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1人の日本人が300人の“東アジア”人になる!? 澤田知子『FACIAL SIGNATURE』

アイコンあなたを証明するものは・・・・・・。

2016/02/09(公開:2015/03/29)
澤田知子『FACIAL SIGNATURE』

03.14[土]~04.19[日] / 東京都 / MEM 


FACIAL SIGNATURE © Tomoko Sawada  【画像提供:MEM】

アーティスト・澤田知子さんによる作品展。“様々な東アジア人”に変装した108点のセルフポートレイトが展示されている。部屋の壁を埋め尽くすポートレイト。それだけでも圧巻だが、全て同じ人間であることに気付けばさらに驚くだろう。



澤田さんがニューヨークで生活をしていた時に、様々な東アジア人に見間違えられたことで 「人は何を、どこを見て個人を判断しているのか知りたい」と思ったことが作品制作のきっかけだという。

確かに海外で(時には日本でも)、他のアジア諸国の人に間違えられた経験がある人は多いのではないか。欧米人はアジア人の見分けが付かないからな……と思っていたが、中国語で話しかけられたこともある。

彼らは私のどこを見て国籍を判断したのだろうか? 言われてみれば確かに気になる。




外見が変わると、他の人の対応が変わる。

内面と外面の関係性をテーマにセルフポートレイトを制作している澤田さん。これまで数多くの、自分には見えない変装をした自分自身の写真を撮影してきた。

髪型、メイク、服装、年齢、職業、国籍、ありとあらゆるものを変え、ありとあらゆる女性になってきた。時には体重まで変動させたのだとか。

『ID400』 デビュー写真集。自動証明写真機で400人の自分自身を撮影。


ID400 (detail) ©Tomoko Sawada, courtesy MEM

『OMIAI♡』 写真館で撮影したようなお見合い写真。着物、洋服、ポーズ、様々なお見合い相手がこちらを見つめてくる。
     
 OMIAI♡ ©Tomoko Sawada, courtesy MEM


『School Days』 様々な女子高のクラス集合写真。生徒はもちろん、先生も澤田さん自身だ。

School Days ©Tomoko Sawada, courtesy MEM


『MASQUERADE』 キャバクラで働く女性たち50名に変装した写真集。

 MASQUERADE (detail) ©Tomoko Sawada, courtesy MEM

これらは“変身”と言うより、“変装”なのだそう。変身が内心もそのものになるのに対して、変装は表面だけが変化する。


会場では澤田さんがこれまでに出した写真集も見ることが出来る


顔はあなたを証明する『印鑑』であり、『署名(サイン)』。

『FACIAL SIGNATURE』で写されているのは人物の顔のみ。服装や背景という要素は排除され、メイク、髪型、表情だけで多様な人物になっている。これほど微細な違いだけで、こうも幅広い表現が出来るのかと驚かされる。

それぞれ違う人達に見えるが、全て澤田さんという同じ人物。同じ人物だが、細部を変えることによって様々な人物に見える……という、ぐるぐる回る不思議な関係。



顔は個人を認識する上での最重要要素だ。顔はアイコンであり、その人の証明である。日本であれば印鑑だが、作品タイトルには英語に『SIGNATURE=署名』が使われている。バックを黒にすることで、一人一人の顔を浮き上がり、押されたスタンプのようにも見える。


入り口近くの作品には『FACIAL SIGNATURE』の篆刻も


ウィッグ大活躍! 300人撮影の裏側

写真集では300人の“東アジアの人々”が登場する。一日に平均30~40人ほど撮影したとのこと。余分に撮影することはなく、ぴったり300人で撮影を終えるそうだ。 



これだけのバリエーションのメイク、髪型を作り出すなんて、どれだけの労力がかかるのだろうか……。年がら年中同じメイク、同じヘアスタイルの私は気が遠くなりそうだ。

「変装のためのアイディアを先に考えるのか?」という質問を良く受けるそうだが、先にアイディアを考えることはなく、もし先に頭で考えたとしても300人分も思いつかない、と澤田さんは言う。また“変装は即興です”とも語った。

肌の調子などを見ながらメイクをするそうだが、顔を白く塗ったり、黒い影を付けたりすることで輪郭も変化させる。顎のライン、眼の大きさを変えると印象も違って見える。

背景が黒いので髪色、髪型の違いがハッキリ分かるが、ギャラリースタッフの方によると、作品のうちほとんどは地毛ではなくウィッグではないか? とのこと。 

さらにコスメも作品作りに大きく貢献している。また、眼を大きくするカラーコンタクト、ウィッグも進化したことで表現の幅も広がったと言う。


あなたはどこの国の人?



作品を見ていると「この人はこの国っぽい」、「あの人はどこの国の人だろう?」とイメージが膨らむが、澤田さん曰く、どの作品がどこの国の人、というのはないらしい。

また“何人”であるかという以前に、“その人はその人”という思いがあるそうだ。国と国の間には様々な問題があるが、友人同士であれば国に関わりなく交流できる。一方で、国はその人を形成するアイデンティティの一つであり、それぞれの国に対するイメージや偏見も知らず知らず持ってしまっている。


澤田さんにとって作品は、答えではなく問いだ。自分も、見る人も、出来た作品を見ることで考える。また、作品そのものは限られた人しか買えないが、作品に代わりコレクション出来るものを、ということで写真集を作成しているとのこと。

ロリータやギャルをモチーフにした作品“cover”と“Decoration”の2つのシリーズを一冊にまとめた写真集『Kawaii』も発売予定。もちろん、これらも澤田さん自身が変装している。海外でも注目されるこれらの『Kawaii』文化はどのように生まれ、時代と共にどのように変遷してきたかという考察が表現されているとのこと。



他人から見たら違うかもしれないが、自分は自分。それは偽りではなくシンプルな事実だ。見た目と中身、それぞれが変わっても、自分は変わらない。



2015.03.19 文・写真 篠崎夏美
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