東京・上野の森美術館
三谷幸喜監督作品の映画において、美術監督を務めた種田陽平氏の作品が展示されている。
会場入り口には11月9日公開の新作「清須会議」の映画ポスター
会場入り口、上部も映画館のようになっている
豪華絢爛なホテル、美しくノスタルジックを感じる、荘厳で重厚な雰囲気の法廷・・・。日本を代表するヒットメーカーである三谷幸喜監督。その映画の魅力とは、作品の舞台になっている映画セット抜きに語ることが出来ない。映画の舞台として重要な役割を果しているセット。それらを手がけた、世界中の有名映画監督からも絶大な信頼と、高い評価を受けている美術監督の種田陽平氏の仕事が紹介されている。
『THE有頂天ホテル』(2006年)から展示は始まる。レストランのメニュー、ルームサービスの伝票、アメニティまで、映像には映らない細かい小道具が作られていた。いかに観客に‘リアル’を感じさせるか、というこだわり感じる。
『ザ・マジックアワー』(2008年)では、スタジオに街を作ってしまった。セットの窓から見える景色までセット、という途方もないスケール。見る角度によって感じる印象が変わるという、細部まで計算しつくされたセットだ。
『ステキな金縛り』(2011年)では、リアルを追及させつつ、幽霊が証言台に立つというファンタジーでも違和感がないように、敢えて作り物っぽくするという工夫がされている。なんと、大理石の床の模様は全て手書きだそう。
映画「ステキな金縛り」の法廷シーンで使われていた椅子
背景は写真だが立体的になっており、奥行きを感じる
看板も実際に使われたもの
椅子には実際に座ることが出来る。ローマ法王の椅子を手掛けた人が制作したそうだ。学芸員さんのアドバイスによると、下から撮影すると本当に法廷にいるような写真が撮れるそう(撮影可能)
そして、11月に公開される三谷監督初の時代劇『清須会議』のコーナーも。まず目に飛び込んで来るのは清須城の50分の1の模型(撮影可能)
細部まで作りこまれている
平安時代の名残が残る寝殿造り。
この時代はまだ瓦や、白壁がなく木で作られている部分が多いのだとか。
史実によるとこの時代まだ天守閣はなく、清須城にも天守はなかったのでは、と言われているそうだが、お城らしさを出すために天守がある。
映画ではどのように使われているのか、楽しみである。
この先は、『キル・ビル』(クエンティン・タランティーノ監督)、『セデック・バレ』(ウェイ・ダーション監督)、『金陵十三釵』(チャン・イーモウ監督)、『Man of Tai Chi』(キアヌ・リーブス監督)など、海外映画での仕事も紹介されていた。
会場内は映画館の中のようで、展示室に入ると、そこは映画の中のようだった。あの映画のあのシーンの中に自分がいるような不思議な気分。そして、登場人物たちが実際に使っていた小道具なども展示されていて、非常に感慨深かった。
そして、最後には三谷幸喜監督が、自ら映画のセットを紹介する、という映像コーナーも。30分程の長さがあるが、見ていて全く飽きなかった。三谷ファン、映画ファンならかなり興味深いものだと思うので、ぜひチェックして欲しい。
映画いうものが、途方もない労力と時間をかけて作られていることを思い知らされた。ここまで苦労して作り上げたセットだが、種田氏は「早く壊したい」と三谷監督に言うのだそう。「舞台美術は映画の中に永遠に残り、輝くものだから」ということだ。
見る人にひと時の夢と、異世界での体験をさせてくれる映画、その不思議な魔法を体感することが出来るイベントである。
2013.10.14 文・写真 篠崎夏美