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「はぐれもの」たちの日本最大展覧会『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』

アイコン描かずにはいられない表現者の情念を浴びる

2019/05/01(公開:2019/05/01)


■日本では最大規模となる展覧会

「アウトサイダー・アート」とは、正規の美術教育を受けていない人々の創作のこと。

2010年にパリで開催された「アール・ブリュット ジャポネ展」をきっかけに日本のアウトサイダー・アートは世界的に注目を集めています。



東京ドームシティにあるGallery AaMoでは日本唯一のアウトサイダー・アートのキュレーター、櫛野展正さんによって集められた作家72人、作品2,000点を超える大規模な展覧会が5月19日(日)まで開催中。
 
今までも死刑囚やヤンキー文化、老人などテーマ別の展覧会はありましたが、これほど大規模で様々なテーマを横断した展覧会は日本国内では初めてとのことです。
 
開催前日にはプレス内覧会を兼ねて、櫛野さんとゲストでタレントの水道橋博士さんによるトークとギャラリーツアーが行われました。


 
水道橋博士さんは、櫛野さんとも親交があり、番組で紹介したり、櫛野さんの著書の帯に推薦文を書いたりしているかねてからのアウトサイダー・アートのファン。

「ストレンジな感じに惹かれます。作品だけでなく、作家のキャラクターや『なぜ描くのか?』といったことにも興味があります」とアウトサイダー・アートの魅力を語ります。
 
大規模な展覧会が開催されることについて櫛野さんは「『櫛野展正の~』と入っていますが、主役はもちろん私でなく表現者。東京という場所でたくさんの人に向けて、多く表現者を紹介できることは嬉しい」とのこと。


 
■11のテーマを巡るギャラリーツアー
 
さて、おふたりの解説によるギャラリーツアーに行ってみましょう。作品は11のテーマに分かれて展示されています。


 
入口にいちばん近いコーナーのテーマは「憧れ」。

けうけげんさんの作品は、自ら想像した架空の芸人の「宣材写真」。チラシの裏に鉛筆で描かれ、コンビ名、キャラクターだけでなく所属事務所、持ちネタなど設定は緻密。芸人は1,000組を超えて増え続け、結成、解散、コンビ名変更などを繰り返しながら増えて行っています。
 
作品をよく見てみると、2人組が消しゴムで消され、トリオ芸人になったことなども確認できます。水道橋博士によると、彼の書いた漫才ネタが本物の芸人に採用されたとのことで、その気になれば放送作家として活躍できる才能を秘めているのだそうです。


 
続いて「異形」のコーナーにはストレンジナイトさんの仮面と絵画。彼は那須高原にある年中休館の「創作仮面館」の館主で、本名や生年は非公開、人前ではいつも仮面をかぶっている謎の人物。昨年亡くなった際に半生の経歴が創作だったことが判明したとのこと。



「描く」のコーナーからは小林一緒さんの絵画。自らが食べた食事を記憶だけを頼りに再現しています。

ライフログとして写真を撮る人はたまにいますが、絵にしてしまうのが彼のすごいところ。もともと調理師をしており、食材に強い関心があるため、すべての具材が見えるような構図になっています。

 
そして「老人芸術」のコーナーには、長恵さんの段ボールに描いた「天使」などの作品。 

櫛野さんの“師匠”にあたる人物だそうで、知的障害者施設で表現活動の支援をしていましたが、退職後、彼らに触発される形で自らも創作を始めました。このぽっちゃりした「天使」はドラえもんがもとになっているのだとか。


 
水道橋博士さんからは観覧する人へのメッセージも。

「誰にでもインサイドとアウトサイドがあります。アウトサイダー・アートは人間の根源的な欲求とつながった原初的なアート。自分にも資質があると気づくきっかけになって欲しいですね」



■多作、描き込み、ヘアサロン、そしてタモリ



ほかにも魅力的な作品がたくさんあります。アウトサイダー・アートのひとつの特徴は多作であることだそう。たとえば、ガタロさんの作品は雑巾のスケッチ。清掃に使った雑巾の絵が日付を添えられて、ほぼ毎日のように描き重ねられています



同じく偏執的なまでの細かい描き込み、作り込みも多くの作品に見られる特徴です。描かずにはいられない、作らずにはいられないという作家の心の奥底から湧き出す創作への情念が感じられます。




 
また、モチーフとして「タモリ」が選ばれる傾向もありそう。多数の作品の中に潜むタモリを探してみるのも、ひと味違った展覧会の楽しみ方かもしれません。


 
興味深いのは、11に分けられたテーマの中に「ヘアサロン」があること。共通点は作家がヘアサロンを経営する美容師、理容師であるということですが、作品そのものはヘアサロンとは関係無いものがほとんどです。



キュレーターの櫛野さんによると、意識はしていなかったものの、作品を集めているうちにヘアサロン経営者が多いことに気づいたそう。確かな理由は不明ですが、手先が器用なだけでなく空間認識能力に秀でた人が多いからではないか? とのことです。


 
レンタルビデオ屋さんでよく見る、ピンクののれんの向こうにある「エロス」のコーナー、深沢佳那子さんによる家族年賀状から作った顔ハメパネル、辻修平さんが毎日ライブペインティングを行うピンクの壁など楽しい仕掛けがたくさんあります。



ゴールデンウィークの10連休も休まず開催。作家によるワークショップやトークショーもあり、最終日にはなぜか街コンも行われます。



ストレンジな企画や催しでも楽しませてくれる展覧会ですが、何と言っても作家たちの「描きたい」という強い気持ちが直球で突き刺さります。ここにある作品たちはまさしく生きている証。彼等の表現に触れ、気持ちにしびれて欲しいと思います。
 
櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展
 
◆日時
2019年4月12日(金)~5月19日(日)
時間:10:00~18:00 、金曜日のみ10:00~20:00
※最終入館は閉館の30分前まで
 
◆場所
Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)
 
◆料金
当日 大人(高校生以上)1,300円
当日 小人(小・中学生)200円
※未就学児無料
 
山根大地/イベニア
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