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ルネッサンス×サブカル!? 美術館がファンタジーゲームの世界に 「ニコラ ビュフ:ポリフィーロの夢」

アイコン古今東西の文化を‘まじめに遊ぶ’

2014/04/19(公開:2014/04/19)
GAME START

あなたは物語の主人公・ポリフィーロ。
夢の中で、恋人のポーリアを探して冒険の旅に出る・・・。


閑静な住宅街にある美術館の入り口は、大きなオオカミの口になっていた。



鋭い牙に恐れを抱きつつ、主人公はオオカミの口に入っていく。


 

そこは、ある一冊の本をテーマにしたゲームの世界。 


「ポリフィーロの狂恋夢」
1499年にイタリアで出版されたルネサンスを代表する本。主人公・ポリフィルスは夢の中で、恋人のポーリアを探す。その途中、不思議な動物、妖精などに出会う。ギリシャ語の題名「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」には、‘ポリフィーロの夢の中の恋の戦い’という意味がある。

この本は、最初期の活版印刷:インキュナブラの中でも特に有名なもの。緻密な木版画の挿絵、格調高いページ・レイアウト、優雅なタイポグラフィー。そして、新語で書かれた謎めいた文章。内容は古代建築、錬金術、植物学などの幅広い教養を感じさせる不思議なものだ。




そして、その奇書と同じ棚に置いてあるのが『ゼルダの伝説』のゲームと、『宇宙刑事ギャバン』のフィギュア。彼に影響を与えたヨーロッパの古典文学、テレビゲーム、特撮ヒーロー、これらが混然一体となった物語の世界を旅するのだ。




4.19[土]~06.29[日] / 東京都 / 原美術館


フランス人アーティスト、ニコラ ビュフさんによる美術館初の個展イベント。彼は日本やアメリカのマンガ、アニメ、特撮モノ、ゲームなどから多大な影響を受けた。そして前出の本、 「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」を読んだ際、『ゼルダの伝説』、『スーパーマリオブラザーズ』、『ファイナルファンタジー』など、和製ビデオゲームとの共通点を多く見つけたという。

本に貼られた付箋の数が、ニコラさんの「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」への興味を表している。彼にとって非常に愛着があるものらしく、展示の為に3か月本を読むことが出来なくなってしまった、と嘆いていた。また、ギャバンの人形は、彼の3歳の息子さんが大切にしているもの。展示の為にこっそり持ってきてしまったそう(!)

西洋と東洋、伝統と現代の文化が混在したゲームの世界が作り上げられている。

 

東京在住・フランス人アーティスト ニコラ ビュフさん



STAGE1:プロローグ

可愛らしい子供の声が語るのは、ポリフィーロの物語(ナレーターを務めているのはニコラさんのお子さん)モノクロと赤で表現される、シックで幻想的なお話がこのゲームの舞台だ。

さぁ、夢の中で助けを求めるお姫様、恋人のポーリアを探しに行こう。




最初の部屋で出会うのは、ユニコーンの皮。

陶器とタペストリー(織物)で作られた一角獣は、有名なタペストリー『貴婦人と一角獣』から発想を得ている。その象徴でもある一角獣を殺し、皮にするという‘死と向き合う’ステージでもある。




ふと見上げると中二階に小窓がある。

古いロマンス物語ならあそこからお姫様が顔を出すのかもしれない。長く垂れ下がったカーテンの模様は、第六感を表している。




STAGE2:レベルアップ



雲に導かれ、階段を昇る。


  

グロテスク装飾のステンドグラス。

不思議な植物、文様が織り混ざったアラベスクは、90年代の2Dプラットフォームゲームのステージになっている。台から台へと飛び移ったり、梯子を登ったり、誰もが一度は見たことがあるような「ゲーム」のステージを進む。





STAGE3:アイテムを手に入れる



小部屋で見つけたのは、ヒーローの甲冑。
これで‘スーパーポリフィーロ’に変身!

ニコラさんが大好きだった『宇宙刑事ギャバン』と、中世の甲冑が一体化したスーパーアイテム。子供の頃に誰もが夢見るコンバットスーツは、ポリフィーロの身体に合わせたサイズ。制作は実際に『宇宙刑事ギャバン』のスーツを制作したレインボー造形企画。




STAGE4:ボス戦

 

メデューサが危険を告げる扉を入ると、そこには緊張の瞬間が。

甲冑は主人公(大人)サイズになる。自分のキャラクターを動かして、恐ろしい敵と戦わなくてはならない。暗い部屋、大画面、迫力ある音響、実際にゲームの中に入り込んだようだ。戦っているのはスクリーンの幻影と分かっていても、本能的な恐怖と興奮を覚える。




STAGE5:ヒーリングスポット



鏡の床に置かれたカプセルに入り、ボス戦で失った体力(HP)を回復する。

小さな入り口から入るカプセルは、瞑想空間にもなっている。内部は越前和紙とアルミ箔の金色の壁になっており、いくつもの光が反射する。金閣寺の内部と外部を反転した茶室のような建造物に、ヨーロッパの宗教画のような聖なる光が差し込んでくる。




STAGE5:ラストステージ

  

最後の部屋で体験するのは、キューピッドの凱旋。

各所に‘Nemo’という言葉が描かれているが、これはラテン語で‘誰も’を意味する。キューピッドが象徴する愛の力には、誰も抗えないということを示している。黒い板や、黒く塗った壁に、白のチョークで軽やかに描かれた可愛らしいキャラクター達が迎えてくれる。


  

ポリフィーロは夢の中で、何度も‘愛の力’(=キューピッド)に捧げられる勝利の行進を目にする。壁一面の大きなドローイングを見ながら歩くことで、鑑賞者もいつのまにか一緒に凱旋パレードをしている。

描かれているのは、ギリシャ神話(レダと白鳥、キューピッド)、日本の風神雷神から発想を得たモティーフ、フランスのことわざ『象はネズミを怖がる』、アニメのキャラクターなどさまざま。ポップにデフォルメされたキャラクターたちは違和感なく共存し、パレードを続ける。 

  

ポリフィーロが好きな‘ポーリア’には、 古代における知の女神という意味がある。ポリフィーロはポーリアが好き=古代の知識が好きな人ということになる。中央のレリーフは3Dプリンターで制作されている。作品からいくつも伸びる獣の手は、千手観音など仏像もイメージさせる。




STAGE6:エピローグ   



窓の外に目を向けると、木の下で眠るポリフィーロが。

ガラス越しに見る景色は、ここがポリフィーロの夢の中の出来事であることを気付かせる。幾重にも重ねられた層、最初と最後を繋ぐ円の中に私たちはいたのだ。‘夢オチ’は日本のアニメ・マンガではある種の禁じ手ではあるが、ニコラさんは「現実は夢の延長線上。いつもつながっている」と語った。

To Be Continued・・・?


単純にも見える世界だが、いたるところに伏線があり、暗喩が込められている。ぜひ、ストーリーを追って順番に体験して欲しい。展示中は‘案内人’が訪れる主人公たちを案内してくれると言う。案内人はただ美術館で監視する役割ではなく、演劇やテーマパークにも通じる、物語と来場者を繋ぐ役割を果たす。ニコラさんが手がけた衣装のデザインにも注目だ。




ほとんどの作品は白黒だが、これは美術学校に通っていた際によくチョークでドローイングをしていたことが影響しているそう。また、鉛筆、チョークなど白黒で描くことにより、表現がシンプルになり複雑な図案でも重くならないとのこと。

確かに、白黒の世界でも全く殺風景さは感じない。生き生きと描かれた模様やキャラクターに加え、自分もモノクロの世界に入り込んでいるので違和感を感じないのかもしれない。

ちなみにニコラさんが着用しているのは『ゼルダの伝説』の主人公、リンクが描かれたTシャツ。大好きなゲームで、先日任天堂の方が来た際にゲームにサインしてもらおうと思ったが、あまりの緊張で忘れてしまったそう。入り口に展示してあったのがそのゲームだ。




隠しキャラ

  


   

ウルトラマン、鉄人28号、宇宙刑事ギャバン、銀河鉄道999など、ニコラさんに影響を与えた作品へのオマージュも見られる。そうしたキャラクターを探し出すのも楽しい。





西洋と東洋、古典と現代、芸術とサブカルチャー。相反するようで、繋がり、融合した作品世界。今回の展示のキーワードは「まじめに遊ぶ」。 ポップカルチャーの象徴であるアニメやゲームの世界を体験しながら、知らず知らずのうちに、格式高い芸術の一部も体験出来る。

ニコラさんは『遊びがないと笑えない』と話してくれた。主人公となって、ファンタジーの世界になった美術館で遊ぶことで、壮麗で、ポップで、普遍的な「夢と愛」、「闘いと勝利」、「死と再生」というテーマを体験出来る、現代版冒険活劇である。



2014.04.19 文・写真 篠崎夏美
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