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総重量120キロ。身体の中にもある、意外な○○で描く繊細でダイナミックな作品。 山本基「原点回帰」

アイコンめぐりめぐってまたいつか

2015/02/19(公開:2015/02/09)

01.30[金]~03.01[日] / 東京都 / ポーラミュージアムアネックス 




会場に一歩足を踏み入れると目の前に広がる白い模様。レースのように繊細なパターンが床いっぱいに広がるその光景は、とてもダイナミック!あまりの迫力に思わず息を飲んでしまいました。

実はこの作品、私たちに欠かせない○○で描かれています。そしてそこには、大切な人への想いが込められていました…。





決め手はサラサラ加減!?とってもキラキラな○○の使い方

あたり一面を埋め尽くす白い模様。まぶしい朝日に照らし出された棚田の様にも、連綿と紡ぎだされた白いレース細工のようにも見えるこの作品。ずーっと見つめていると、吸い込まれてしまいそうな気分にも、空を飛んでいるような気分にもなります。光を反射してキラキラと輝くその素材、実はとっても身近なアレ。


よくお好み焼き屋さんで見るような油さしチューブに入った白い粉。


その正体は・・・ 何と、塩!



にわかには信じられませんが、よくよく目を凝らすと確かに小さな結晶が…



こちらが作品に使われている


チューブから少しずつ塩を出して、細やかな模様を描いていきます。非常に集中力と根気が求められる作業です。ちなみにこの塩、特別な塩ではなく精製塩、スーパーなどで売っている普通の塩です。粒の大きさがそろっていてで不純物が少ないものでないと、均一な太さの線を描くのは難しいとのこと。

取材した日はレセプションで、まだ作品は製作途中。あと2日間ほど公開制作をするとのこと。今回の作品『たゆたう庭』では120kgもの塩を使う予定だそうです。(塩の結晶の数を予想すると、何と2億!)120kgも塩があったら使い切るのに何年がかりになるのか・・・。この減塩志向の時代に思わず考えてしまいました。

これだけの作品、やはり当初の予定通りにいかないこともよくあるそうです。照明や外光その他の条件など会場に来てみないと分からないこともあるので、作品の設計図ともいえるドローイングのとおりになるのは7割、残り3割は会場での構想とのこと。作品制作の際も、時々休憩はとるものの、基本的にはぶっ続けで制作を行うそうです。

何より一番驚いたのは、失敗した時は敢えて直すことはせずに、そのまま続行するということ。山本さん曰く「現実はやり直すなんてできないのだから、あえてそのままを受け入れてどう膨らませるか、その場所で考えたことを反映する」とのこと。

 

作品の端を見るときれいにトリミングされています。どうやっているのか作者の山本さんに質問したところ「企業秘密!」と冗談ぽくはぐらかされてしまいました。



海に還った妹へ

塩と作品との関わりについて作者の山本基(もとい)さんにお話を伺うことができました。


塩のインスタレーションを制作する山本基さん

○作品を作り始めたきっかけは?
僕には妹がいましたが、21年前彼女が24歳だった時に脳腫瘍で亡くなってしまいました。彼女との思い出は、時間がたつとどんどん忘れて行ってしまう。もともと忘れっぽい自分だからこそ、大切な記憶を思い出したい、もう一度会いたいという感情を作品に込めて表現することで、24歳という若さで旅立った彼女との見えないつながりを表したかったのです。


○そのなかでなぜ塩という素材を使おうと思ったのですか?

『人が死ぬ』という事を自分なりに解釈してみたのです。身近な人の死を認めて乗り越えていくというテーマを考えたり、お経や終末期医療などに対し疑問に思ったことを各々のテーマに合わせた素材を使って作品を作ったりしていくうち、その中でお葬式のお清めに使う塩が出てきたのです。作品に塩を使い始めたのは96年からですね。自分でもこんなに長く使うとは思ってもいませんでした。

○東京での個展は久しぶりだそうですね

13年ぶりですね。近年は海外での発表が多かったです。塩は人間の生命にとって大切な物という共通の認識があるからか、海外でも日本でも塩から感じるイメージというのはそんなに変わらない感じがしますね。 

○どのように作品接して欲しいですか?
よく質問されますが、特にこれといった強いメッセージは無いです。自分の大切な思い出に出会いたい一心で作っているから・・・。僕と似たような経験をした方が、こころが穏やかになって、前向きになってくれたらと思います。


○最終日には作品を壊してしまうそうですね
『海に還るプロジェクト』と呼んでいます。公開制作をしたこの作品を最終日に来場者の皆さんと壊します。そして一部を持って帰ってもらい海に還してもらいます。通りがかりの堤防でも、旅行先でも、どこでもいいんです。

皆さんに撒いていただいた塩は海に戻って生き物の命を支えて、そしてまた巡り巡って再び出会うかもしれません。作品として出会うか、銀座の焼き鳥に振りかけられた形で出会うかは分かりませんけれど、そうしたことを考えると拡がりを感じます。

以前は自分の作品が触られるなんて、踏まれて壊されるなんて嫌でしたよ。今は参加者が思いっきり楽しんで、壊す様子を見るのが嬉しいし楽しいです。

  

塩=しょっぱい。塩にまつわるエピソードって、なんとなくマイナスなイメージにとらわれがちですが、こんなにもたくさんの想いが込められていたなんて思いもしませんでした。

家族、友人、恋人・・・。大切な人と一緒に作品を観て、思い出を作るのにとてもおススメです。

◇『海に還るプロジェクト』の詳細はこちらから
http://www.motoi.biz/japanese/j_project/j_project.html


2015.02.02 文・写真 青木美佳
(撮影協力:篠崎夏美)

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