「なんだかすごい展示に来てしまった・・・」
本を読んで、率直にそう思った。自分はとんでもない思い違いをしていた。
展示会場の片隅、テーブルに置かれたランプ。
深い緑色の表紙に金の文字が書かれた本は、まるで‘聖書’だ。
三方向を壁に囲まれた狭いスペースは‘懺悔室’である。
薄布の向こうには、神々しく輝く‘ステンドグラス’。
その下に鎮座しているのは、‘祭壇’なのだろう。
明和電機 EDELWEISS展
左:魚コード、右:オタマトーン
左:林檎のエンジン、右:歌う櫛
末京液(末京=マツキョウ。名前の由来はあの有名なドラッグストア)
左:末京銃。150種類の化粧品が入った、ガラス瓶の弾丸を発射するマシンガン。
右:プードルズ・ヘッド。エンジンで駆動するナイフが並んだアゴで、メスを噛み砕く装置。
04.19[土]~06.01[日] / 千葉県 / 市川市芳澤ガーデンギャラリー
さまざまなナンセンスマシーン、商品を開発し、国内外でのライブパフォーマンス、展覧会と、これまでのアートの枠組みを超えて、広く活動している明和電機。この展覧会イベントは、明和電機の4つの芸術製品シリーズの中から「EDELWEISS(エーデルワイス)」に特化して、作品を紹介するもの。
明和電機の‘代表取締役社長 ’である土佐信道氏の「女性とは、そして生物的なメスとは何か?」という疑問がテーマになっている。今も昔も多くの芸術家が女性をテーマにした作品を作っている。 男性にとって非常に不可思議で魅力的な存在であり、同時に畏怖も感じる女性。
女性が持つ「子宮、遺伝子、表層、ファッション、エロス、母性」などの特徴を、架空の結晶の花「EDELWEISS」に象徴させた。これは女性が非常に強く、男性が弱いという架空の物語。土佐信道氏によるおとぎ話の世界なのだ。
左:魚コード、右:オタマトーン
私にとっての明和電機は、「魚コード」や、「オタマトーン」だった。日本を代表するアーティストというのは知っているが、大変失礼ながら‘青い作業服を着て面白い楽器を演奏する’人たちというイメージだった。しかし、展示を見て頭を後ろから殴られたような、自分がどこにいるのかも一瞬分からなくなるような衝撃を受けた。
緻密に作られたおとぎ話
創作ノート、アイデアスケッチ、ドローイングなどを見ると、かなり細かい設定があり、それに沿って物語が作られたことが分かる。また、土佐信道氏 がなぜこのシリーズを作ろうと思ったかという思考も記されており、興味深い。
デザインだけでなく、例えばその機械がどうやって動くかまで考えられている。 正確な設計図、そして絵本の挿絵のような美しいデザイン画。これらによって物語は成り立っている。
左:林檎のエンジン、右:歌う櫛
このジオラマ人形は「EDELWEISS」の物語の場面を表している。 これだけ見ると、科学的なメルヘンの物語のような印象を受ける。
物語を読んで、戦慄を覚えた。
冒頭でも紹介したコーナー。小さな机と椅子が置かれていた。机にはランプとエーデルワイスプログラムの本。厚みはあるが各ページに描かれているのはごく短い文章だ。 この本は会場の様々なところにあるので、ぜひ読んでいただきたい。
末京液(末京=マツキョウ。名前の由来はあの有名なドラッグストア)
科学的で無機質な冷たい花、ロマンティックな白い花。
そういったものを想像していくと、見事に期待を裏切られる。白く可憐に見えた世界。そこには、欲望、不安、混沌、尽きることのないドロドロとしたものがうごめいていた。目を背けたくなるのだが、それらは悲しくもあり、身近で愛しいものでもある。また、物語には少子化、ジェンダー、資源・ゴミなど、今の私たちが直面する問題があちらこちらに出てくる。
物語を実体化する
会場は大きく2つに分けられる。デッサンなど、物語の‘種’を紹介する部分と、そこから咲いた作品である‘花’を紹介するコーナーだ。
強く、己の欲望に忠実なメスたち。そんなメスに愛想を尽かして月に逃げたオスたち。そこで独自の暮らしをしていたが、主人公の‘ボク’が計画を立て、ある時メスに対する反乱を起こす。
「メス・女性」がテーマということもあり、性とは何か?生きるとは何か?ということについても考えさせられる。
左:末京銃。150種類の化粧品が入った、ガラス瓶の弾丸を発射するマシンガン。
右:プードルズ・ヘッド。エンジンで駆動するナイフが並んだアゴで、メスを噛み砕く装置。
左:サバオ・マスク、右:花サバオ
これは13週目の胎児で、人間と魚類の中間の顔なのだそうだ。
これは13週目の胎児で、人間と魚類の中間の顔なのだそうだ。
機械なのに‘一生懸命’
祭壇のような場所では、1日3回自動演奏が行われる。今回は「麦の歌」だった。マリンカという花形木琴、自動ピアノ、メカフォーク(ギター)による演奏。無機質な機械なのに、‘一生懸命’さというか、生命力のようなものを感じた。
このピアノは芳澤ガーデンギャラリーのもので、ジャズやクラシックのコンサートでも使われているそう。西川ピアノという日本に数台しかない貴重なもので、そこに自動演奏装置を取り付けている。伝統と現代の技術の融合である。
明和電機って何者?
和室には明和電機のこれまでの歩みや、作品を振り返る展示もあった。私が持っていた明和電機のイメージはまさにこんな感じ。しかし、調べてみたところ、これらの作品も非常に深い問いかけや、思想に端を発していた。自分はなんと表面しか見ていなかったことか。なんともったいないことをしていたのか。
造形、電気回路 絵、曲、物語・・・。どれだけの分野で才能を発揮するのか。このイベントで、明和電機の底知れぬ才能と可能性を体感した。千葉では初、首都圏では10年ぶりの単独展覧会とのこと。明和電機を知っている人はもちろんだが、良く知らない人にこそぜひこの世界を体験して欲しい。
グッズ売り場も充実している。社訓「やったもんがち、とったもんがち」、活動方針「やりにげ」を掲げているだけあって(?)、グッズには書籍、明和電機製品の他、金太郎あめ、瓦せんべいまであった。金太郎あめは細く伸ばす前のものもあって、かなりの迫力。
花と緑に囲まれて
芳澤ガーデンギャラリーにはその名の通り、美しい庭がある。これも今回の展示で大きな役割があるという。花の庭園が美しい場所で、花にまつわる作品を展示する。当初、より世界観を伝えるために映像を上映する案もあったのだが、土佐氏から「静かに見て欲しい」と言う要望があり、今回の形になったのだそうだ。
確かに静かで緑に囲まれた空間は、この上ない舞台装置である。
エーデルワイス。高地に咲く白く可憐な花。
ドイツ語でEDEL(高貴)WEISS(白)という意味がある。
花言葉は「高貴」、「大切な思い出」、「勇気」、「忍耐」。
この展示を見れば、全ての花言葉が物語に含まれていることが分かるだろう。
美術館から門までの間に、白くて可愛らしい花が咲いていた。
白い花が作品の世界と、私たちの住む世界を繋いでいるようにも思えた。
2014.04.24 文・写真 篠崎夏美