こたつだ。
こたつがある。
広い空間の一番奥に鎮座しているのは、見紛うことなきこたつである。
こたつには『はんてん』を着た人が入っている。古き良き日本の風景。
しかし、お馴染みの風景を取り囲むのは、アートギャラリーの白い壁と、そこに掛けられたアヴァンギャルドな作品の数々。
かなりシュールな光景だ。
近付いていくと、「どうぞ入ってください」と声をかけられた。言われるまま靴を脱いでこたつに入り、そのままインタビュー開始。
・・・なんだこれ。
伊藤雅史さん(左)と大塚聰さん(右)
声をかけてくださったのは、今回のイベントを主催する現代アーティストの伊藤雅史さん。ちょうどお昼を食べていたところだったらしい。湯飲みや、お菓子まであり、何だかいきなり親戚の家に遊びに来たような気分になってしまった。
これも『人を堕落させる悪魔の道具』と言われるこたつの能力だろうか。
でも、この落ち着く感覚、抗えない・・・。
04.29[火]~05.06[火] / 東京都 / The Artcomplex Center of Tokyo
現代美術家・会田誠氏が提唱した「日本人は机に向かってチマチマと細かい作業をするのが向いていたり、好きである」という理念を持った‘こたつ派’は、架空の美術ムーブメントの名称である。
今回のイベントは、その考えを引き継ぎ‘掘りごたつ派’ として活動している、会田誠さん公認のアートユニットによる展覧会。紙ナプキンに会田氏が「やごーはくれてやる あいだ」とサインペンで書いた作品がHPに掲載されているが、このようにして‘こたつ派’の理念は‘掘りごたつ派’に継承されたのだ。
ちなみに、会田氏はTwitterで「理念って、さすがに大袈裟すぎるでしょ…。ま、知り合いの若手企画者に、僕が昔企画したグループ展の名前を貸してあげたただけで…一種のシャレです。」と発言している。
この展示では掘りごたつ派が主軸となり、様々なジャンルの作家をキュレーションして、大きなムーブメントを作り出している。およそ20名の作家が参加している。主催の伊藤さんが、展覧会などを実際に見て良いと思った人などに声をかけて実現したという。敢えて‘友達同士’でない人を集めることにより、新鮮さや、何が起こるか分からないと言うワクワク感を出したかったそうだ。そのため、非常に作風も幅広く、カラフルな印象を受ける。
また、‘掘りごたつ派宣言’によると彼らは『昨今のアートシーンにおける権威や停滞に「革命」を起こすべく立ち上がる集団』らしい。こたつから出てきて、アート界にハリケーンを巻き起こし、新たな次の流れを作り出すのは掘りごたつ派かもしれない。
「プ○イボーイ」で仲良く盛り上がる掘りごたつ派メンバーの皆様
一方で‘掘りごたつ’が持つ、日本らしさ、温かみもそこには確かに残されていた。靴を脱いで、狭い空間に足を突っ込み、一枚の布団の中に入り、膝を突き合わせる。他人との身体的な距離を気にする海外の人にとって『こたつ』はかなり抵抗があるのだという。
しかし、日本人にとっては皆が集まってくるコミュニケーションの場であり、作業の場であった。誰しもこたつで宿題をしたり、年賀状を書いた記憶があるのではないだろうか?
暖房器具であり、作業台であり、交流場であり、時に寝具(高確率で風邪をひくが・・・)でもあるこたつ。それは我々日本人の魂と深く結びついた存在であると言っても過言ではない。西洋化したアート界、社会全体へのアンチテーゼの象徴が掘りごたつなのだ。日本という小さな島国にも、欧米に負けない良さがあることを再認識させることも、活動の目的のひとつである。
ちなみに、このこたつの下にはきちんと畳が敷かれており、電源も入る。 (この日は暖かかったので電源OFF)
そして、はんてんは掘りごたつ派のシンボル、いわば公式ユニフォームである。「暑くないですか?」と聞くと『暑いです。でも、これは脱げないですから…』とのことだった。いつの時代も自分の思想を掲げ、貫くことには代償が伴うものである。
そして、はんてんは掘りごたつ派のシンボル、いわば公式ユニフォームである。「暑くないですか?」と聞くと『暑いです。でも、これは脱げないですから…』とのことだった。いつの時代も自分の思想を掲げ、貫くことには代償が伴うものである。
床に敷き詰められた名画の数々。なんと、この上を歩いても良い。
こたつにたどり着くにはここを歩かないといけない。しかし、やはり多くの人がためらうらしい。踏絵のようで初めは気が引けたが、絵を踏んだ時の背徳感と、破壊衝動の昇華(?)はえもいわれぬ快感である。
左)可愛い太陽、ではなく「血しぶき」のゆるキャラ。反暴力を訴えている。
絵画、陶器、立体など、様々なジャンルの作品がある。
左)ダンテの「新曲」を現代解釈して生まれた造形。中2でなくても心が躍る!
右)木魚にペイントを施した「木魚えもん」。ネットでも話題になっていたが、怖すぎる・・・。
人の顔が描かれているのだが、良く見ると天狗の面!見方を変えることで全く違った作品になり面白い。
学生服、中でもセーラー服は良く見かけるテーマである。少女性、日本性の象徴とも言える。
ハンコで描かれた作品。ハンコも日本的。
ポップな色・柄のこけし。伝統工芸であるこけしを新たな日本のポップ・カルチャーとして表現。
デジタル全盛の今、手作業でチマチマと作り上げた作品たち。そこは失われつつある日本の‘手技’がある。そうして造られた作品には、作り手の血と、汗と、思いが詰まっている。
馴れ合いの傷を舐め合うようなグループ展ではなく、それぞれの独自の世界が展開する個展が集まった渦。それは作家、鑑賞者、全ての人々を巻き込み、ハリケーンのように大きな渦となる。
床を切り下げて作り出した‘掘りごたつ’空間には、情熱、可能性、表には出ていない様々なものが眠っているのかもしれない。
‘掘りごたつ’というマッタリ、ホッコリな言葉のイメージからは想像も出来ない、偉大にして熱いパッションを持った集団、それが‘掘りごたつ’派なのだ!
2014.04.30 文・写真 篠崎夏美