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誰でも一度は見たことある!映画を支える‘文字職人’「赤松陽構造と映画タイトルデザインの世界」

アイコン映画で一番ワクワクするところ

2014/04/16(公開:2014/04/16)
ここに並べたものは日本映画の名作ばかりだが、それ以外にも‘ある共通点’がある。

何だかお分かりだろうか? 

   


    
左上から時計回りに 「ゆきゆきて神軍」、「BROTHER」、「菊次郎の夏」、「ウォーターボーイズ」


それは映画のタイトルデザインだ。

これらの作品の題字は全て同じ人が書いている。他にも、「東京裁判」、「Shall we ダンス?」、「それでもボクはやってない」、「うなぎ」など、400本以上の映画に関わっている。

正直、その方のお名前はこの展示で初めて知ったのだが、過去のお仕事を見るとどれも見たことがある映画やドラマばかりで驚いた。間違いなく、日本で一番「自分が書いた文字を見られている」人ではないだろうか?



赤松陽構造と映画タイトルデザインの世界

04.15[火]~08.10[日] /東京国立近代美術館 フィルムセンター7階展示室




赤松 陽構造(あかまつ ひこぞう)さんは、映画タイトルデザイン界の第一人者。そんな彼の業績を、日本の映画タイトルデザインの歴史と共に振り返る。
 
映画の最初の見せ場なのに、意外と印象に残らないタイトル画面。しかし、意識はしていなくても、タイトルは映画の印象を左右するとも言えるくらい重要な要素の一つである。今回の企画を担当した学芸員の方も「映画の題名は誰も見ているのに注意を払わないもの。しかし、題名があってこそ映画は生きる」と仰っていた。

赤松さんはこれまで数々の名監督から信頼を得て、その作品作りに携わってきた。大切な仕事を任される頑固な職人というイメージがあったのだが、実際にお会いしてみると物腰の柔らかな、優しそうな方だった。


赤松陽構造さん

シンプルだけれども本質的な言葉をひとつひとつ選んで丁寧に話すところは、無駄のない職人の仕事をイメージさせる。赤松さんは挨拶の中で「映画を下支えしている人間は多くいる。その中で選んでいただき、展覧会が出来ることは幸せだ」と語っていた。

私にとって映画のタイトルは、その映画の表す「顔」であったり、全体をまとめる「額縁」という印象だったが、赤松さん本人は以前インタビューで『タイトルはスパイス』と答えていた。タイトルによって作品の印象が少し変わる、隠し味のような役割と考えているそうだ。




映画のタイトルデザインとは

そもそもタイトルデザインに関する先行研究がなく、 今回のイベントで新たな情報の掘り起こしなども行われたそう。フィルムセンターには様々なところから古い映画フィルムが集まってくるが、そうしたものの中から映画に関わった人のデータを集めたりもしたとのこと。

また、タイトルデザインは題字だけでなく、トップクレジット、劇中に出てくる地名・人名・年号、エンドクレジット、エンドマークまで、映画に出てくる文字は全て関わると言っても過言ではない。作品全体を通して一貫性のある、その映画にあったものが使われる。また、出す速さや場所によって人に与える印象まで変わってしまうのだ。



日本の映画タイトルデザインの歴史

昔は黒く塗りつぶしたフィルムに白い文字を写植し、少しずつ動かしながらカメラで撮影していたそう。描いた文字をコマ撮りするとんでもなく労力がかかる作業だ。しかも、自然光でしか撮影出来なかった時代もあり、屋外で作業をすることもあったようだ。

しかし、その当時のタイトルロールを見ると切り貼りした文字に‘人間の仕事’を感じられる。味わいがあり、文字がただの情報ではなく作品の一部ということを実感出来る。「キネマ文字」と言われる独自のデザインや、文字を見ればどんなジャンルかも分かる特有のデザインもあった。

   
左:タイトルデザインの裏紙にシナリオが描かれている。今回の展示ではむしろ裏の方が貴重な資料。
右:タイトルの背景には絵やレリーフも写っていて、独特の雰囲気。

  
左:黒澤明監督「七人の侍」のタイトル文字など。文字を見るだけで映画の力強さが伝わってる。
右:1960年代は新しい世代の監督による映画が作られ、有名な書家、画家がタイトルを描いた。

シンプルだったタイトルが、時代と共に出し方やデザインなどより凝ったものになっていく流れが良く分かる。イラストレーター和田誠氏は映画の面白さについて「一番の見どころ、最もワクワクするところはタイトルが出るところだ」と語ったそうだが、確かに並べられたタイトルを見ているだけでもどんな映画なのだろう?とワクワクしてくる。

 


赤松陽構造の映画タイトルデザイン

45年にわたって映画の文字を作り続けてきた赤松さんの仕事を紹介。映画のタイトルはもちろん、ドラマ、企業のロゴなども手掛けている。また、実際の文字だけでなく、パンフレット、チラシ、グッズなども展示されている。

   
墨で書かれたタイトル。作品によって雰囲気が大きく異なる。

近寄って見てみると文字の払い、墨の染み方など、細かいところまで分かって面白い。北野武監督の「BROTHER」では、Tの上の棒を敢えて‘右から左’に書いている(左の写真・中央の文字)こうして書き順を意図的に崩すことで、社会からはみ出た男たちを表しているのだ。ちなみに、この作品は墨のこびりついた割り箸で書かれたらしい。


 
25作品のタイトルが並ぶパネル(ここのみ撮影可能)



赤松陽構造の仕事部屋

赤松さんが実際に使っている道具などを見ることが出来る。筆、鉛筆、クレヨン、先ほど登場した割り箸、小枝まで(!)、実に様々なものを道具にしている。その作品の雰囲気を表すために、様々な道具を試すのだ。『映画タイトルデザインの巨匠、筆を選ばず』である。

また、墨やインクがどのように紙に染みこむかによって、紙も変える。作品のイメージにあうものが出来るまで、試行錯誤を繰り返すのだ。何気なく見ているタイトルにも、数々の工夫がある。

   
この道具であのタイトルが書かれたと思うと感慨深い


   
左:スケッチブックには三谷幸喜監督「有頂天ホテル」のタイトルデザインも。
右:会場外には公開前の最新作「美しいひと」のタイトルデザインが展示されている。




金沢での展覧会のイベントタイトルデザイン


「文字って自由なんだ!」という言葉に、赤松さんの想いが込められているように思う。映画のコンセプトを自分なりに理解し、シナリオを読み、時には現場に足を運び、そ映画の雰囲気、あり方を感じて文字にする。そこに決まった形はない。

赤松さんは最後に「アナログからデジタルになったことで、映画の底辺を支えてる様々な技術や経験を持った人が少なくなっている。こうした技術を伝えていければいい」と語った。最近人に向けて文字を手で書く機会が少なくなった。手書きだからこそ伝わることもあるのだ。

展覧会を通じて、文字であり、同時にデザインでもある「映画タイトルデザイン」の奥深さを知ることが出来た。この映画はどんな映画か?何を言いたいのか?もし次に映画を見るときは、タイトルデザインや映画の文字に着目してみようと思う。



2014.04.14 文・写真 篠崎夏美
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