性を盛り上げるのは、劇中に流れる中村由利子さんのピアノ音楽。30年の歴史の節目で、音楽は同作に大きく関わっています。

まずそもそもの映画制作時。劇中音楽について、当時金子監督の元には音楽会社からさまざまなアーティストの楽曲が送られてきました。その中で、中村さんのデビューアルバム『風の鏡』を聞いて、絶対これだと強く思い決定。目次と映画の場面とを照らし合わせていきます。その結果、中村さんが少女の時に見た風景を思って作った曲と、少年たちと描いた映画とが見事に融合しました。

ただ、実は当時の本映画のサウンドはモノラル。その後のDVD化の際に、ミュージックトラックが作られます。ここで中村さんによる見直しがなされ、ステレオで音楽が入りました。

そして今回30年ぶりの公開のきっかけも、中村さんの30周年記念音楽会。中村さんと宮島さんのボイストレーナーが同じという繋がりなどもあり、金子監督と宮島さんの出演が決定。そこで、DVD制作のアニプレックス社に話をしたところ、好意的に話を聞いてくれて、デジタルリマスター版配給へ進んでいったとのこと。

裏話4:スピーディーな公開も記念冊子も、ファンの力で実現



映画館が決定し公開に至るまでは、いくつもの偶然が重なり、皆が驚くほど超スピーディーに決まっていきます。もちろん本映画自体の惹きつける力もありますが、潤沢な宣伝費がなくてもファンの熱意によって大きなムーブメントが作られていきました。宮島さんは特にSNSでの広がりを強く実感したと語り、金子監督はこのファンの力強さをまるで地下水脈のようだと表現しました。

その大きな象徴が記念冊子。上映決定から初日までの期間がタイトだったためパンフレットの準備はできませんでした。しかし、映画を見に来た人のためにどうしても用意したかった金子監督。30年前に本作の同人誌を作ったファンに声を掛け、記念冊子が作られました。ちなみに、後日金子監督が深津絵里さんに会ってこの冊子を渡したところ、「ぎゃー、恥ずかしい!」と喜んでくれたそうです

こちらは公式facebookで通販でのオーダーが可能です。



記念冊子の写真を使った紙バッグを製作した熱心なファンの方もおり、関係者にプレゼントしていました。

裏話5:どのようにして、女の子が男の子を演じたのか?



中村さんも絶賛していましたが、金子監督の女優の選定眼はとにかく素晴らしいのです。4人の新人の少女たちがその後も長くショービジネスの世界で活躍しているのは、なによりの証拠。

実はオーディション時に、金子監督が男の子に見えたのは深津さんと大寶智子さんの2人だけ。しかし、完全に男の子に見えることが優先ではなく、女の子が男の子を演じることで不思議な感じを醸し出すという狙いもあり、宮島さんと中野みゆきさんが決まったそうです。



美男子の和彦を演じた大寶さんへのインタビューでは、実は幼いころからずっと男の子に間違えられたことが多かったというエピソードが出てきました。そのためか、演技について男の子を意識しなさいといった指示は特に出さなかったのだとか。むしろ金子監督の中で、大寶さんがイメージした和彦にどんどん見えてきたとのこと。

大寶さんの女優キャリアの中でも、和彦は特別な役。30年の間ずっとファンから好きでしたという声が届く役は他にないそう。こんなにも愛してもらえているんだと、申し訳なくなるくらいに嬉しく感じているそうです。

そして、最後にとっておきの裏話を。(この先、映画のストーリーに言及する箇所があります。なるべく情報なしで鑑賞したいと思った人は、是非そのまま劇場へ!)



裏話6:キスシーンの秘話

映画の中でも、深く心に刻まれるのが口づけのシーン。少年同士(演者として捉えれば少女同士)にも関わらず、いや、むしろ同性同士だからこそ、性的な要素は感じずにピュアなドキドキ感を味わった人も多かったハズ。金子監督によると、前述の通り劇中で男の汗などの生々しさは排除しましたが、キスシーンに関しては逆に生々しさを出し、印象づけるようにしたとのこと。

……ここで、礼儀を知らない筆者が宮島さんにファーストキスでしたか?と(非常に不躾な)質問。すると「そうでした」とのお答えが。きゃ~! 宮島さんの初めてのキスのお相手は、和彦すなわち大寶智子さんだった!!

ただぎこちないのはいけないし、かといって慣れた感じにもならないよう、キスは何回も何回も行われました。結果、シーン撮影後に何か気まずくなるといったことはなかったそう。ほっ(笑)。

以上、30年前の作品にも関わらず、一つひとつが珠玉のエピソード。まるでアルバムのページを見返しつつ新しい思い出が生まれるような、新鮮な感覚を味わいました。デジタルリマスター版では時を経ても輝き続ける4人の姿を、ぬくもりは残ったままよりくっきりと見ることができます。未見の人は、この機会に是非味わってみてください。

(イベニア/高柳優)

エキサイトニュース
30年ぶり上映「1999年の夏休み」に連日長蛇の列、なぜ注目浴びた? https://www.excite.co.jp/News/bit/E1536635203681.html 

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