11.13[木]~12.02[火] / 東京都 / GALLERY リトルハイ
【画像提供:GALLERY リトルハイ】
まるで生きているかのような、リアルな金魚を表現する‘金魚絵師’こと、深堀隆介氏。これらの作品は、容器に樹脂を流し込み、その上に金魚を少しずつ部分的に描き、さらにその上からまた樹脂を流し込む作業の繰り返しで制作されている。
非常に長い時間と集中力が必要とされる行程だが、絵を重ねることによって平面の絵が立体的になり、本物の金魚を封じ込めたように見える。この空前絶後の独自の技法によって、今や世界中で高い評価を得ている深堀隆介氏の展覧会イベントが行われる。
これまでに2度、深堀氏の作品を実際に見たことがある。器の中の金魚も、水の表現も、そこにあるとしか思えない。しかし、横から見ると透明なアクリルと薄い色の層があるだけ。とても不思議だった。
作品が生まれたきっかけは、今から14年前に遡る。2000年、スランプに陥っていた深堀氏は、ある時飼っている金魚を真上から眺めて、改めてその美しさとまるで絵画のように見える不思議さに驚いた。
金魚の姿に救われたことから、深堀氏はこの出来事を『金魚救い』と呼んでいる。2002年に器に樹脂を流し込んで、その上に直接金魚を描くというオリジナルの技法をあみ出した作品を発表した。 魚を描き始めるきっかけとなり、人生の転機となった。
この‘上から見た金魚’こそが、個展イベントの大きなテーマになる。
金魚酒-秋土岐 【画像提供:GALLERY リトルハイ 】
展覧会について「GALLERY リトルハイ」代表の小高さんにお話を伺った。
○個展開催の経緯
GALLERY リトルハイは今年の7月にオープンした。その準備段階から既に深堀氏の展覧会は企画しており、「ギャラリーがオープンしたら展覧会をやらせてください」という話をしていた。
○深堀氏の作品と出会った経緯
5年以上前、まだ深堀氏がここまで有名になっていない頃、たまたま見かけた深堀氏の作品に魅了された。衝撃を受け、ぜひ自身が館長を務める江戸川アートミュージアムに展示したいと思ったが、その頃はなかなか作品が出回っておらず、色々と調べてやっと手に入れたそう。
※ちなみに江戸川アートミュージアムでは、実際深堀氏の作品に触れることが出来る。
「今は人気がありすぎて、逆になかなか手に入らないですけどね(笑) 」とのこと。今回の個展のために制作された新作もあり、小作品の発売を予定している(販売は抽選方式。詳細はHPで確認)
○最初に作品を見た時の印象
まず初めに「美しい」という感想を持った。次に、作品が作られる方法を知って驚きがあった。見ているうちにだんだん印象が変わってくるところが興味深い。
○深堀氏作品の魅力
平面でもあり、立体でもあるところ。作家本人も水の中にいる金魚を眺めていてそこに驚き、美しいと思ったことが作品作りのきっかけになっている。
また同じ作品でも、何度か見ているうちに感じるものがあるというか、印象が変わってくる。何段階にも楽しめることが魅力 。キレイ、スゴイ、だけではなく深いテーマやメッセージ性がある。作家の心情、内面が表れていると言える。
一粒の麦が落ちて死ねば【画像提供:GALLERY リトルハイ】
筆者自身、深堀氏の作品を見て驚いたことがある。普通、死んだ金魚を描く作家はなかなかいないのではないか。
「一粒の麦が落ちて死ねば」は『一粒の麦は、落ちて死ななければ、それはただの一粒のままだ。だが、もし死ねば豊かな実を結ぶようになる』という聖書の一節から取られたものだろう。自然の中では死んだ仲間を食べて、他の個体が命を繋ぐこともある。 残酷、可哀想、という見方もあるかもしれないが、これも‘自然’なのだ。金魚もヒトも、生まれて、生きて、死んでゆく。大きな流れの中にある一つの場面に過ぎない。
しかし、そうは言ってもこの作品を見ると、死んだ仲間に2匹の金魚が寄り添い、その死を悼んでいるようにも見える。見る人によって、金魚たちが語るメッセージも変わってくるのかもしれない。
○今回の個展の見どころ
絵画作品も含めて20点前後、バラエティに富んだ作品が集まる。 作品を造り始めてまもない2004年ごろから最近のものまで、約10年にわたる作家の軌跡を見ることが出来る。東京で個展が行われるのも久しぶりとのこと。
また、オリジナルクリアファイル(450円・税込)の他、扇子、手ぬぐい、ポストカードなど金魚に関するグッズなども販売される。小髙さん曰く「扇子はそのまま額に入れて飾っても良いくらい、素敵な作品になっている」とのこと。
オリジナルクリアファイル(税込450円) 左:クリアファイル表、右:クリアファイル裏
○サブタイトルの“金魚は上見で。”に込められた想い
当初から“上見(うわみ) で”という言葉を使いたかった。深堀氏にも相談しており、本人から“金魚は上身で”というダイレクトな表現が来たそう。
現在のようにガラスの水槽が無かった時代、人々は甕や手水鉢に金魚を入れて、常に上から鑑賞していた。数百年かけて金魚は上から見るのにふさわしく、背中の色、ヒレ、体型などが改良されてきた。そして「上見(うわみ)」こそが、今でも金魚を最も美しく見る鑑賞法とされおり、日本の文化とも言える。
深堀氏の描く金魚達も、上見で鑑賞した瞬間から生き生きと泳ぎだすように感じられる。彼は金魚が一番美しくに見える視点を知っている。そして、金魚を表現するのに適した手法こそが、深堀氏の作品なのだ。金魚へのこだわりと愛が詰まった、まさに金魚の為に生み出された手法。これは他の生き物でやっても意味がない。
位相【画像提供:GALLERY リトルハイ】
普段ガラス水槽で横から眺めることはあっても、 上から金魚を見ることはあまりないのではないか?今回の個展では、深堀金魚が生み出される原点となった“上見の美”を感じられる様々な美しい金魚達が展示される。
10年前に「金魚救い」されたことがきっかけで生まれた作品たち。その一つ一つに金魚への思いが詰まっている。深堀氏は自分の作品を‘めでて欲しい’と言うそうだが、愛情込められた美しい金魚達を上から見下ろしてみよう。
2014.11.08 文・篠崎夏美