東京・パルコミュージアム
雑誌『GLAMOROUS』(講談社)に連載された、清川あさみ初の男性作品「男糸 danshi」シリーズの展覧会。清川にとっては初の男性作品のみの展示イベント。
(「GLAMOROUS」は休刊になってしまったが、『Voce』で再掲載が決定している)
清川あさみは、写真に刺繍をするという手法のアート作品を手掛けるアーティスト。アートディレクターとしても活躍している。旬な美女を起用したビジュアル作品「美女採集」でも知られている。
女性の美しさをもっと表現するための手段として男性を知る、また、男性たちが背負っている「男の人生」のようなものを表現したいと思い、これらの作品を作ることにしたのだという。日本、アジアを代表する男性30人を題材にして、男の美学、生きざまをモノクロ写真と、刺繍で目に見える形にしている。
今回のイベントはモノクロ、刺繍がテーマだが、「木」も大きな要素になっているように感じた。会場内は装飾のない木目の板で仕切られており、作品も木枠に入っていて、モデルの名前なども木を加工して造られたものだった。清川は、「男糸」を制作する際に、女性よりも、シンプルで、こだわりがあるイメージを心がけているそう。そういったことが会場にも表れていた。
<男糸 作品モデルとテーマ>
・浅野忠信:日本武尊(ヤマトタケルノミコト)
・綾野 剛:芥川龍之介
・V.I(BIGBANG):チャーリー・チャップリン
・内田篤人:アキレス
・EXILE KEIJI:陸遜
・EXILE TAKAHIRO:太陽神ヘリオス
・金子ノブアキ:大天使ミカエル
・桐谷健太:東洲斎写楽
・窪田正孝:沖田総司
・隈 研吾:松尾芭蕉
・栗原 類:スナフキン
・高良健吾:岡本太郎
・斎藤 工:高杉晋作
・SUPER JUNIOR-K.R.Y.:光源氏
・瀬戸康史:シャ-ロック・ホームズ
・Sen:ルネ・ラリック
・大東駿介:孫悟空
・Def Tech:ハワイの四柱の神
・東方神起:風神雷神
・永瀬正敏:親鸞
・中村獅童:諸葛孔明
・中村達也:ブルース・リー
・永山絢斗:ドクター・ドリトル
・成宮寛貴:オスカー・ワイルド
・東出昌大:牛若丸(源義経)
・福士蒼汰:ロビンフット
・松尾スズキ:杉田玄白
・松坂桃李:森蘭丸
・茂木健一郎:アインシュタイン
・行定 勲:ヘミングウェイ
・渡部篤郎:森鴎外
・ONE PIECE:スパイ
(敬称略・50音順)
※一部書籍未収録作品あり
圧倒されるのは、一針一針の刺繍の迫力。細い糸、小さな縫い目が集まると、ものすごい迫力、パワーを感じる。制作には数週間かかることもあるというが、それも納得。糸で表現された風や、炎はいまにも音を立てて動きそうだ。スパンコール、レース、布、紙など、様々な素材との組み合わせにより、美しくも力強い、クールな作品になっている。
それらの刺繍は、ベースとなる白黒写真の上で鮮やかに、時に妖しく輝き、被写体の魅力を引き出していた。これはカラーではなく、モノクロだからこそ可能になったものだ。女性が題材の美女採集は、あくまでも鮮やかな世界なのでカラー写真で表現される。しかし、男糸は男性の落ち着き、頼もしさ、時に感じる寂しさが、モノクロ写真で非常に良く表現されていた。モノクロ写真以外ありえない、とまで思えるくらいの完成された世界観があった。
それぞれ作品にはその人のイメージとなるキーワードが添えられている。清川が作品を作る際は、まず被写体を決めて、その人の性格、雰囲気を独自の視点でイメージしていくそう。被写体の男性たちと会話せずにイメージを作り上げるのだが、撮影前のイメージと、撮影後のイメージが変わることは殆どないそうだ。公になっている、一般的なイメージよりも、もっと深い「内面」が表現されている。
被写体は、俳優、歌手、スポーツ選手、建築家など、様々な男性。注目の若手俳優から、ベテランまで多様な男たちがモデルになっている。また、題材も歴史上の人物、文豪、芸術家、有名人、物語の登場人物、さらには神々までと幅広い。清川によると、男性は過去の経験、愛、孤独、エネルギーなどが顔、背中など身体にオーラとして表れるのだそう。男性が持つ、それぞれのオーラが美しく、力強く表現されていた。
2013.11.15 文・写真 篠崎夏美