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武士がネコ耳、タケ○プター、シャネルの鎧!?嘘か誠か、摩訶不思議・戦国ワールド 「野口哲哉展―野口哲哉の武者分類図鑑―」

アイコン「そうそう、こういう兜あるある。・・・ねーよ!」違和感が行方不明

2016/11/20(公開:2014/02/22)

東京・練馬区立美術館
 



    
樹脂、プラスチックなど現代的な素材を使い、時を経た風合いの鎧武者を造形する野口哲哉氏の初個展。歴史を題材として豊富な知識に裏付けられたそれらの作品は、極限までリアルで本人いわく‘でっち上げ’の世界である。現実とも空想ともつかない、不思議な魅力に溢れている。


どこまでが本気で、どこまでが冗談か分からないが、そこが面白い。真面目で、一生懸命で、思いっきり遊び心がある展覧会だった。野口氏は「芸術」だとか、「おふざけ」だとか、そういった概念を捨てて、自分が心から面白いもの、自分が欲しいと思える作品を作りたいと思ったそうだ。見る側も、難しいことは抜きにして、ただ面白がればいいのだ。こんなに贅沢な楽しみ方はない。

※尚、練馬区立美術館様より作品の撮影許可を得ております。




【違和感仕事しろ】 本当にこんな人たちがいたかもしれない・・・



 

煙草を吸う老人。傍らには煙草の箱が置かれている。一見何気ない日常の一コマだが、この時代はまだ紙巻タバコはなく、煙管が一般的だった。ナチュラルすぎて、歴史的な情報を知らなければどこか変なのか分からないだろう。巧妙に仕込まれたフィクション、楽しんで騙されよう。





鎧兜など重装備のイメージがあるが、実際の合戦では軽装の人もいたらしい。スパッツ姿の、まるで陸上の短距離選手のような武士。首を曲げ、軽くストレッチをしているようにも見える。レース前の緊張の一瞬(?)が切り取られている。甲冑にスポーツブランドのロゴが入っていても驚かない。


               



良く見ると、スニーカーにショルダーバックを装備。ちょと猫背気味の姿勢と言い、こういう大学生いるよなぁ、と思ってしまう。バイトの休憩時間だろうか。落ち着いた緑とオレンジがさし色になっていて、なかなかのお洒落さんである。




 

‘企業戦士’とはこんな人のことを言うのだろう。重そうな鞄、遠くを見つめる目に、思わずガンバレ!と声をかけたくなってしまう。これから重要な案件があるのだろうか。「課長、私が行きましょう」 悲壮とも言える決意を胸にした彼の顔は、どことなく晴れ晴れとしていた(妄想)





「先にシャワー浴びてこいよ」
と言わんばかりの表情である。当時、赤は非常に高級な色で、富や権力の象徴だった。また‘赤備え ’はエリート部隊の証でもあった。このややくたびれたおっさんも、じつはすごい武士なのかもしれない。そう思うとこのドヤ顔も納得である。作品はそこまで大きくない。だが、鎧は勿論、髪の毛、スネ毛(!)まで、かなりリアルである。






「ヨロシク侍!」というフレーズが浮かんだが、何の事だか自分でも分からない。‘よろしく’というのは非常に便利で、かつ日本的な言葉である。この人は何を‘よろしく’なのだろうか?作者にも分からないらしい。





「No Music,No Life」を体現する武士。胴部に‘は言わざる’が描かれている。作品のタイトルは『誰モ喋ッテハイケナイ』となっている。音楽を聴いている時は誰も邪魔をするな、ということだろうか。手にはしっかりポータブル音楽プレイヤーが握られている。当時そうした機械があれば、戦場では音楽が侍たちの士気を高めたり、心を癒したりしただろう。一体どんな曲を聴いているのか気になる。




           

高級ブランド‘シャネル’の甲冑を身に着けた武士。‘紗練(しゃねる)’家に伝わるものだそう。さすがシャネル、甲冑になってもどことなく高級感が漂う。紗練家の起こりは戦功を認められ、主君からシャネルのハンドバックを下賜されたことによるという。また、一説には南蛮商人の娘を助けてお礼にもらったハンドバックが由来とも言われる。ただし、こちらについては資料が無いため信憑性が薄いとのこと。




野口氏のイラスト。立体作品とはまた違った雰囲気で可愛らしい。

制作過程も紹介されている。





ファンタジーな武士、SFな武士 
 


兜がお説教!?
何やら兜のクマ(ウサギではないらしい)にお説教されているらしき若者。実は、この作品の横には、若者のご先祖様と兜クマの絵もあるので、ぜひそれと見比べていただきたい。兜クマの発言力の移り変わりに注目。





これは平成20年、某所で発見された「小兵」の図である。発見者によると、少量の果物野菜を食べ、瞑想する様子などを見せていたが、数日後忽然と消えてしまったらしい。まるで
妖精のような侍である。フェアリー侍、これは新しい。


立体だけでなく、絵画も非常にリアルである。この場合のリアルは、描かれている絵というより、主に紙や、絵の描き方に言えることである。この色、染み、シワ!どう見ても年代物の掛け軸である。




昆虫のような武士、というか、武士のような昆虫の標本。こんな侍が日本のどこかにまだ生きているかもしれないと思わせる。





こちらも小さな侍たち。中央の人物は缶コーヒーの空き缶で出来た甲冑を身に着けている。小人たちが武器を作るとしたら、鉄くずやごみを使うのではないか?という発想から生まれたそう。多数の目撃証言がある
‘ちっちゃいおっさん’は、もしかしたらこうした侍たちの末裔かもしれない、そんな想像が思い浮かんだ。




       



芸人が巨大ペットボトルロケットで飛ぼうとしたことから着想を得たという作品。上の作品は古びた木の風合いが非常にリアル。もしかすると、遺物が出てこないだけで本当にこんな‘ロケットマン’武士がいたかもしれない。




スタイリッシュ武士。
工学の鎧は未来的な素材で作られている。芝浦工業大学とのコラボの際に作られた作品。技術がチカラになることを表現している。戦国時代がずっと続いていたらこんな鎧がいつか出来ただろうか?今の平和な世の中だからこそ生まれたのではないか。




ドラ○もんに出てきそうな道具で飛び回る武士。上部にはロケットマンの姿も。


この手と、きっちりそろえた足が可愛い。

かのレオナルド・ダ・ヴィンチもプロペラのようなスケッチを残している。戦国時代にプロペラのアイディアがあったとしてもなんら不思議はない。





萌える!武士魂


猫用の鎧

猫好きの武士・江古田兵庫介が作らせたもので、非常に高価らしい。実際に愛猫に着せようとするも、激しく抵抗され江古田は傷だらけになってしまう。心配する家臣をよそに「戦場に赴くのに、武具を拒むとは、誠殊勝の極み!」と彼は感動していたらしい。さすが、武士の飼い猫だけあって潔い。これぞ武士道!?






ネコ耳の武士。こんなに萌えないネコ耳は初めて・・・!!猫のお散歩中?にも見えるが、もしかすると戦場かもしれない。敵将がこんな奴だったら、膝から崩れ落ちてしまうかもしれない・・・。ある意味、こいつには勝てない気がする。







ウサ耳武士までいた。何だろう、この‘ちょっと恥じらい’乙女なポーズは・・・。自分の上司がこんな指揮官だったら嫌だ・・・。若干いらっとさせられるが、なんだか可愛く見えてきてしまう。しかし、実際に動物を象った兜があったことも事実である。今こうして見ると不思議な感じだが、当時は至って普通のデザインだったかもしれない。



ある寺に残された遺物だとか、地域に残された伝承だとか、古い雑誌だとか、解説だとか、いかにも‘それっぽい’が全て野口さんの想像である(一部私の妄想も含む)

野口さんの作品を見ていると、事実と虚構の区別がつかなくなってくる。それが面白い。武具についての豊富な知識、リアルな表現によるカッコよさ。しかし、その情報が正確であればあるほど、精巧な作りであればあるほど、シュールでユーモアあふれる世界観が出来る。独創的で、ちょっとだけ悲哀を含んだサムライたちの姿は、なぜか親近感を覚えてしまう。

勇猛で、精巧で、洒落が効いている武士たちに、ニヤリ。思わず武者分類(むしゃぶるい)してしまう。もしかしたらあったかもしれない、不思議な世界にわざと迷い込む楽しさがある。

               

2014.02.22 文・写真 篠崎夏美               
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