07.05[日] / 東京都 / HAPON
島根県。
「日本で47番目に有名な県」、「いいえ、砂丘はありません」など、“知名度のない県”を逆手にとって、自治体が自虐ネタのカレンダーを出して話題になったこともある。
出雲大社が有名……くらいの知識しかないが、島根にはいったいどんな魅力があるのか。どじょう掬い饅頭食べ放題につられ『どじょう掬い饅頭祭り』というややシュールな香りがするイベントに参加した。
■どじょう掬い饅頭は元祖ゆるキャラ
会場となった「HAPPON新宿」は、地方の活性化や再発見をテーマとしたシェアオフィスで、今回のイベントにもぴったりの場所。今日の主役、どじょう掬い饅頭のキャラクターが、受付で待ち受けていた。
主催者曰く“ゆるキャラブームやカワイイ・ジャパンを先取りしたポップでキュートでミニマルなデザイン ” という可愛らしいどじょう掬い饅頭。なんと、今回は無料で食べ放題だという。会場には500個の饅頭が用意されたらしい。ひょっとこのつぶらな瞳の視線を感じる……。
ちょっと可愛そうだが切断してみた。味はチョコと梨が人気。
どじょう掬い饅頭は、安来節(やすきぶし)にあわせて踊る“ひょっとこの面”をモチーフにした山陰地方の代表名菓。白あん入りのお饅頭で、手ぬぐいの水玉はフィルムが巻かれている。島根県・中浦食品さんの50年続くロングセラー商品で、山陰地方のお土産の定番になっているそう。
このとぼけた顔を見つめていると、なんだか不思議と癒される……。
会場には、どじょう掬い饅頭の味にぴったりお茶、島根の茶三代一(銀印)と静岡の平安桜花が2種類用意された。後味に感じるほのかな苦味が、白あんの甘さとマッチする。
お茶のセレクトは、自由大学「日本茶、コトはじめ」メンバーの小山さん。
小山さんによる、手際のいいお茶淹れパフォーマンス。急須のお湯を移し替える動作を繰り返す。そうすることで、濃さが均等になりお茶の香りが広がるそう。
さらに、どじょう掬い饅頭にあわせた島根の地酒も1杯500円で飲める。島根の地酒に詳しい、ライター&プランナーの江澤香織さんがセレクトした日本酒が並ぶ。
「酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり」「山陰旅行 クラフト+食めぐり」などの著書がある江澤さん。地方の酒蔵を巡るバスツアー「だめにんげん祭り」も主宰され、島根の地域復興にも一役かっている。しっかりしたコクと、お米の旨味が感じられるお酒がラインナップされた。
■ 島根の民謡「安来節」で「どじょうすくい踊りを」を踊ってみる
イベントでは、安来節の生演奏とともに、どじょうすくい踊りの実演があった。安来節保存会の東京支部の代表であり、安来節の全国大会の優勝者でもある達人が踊る。
達人曰く「若い人が饅頭につられて集まるなんて珍しいですね(笑)」
達人がざるをかぶって“正装”で登場。鼻につけているのは、5円玉。
達人によるどじょう掬いはこちら【動画】 http://youtu.be/1apPMa6a2Iw
どじょうを捕まえようとしている様子がパントマイムで演じられる。どじょうを追いかける真剣な顔や捕まえてニンマリする表情に、ついつられて笑ってしまった。
「みなさんも前に集まって、ぜひ一緒に踊りましょう!」
保存会の方から声がかかった。達人にどじょう掬い踊りを習い、安来節の演奏にあわせ、参加者も達人と会場を練り歩く。
どじょうすくいの踊りは、田んぼの泥に足がとられた感じの歩き方がポイント。中腰で歩くのはけっこうつらそう。参加者からは「けっこう足腰が鍛えられるので、下半身ダイエットにいいかも」「みんなで円になってぐるぐるまわるのは楽しかった」という感想も聞かれた。
安来節を演奏するために使う紅白のフサのついたバトンは、「銭太鼓」と呼ばれる民族楽器。古くから出雲地方(島根県)に伝わるもの。筒のなかに5円玉がいくつか入っていて、振ると「シャンシャン」と鳴る。
誰が使っても鳴るが、さすがプロが鳴らすと音のキレがいい。師範クラスになるには、8年〜10年かかるとか。
安来節保存会の東京支部は現在260名。「どじょう掬いに興味のある方はぜひ!」と達人。
動きや表情で笑わせられるどじょう掬い踊りは、世界にも受けいれられる可能性があるのでは……と想像がふくらむ。2020年東京オリンピックの頃には、注目の踊りになっているかもしれない。はじめるなら今のうち。宴会芸にも使えるかも?
■ でんぱ組.incとのコラボCMをつくったI ♥ 山陰のクリエイター
どじょう掬い饅頭のCMは、人気のアイドルグループでんぱ組.incとのコラボで話題になったそう。
ムービーはこちら(https://www.youtube.com/watch?v=nfmgcXs-hzo)
このCMの仕掛人は、広告会社代理店に勤務するクリエイターの川腰和徳さん。でんぱ組.inc とのコラボCMができるまでの経緯や裏話が聞けた。川腰さんは島根の隣、鳥取県の出身。
「鳥取も島根と一緒。いいものはあるのに、あまり知られていない。他の県の地域おこしに関わる仕事を手がけた経験から、出身地である山陰地方にも貢献したいと思うようになった」とのこと。
その後、同級生との出会いがきっかけとなり、中浦食品さんともつながって、楽曲提という形によりでんぱ組.incとのコラボCMが実現した。
でんぱ組.incメンバーのステッカーやチェキをおまけにつけて、どじょう掬いまんじゅう(6個入り)のパッケージも新たに制作、限定販売をした。TwitterなどのSNSで反響をよび、どじょう掬いまんじゅうも「かわいい!」とネットで評判に。商品は完売だったそう。
最後は、全員でどじょう掬い饅頭クッション、ビックサイズの饅頭、キーホルダーをじゃんけんで争奪。
『どじょう掬いまんじゅうクッション』をゲットした中村さん。イベントには、島根出身の友人に連れられて来たそう。「初めてどじょう掬い饅頭を食べたけど、美味しかった」とのこと。
ビックサイズの『デカどじょう掬い饅頭 』を手に入れたのは、かわさきさん。「友人へのお土産にいいかも」
※ちなみにこれらの商品はHPで購入可能です!
■ 地方には東京に無いものがある
イベント主催者、島根出身の山根大地さん。「『東京にあるものが無い』は、『東京には無いものがある』の裏返し。自虐なPRも自信と決意のあらわれ」
「歴史や伝統ある変わったもの、面白いものは、未来に突き進むことができると思う。地域の活性化とか、町おこしとか、難しいことは考えず、かわいくて美味しいどじょう掬い饅頭と一緒に、島根のお茶やお酒を楽しんでもらえたら、うれしい」と語った。
自分の地方では見慣れたものでも、違う視点で見ると価値がでてくるものもある。そう考えると、地方に眠る「東京には無い“よい”もの」は、まだまだ発掘できそうだ。
どじょう掬い饅頭は、海外からも人気があるそう。「言葉がわからなくても『かわいい』っていうだけで、通じあえるのがいいですね」と中浦食品の松本さん。
ちなみにこれは、鳥取県の自虐ネタのカレンダーを制作した鷹の爪による新作「全国都道府県×鷹の爪 2015年53週 自虐ゴミ袋カレンダー」。
島根「遠足の距離が通学路より短かった」
自分の田舎にも通じるものがある。地方はどこもそんなに変わらないのかも。
どじょう饅頭のほのぼのとした可愛らしさや、おおらかな響きのある安来節、達人のどじょう掬い踊りにも癒され、島根県の魅力に充分に触れることができたイベントだった。
文・写真 橋村望