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【トーク編】巨大な繭を作った人の話を聞いてみた。ほぼ全内容書き起こし! NUMEN/FOR USE Exhibition「TAPE TOKYO」

アイコントーク中に、出演者の頭上の空間を人が歩く・・・・

2014/04/16(公開:2013/11/27)

 NUMEN/FOR USE Exhibition「TAPE TOKYO」 

東京・スパイラルガーデン

 

この日は、NUMEN / FOR USEの魅力をさらに紹介するアーティストトークも行われたNUMEN / FOR USEのメンバーの一人、スヴェン・ヨンケ氏と、建築家・谷尻誠氏による対談形式だ。

 


会場を上から見たところ。

 

 


作品に囲われたスペースがトークプログラムイベント会場。

 

 

 

通訳を挟み、谷尻氏がスヴェン氏に質問をする形式。(以下トーク概要)

NUMEN/FOR USEは、家具デザインからアート作品までを手掛けるアートユニット。1998年に結成されたが、その頃クロアチアは紛争が終わったばかりの混乱期。であった。もともとは工業デザインを行っていたが、その`工業’がないような状態だった。そこから展示場、見本市、舞台など、様々なメディアの合間を縫うような作品を作ってきた。

ただ、クリエイターにとっての`良い物’が、依頼主にとっての`良い物’とは限らない。工業デザインの場合、売れるもの=良い物だった。工業デザインは制限があるが、アートには制限がない。ゼロからのモノづくりであり、これは何物にも代えがたいものだ。

 

この作品にも言えることだが、材料そのものが持っている感覚を大切に作品を作っている。政治的、哲学的ではなく、感覚的なもので、計算や、コンピューターなしに、遊びながら作り、遊びながら働いている。そうすることで、自然に面白いものが出来てくる。

谷尻氏が見学に来た際、パイプが曲がっていたり、手さぐりで作業をしていて少し驚いたという。なぜなら建築は設計図があり、その通りに制作していくもので何かのミスがあった場合大きな問題になってしまう。しかし、スヴェン氏たちはとても楽しそうに作品作りをしていたのが印象的だったと語った。

 

今回の制作は一種の実験で、一般公募でアシスタントを募った。学生など、未経験の人が作品作りの手伝いをした。何も分からない状態でのスタートだったが「そのうち分かる」と説明し、作業を進めた。この作品は自然現象のようなもので、人の手でテープをひっぱったり、包んだりしていると、だんだん形が出来てきて、自然現象のように出来上がっていく。

方向性は見えているけれど、完成形は見えない。定義は出来るが、設計はできない。最初にイメージがあり、点と線を結ぶ最初の点を定める段階がきちんとしていれば、完成する。とても原始的なもので、人間がこの世に存在する前から営まれてきた動きのようなものだ。
 


トーク中に鑑賞者が作品の中を歩き回る。これも作品の一部。
(左端が谷尻氏、右端がスヴェン氏)

 

素材にテープを選んだ理由は、強い、安い、たくさん使える、接着する、重ねられる、強度がある、などの理由から(ちなみにテープは 29000メートルも使われているらしい)。テープは一次元的な直線から、二次元的な面になり、三次元的な立体にもなる。谷尻氏が世の中のものすべてが材料になるか?という質問に、いやしい物、あまり価値のない物を敢えて使い、価値のあるものを作りたい、と答えていた。

TAPE INSTALLATIONは、体験したことがないのに懐かしい感じがする。胎内にいるみたい、血管の中にいるみたい、という感想を聞くが、誰も血管の中になんて入ったことがないけれど、例えられる。柔軟で、伸び縮しするような性質を持っている、有機的なものは誰にもでもなじみがあるので、そう感じるのかもしれない。生まれる前の記憶が残っているようなもので、そうした記憶をたどって形にするのだ。

 

 

今後使ってみたい素材は、頑丈なものや、高級なもの。テクノロジーとして活用できる。空間デザイン、建築としても使えるのではないか。NUMEN/FOR USEでは、網を使った家具やインテリアも作っている。それらの素材は、くつろいだり休憩したりするのに向いている。網・ネットを使ったカーペットは家具の延長のようなもおで、その場に合わせて自由自在に形を変えられるからだ。ホテルなどでは縦の空間が生かされていない場所が多いので、そうしたところに使えるものを使いたい。

NUMENでは、何を作るか?どう作るか?何を使って作るか?その過程全部を考える。通常のモノづくりとはちがったプロセス、考え方が必要。特にどのように空間を使うかについて考えるが、そこは素材が全てで、素材が教えてくれる。そのへんにあるものを使って、見たこともない物を作る。既成のものを使い、既成の方法で、ハイブリッド的な新しい物を生み出す。

アート、デザイン、建築、その間にあるものを見つけて形にしてきた。以前は、デザイナー、建築家の間に越えられない線があったが、今はそれらのスキマで新し物が生まれている。どこまでがデザインで、どこからが建築か分からなくなっている。どちらも先にあるものは同じで、元素的な、一番小さなものになるのかもしれない

それはバーチャルで、存在しているけど知らない、知っているけれど実態を知らないようなもの。素材学とコンピューターは真逆のもので、彼らの作品作りでは、飾り付けをしないことが重要。余計なものを排除し、素材を生かし、ミニマルなもので、コンセプトを追求する。

 

 


Q:日本でこのような作品を作るのは、法律的な問題で難しいのではないかと思っていた。世界中で 同様の展示を行っているが、どのようにプレゼンをしているのか?」という質問があった。

A:メルボルンでのケースを紹介したい。野外で、都心ということもあり様々な規制があり、ずっと役所の人が後ろをついてきて、あれはダメ、これは無理だなど、色々言われた。しかし、実際に作品が出来上がり中に入ってもらうと反応が変わった。数字や、設計図では分からないが、そのものと触れ合うことで納得してもらう。入った人は言葉を失くす位感動していた。「この展示を私は止めることは出来ない。こんなに素晴らしい体験を中止させられない」という感想が述べられた。

テープは強い素材なので安全性はあり、3か月で2万人が入ったこともある。時間が建つとハリがなくなってくるが、テープを貼ればまた継続して使うことが出来る。

 

Q:この作品を通じて、どのような人と人との交流が想定されるか?

A:子供が作品に入ってあまりの楽しさに出たがらなかったり、サラリーマンがスーツにネクタイ姿でハイハイしていたり、全ての人が楽しめ、何かを得られる。写真を撮っている人は皆笑顔になる作品だ。ここは伝統的な建築物のように権威をふるうことはない。

また、狭い空間で出会った人同士がどう接するかというのも興味深い。とまどいはあるが、いい大人が四つん這いになってハイハイしながらであったら、自然に笑ってしまい、壁がなくなる。狭さ、歩きにくさと言う不自由を楽しんでいる。もっと広い空間だったら、また違った行動になるだろう。

この作品では、雰囲気、素材を固くする必要がない。役所、教会、美術館などのようにかしこまらず、楽しむことが出来る。

 

 

Q:今後一番展示を行ってみたい場所は?

A:色々やってみたところはあるが、アメリカで展示をしたことがないので行ってみたい。アメリカからはまだ声がかかっていない。怖がられているのかな?(笑)また、このプロジェクトはとても日本的だと思うし、日本の他のところでもぜひやってみたい。

 

 

写真だけでは分からない、体験しないと分からない、常設できないものなので、多くの人が作品に触れる機会を持てるようにしたい。以前はデザイナーがアートの領域に入ってくのに壁を感じた。アートギャラリーで作品を見ると、色々考えてしまうが、街中で作品を見るとシンプルに見ることが出来る。

モノをつくることが目的ではあるが、世界を巡り、様々な人に出会うことも重要な要素である。作品作りのプロセスの中でお互いを知り、コミニュティを作れる。そうしたコミュニティが形成されていくことがプロセスの一つにもなっている。何らかの驚き、感動を与えてくれるものなので、今後も続けていきたい。

 

 

 
お土産の袋を開けるとテープが入っていた。
 

 

<感想>

柔軟な発想、シンプルな素材、出来上がってからの人と人との関わりなどにも触れる、非常に興味深いトークだった。一番印象的だったのは「体験したことがないのに、懐かしく感じる」、「入ってみると皆が笑顔になる」という点。

実際に自分が入ってみて、まさにその通りだった。子供のころ遊んだ空気で膨らませた遊具の中にいるような、もしくはもっと遡って、お腹の中にいるような感覚。ワクワクする感じと、安心する感じで、いつの間にか笑ってしまう。

最初は斬新なデザインに目を奪われ、異様な空間にも見えたが、慣れてくるとこれがない状態が想像できない位、その場になじんでしまう。外から見ただけだとユニークで、革新的なものに思えるが、入ってみると非常にシンプルで、楽しいものだ。

身の回りのものがここまでの変貌を遂げることに驚くと同時に、様々なものに、計り知れない可能性と楽しさが詰まっていることに気付かされた。 

 

2013.11.27 文・写真 篠崎夏美 

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