04.23[水]~04.28[月] / 東京都 / 劇場MOMO
ズッキュン娘
演劇を行っている団体の名前は、なかなか変わっているものも多いが、その中でも特に忘れられないインパクトがある。HPの説明によると、ダサくて可愛い“ダサかわ”集団、らしい。女性のみで公演を行っている。
劇団のロゴマークは、ピンクのハートを包丁がずぶりと突き刺しているもの。これまた相当なインパクトである。
キャッチコピーは、
「純度100!不純度100!右手に愛、左手に包丁持って 全力スマイル!」
・・・恐ろしい。でも気になる。
「2番目でもいいの♡」
劇団名とキャッチコピーも気になるが、そこにきて公演のタイトルがこれである。
劇団名とキャッチコピーも気になるが、そこにきて公演のタイトルがこれである。
しかもポスターにはセクシーな女性。つけてない!はいてない!(多分)
‘2番目’というマイナスを感じさせない、不敵とも言える微笑み。
‘2番目’というマイナスを感じさせない、不敵とも言える微笑み。
これはもう、決定的だ。観るしかない。
◆あらすじ◆ (チラシより抜粋)
開演前のBGMが1990年代のヒットナンバーで、何とも懐かしい気持ちになる。良く聞いてみると、全て『不倫・浮気』をテーマにした曲のような・・・?
チラシを見ていてふと思ったのだが、♡は2という数字が組み合わさって出来ているようにも見える。しかし、その片方は2をウラにしたものだ。狙っているのかは分からないが、今回のテーマを良く表現していると思う。
不倫がテーマでここまで笑えるとは・・・
開演するや否や、女性のマシンガントーク開始。圧倒されるも、どの会話も「分かる分かる!」と大きく頷きたくなり、一気に登場人物たちとの距離が縮まった。最初から思いっきり笑わされてしまった。
テンポの良い会話のやりとり、楽しい歌と、キレッキレのダンス。開始数十分で「見に来てよかった!」と感じた。楽しいだけでなく、登場人物のキャラクター、衣装、小物に至るまで、かなりリアルで、そこが物語をより身近なものにしていた。
上司と不倫中のマチコvs.不倫相手の妻・ヒトミ。個人的に一番の見どころは2人が喫茶店で対峙するシーン。マチコのOL仲間、ヒトミの主婦仲間も巻き込んで、OL対主婦の代理戦争にまで発展する。巻き込まれたカフェの店員さんが可哀想すぎるけれど、本当に面白かった。
ピュアであるがゆえの強さ、恐ろしさ。
少し前まで「不倫」という言葉には待つ、耐えるというイメージがあった。確かにマチコは会えない日々や、夜が明ける前に帰ってしまう相手にとてもツライ思いをしている。けれど、バレれば相手の妻と正々堂々と向き合い、謝り、そのうえで「絶対別れない」と宣言する。その上、1人で生きていく決心までする。
マチコは不倫という不道徳を犯しているし、相手の家族を殺したいほど憎んでいる。けれど、不倫相手への想いはとことんピュアだ。
一方のヒトミは、夫とその浮気相手を絶対に許せないし、死ねばいいと思っている。けれど、自分が築き上げてきた城である家庭を、夫を、見捨てることは出来ない。この頑なな思いもとことんピュアだ。
だから、怖い。人間のまっすぐな思いほど、強くて恐ろしいものはない。
ある時は浮気相手、ある時は妻。
細かい心理描写も素晴らしかった。不倫は不道徳なことと分かりつつ、なぜか主人公が憎めないのだ。それはきっと、すっかり主人公のマチコに感情移入してしまったからかもしれない。一方で、相手の妻・ヒトミの気持ちも痛いくらい良く分かる。
幸か不幸か、不倫をしたことも、夫の浮気が発覚するような経験もない。しかし、マチコとヒトミのあまりにリアルな言動によって、ある時はマチコに、ある時はヒトミに、場面が変わるごとにそれぞれの立場に立っていた。相対する立場にいる2人だが、どちらの気持ちにもなれる。それは役者さんのきめ細やかな心理表現と、迫真の演技によるものが大きい。
絶対的に不倫したマチコ、浮気をしていた夫が悪いとは思いながらも、「誰も悪くないのに、どうしたらいいんだろう」という疑問が消えない。それがどういった関係であれ、心から人を愛している人を、どうして責められるだろうか?
結婚の意味とは?幸せとは?皆幸せになる権利はある。しかし、その幸せが誰かを傷つけるとしたら?恐らく人類がこれまでも、これからも悩み続ける問いである。答えはまだ出ない。
それぞれの登場人物が、本当にまっすぐに、自分の気持ちに正直に生きている。だから余計に苦しいのだ。終盤は振り絞るような2人の演技に、思わず胸が熱くなってしまった。正直、まさかありきたりな‘不倫劇’でここまで感動するとは思わなかった。
本当は1番がいいに決まってる
2番目でもいいと言いながらも、誰だって1番になりたい。しかし、そうはいかないこともある。そこにどう向き合うか?乗り越えるか?という物語である。同時に、人間て凄い。人間て馬鹿馬鹿しい。人間て愛おしいと感じられ、最後は全部ひっくるめて人間が好きになる物語である。
極上のエンターティンメントでありながら、人の心にぐっさりと突き刺さるメッセージ。劇団ズッキュン娘のモットーは「人間の清らかな部分と醜い部分を描きながらも、全体的にはポップでキャッチーな作品へと仕上げていく」だが、まさにそれはこの演劇そのものだった。
2014.04.26 文・写真 篠崎夏美