人によっては毎日かもしれない。でもきっと私のように、もう何年も畳の上で寝転ぶ時間を過ごしていないという人も多いはずだ。
日本の畳表(※)年間需要量は、平成5年度から平成24年の間に約3分の1まで減少している。データを見ずとも、多くの人は「畳に触れる機会が減少している」ことを実感しているのではないだろうか。
※畳表(たたみおもて)…イグサと麻糸で織ったござのこと
※畳表(たたみおもて)…イグサと麻糸で織ったござのこと
◇サンシャインシティに巨大畳空間
2017年9月8日の金曜日。東京のサンシャインシティ噴水広場で、「畳」をアピールするイベント「畳ワールド in 東京2017」が開催された。
朝11時に噴水広場に向かってみると、吹き抜けとなった空間の下に36畳の畳が広々と敷かれていた。公共の場に、しかもこんなにも広く畳が敷かれることなど、ここでしかお目にかかれないかもしれない。
実際に畳に触れてみると、なんとも言えない懐かしい感触。「日本の家」といえば、現代においてもやはり畳なのだろうか。この畳は熊本原産。よーく畳のへりを見ると、なんと「くまモン」がデザインされている……。
◇もっと畳を日常に!素敵なステージイベント
イベントでは、畳の良さを多くの人に知ってもらおうと、コンテンツが盛りだくさんだった。
まず、畳の材料となる国産イグサ・畳表をアピールするため、イグサ国内生産量90%を誇る熊本県の芸人「もっこすファイヤー」さんに加え、畳メイドの「みうな」さんと「ハルカ」さんが出演。さらに熊本県産畳表のゆるキャラである「たぁみ」も登場してくれた。
もっこすファイアーさん達の歯切れの良いトークで、さまざまな国産の畳表を紹介。畳メイドのお二人も、とてもかわいらしい仕草とサポートで、場の雰囲気を作り上げる。
◇食べるお箸のお味はいかに!? 面白コンテンツ盛りだくさん
そして、ここで面白い畳製品が登場する。それはなんと……「食べられるお箸」。ここで出るからには、原料は当然「畳(イグサ)」である。使っているのは熊本県産のイグサ100%とのこと。
その食べられるお箸を使って味わうのは、なんとこれまたイグサが練り込まれたそうめん。もともとイグサは漢方薬として日本に伝わってきたため、食べられるのはある意味当然なのだとか。しかも食物繊維はレタスの60倍というから驚きだ。
健康には良さそうだが気になるお味は……? 実際に食べた畳メイドさんやもっこすファイアーさんの口からは「カステラっぽい」、「和菓子みたい」、「お箸、美味しかったです」との感想が。
この畳のお箸、ネットで販売されていて1930円(税別)。イグサで193という数字にしている。日常の中で、畳を思い出してほしいという想いが込められているとのこと。ただし、イグサの匂いは強くなく、無農薬で食べやすくなっている。
割と固めのお箸とはいえ、食事を食べている際にうっかりお箸まで食べてしまわないよう気を付けたい。
次に登場したのは福岡県の畳職人「Mc Tatami」さん。畳メイドがバックダンサーとなり、「畳ラップ」を披露してくれた。ラップは自ら作詞作曲したもの。「 ティ~エ~ティーエーエムア~イ 畳~!」と、軽快なリズムと共に会場を沸かせてくれる。
◇畳には水虫予防や学習能力向上効果も!?
北九州市立大学の森田洋教授による、ためになる畳講座「畳の寺子屋教室」も開催。イグサは薬草として不眠症や不安などに効果があり、黒焼きにすると子供の夜泣きに効くという。こうした効能は江戸時代の書物に載っているくらい、かつては当たり前のことだったのかもしれない。
さらにイグサには抗菌効果もある。フローリング環境が広まっている現代だが、イグサが下に敷かれた環境であれば、家族の水虫がうつる可能性も低いのだ。足の臭いを引き起こす細菌までも防いでくれる力を持っている。
ちょっと面白いのが畳には「学習効果」があるという点。中学1年生と小学5年生を対象にした実験がある。畳の教室と一般教室における試験結果では、畳の教室で問題を解いた子供たちの方が、一般教室の子供たちよりも114.4%も解答数が増えていたという。
正当した率は変わらないことから、集中力の増加が見込まれるということがわかる。
さらに畳の部屋では勉強しても疲れないという傾向もあったという。
ちなみに、この効果は年少になるほど高く、大人は特に変化がないとされている。「大人は自分で自分をコントロールする力があるから」とは教授の弁だが、コントロールする力が薄い大人なら効果があるだろうか……? 少し期待もしてしまう。
午後からは、ステージに慶應義塾大学の公認学生団体である「かるた会」が登場。昭和30年代から続くという歴史ある団体であり、競技かるたの全国職域学生かるた大会A級において、過去18回の全国優勝を果たしているという強豪でもある。
ステージでは一般の方や畳メイドも加わって、競技かるたを畳の上で体験していた。特に和服の2人は、「真剣」モード。これでも手を抜いているのかもしれないが、いわゆる競技かるたの速さを実演してくれた。
手の動きが見えないほどの速さでかるたを取っていく二人。勢いが強すぎてステージ場外までかるたが吹っ飛んでいく事もしばしばだった。その迫力も加わって、観覧している人たちの熱も上がっているように感じたひとときだった。
「和」のコラボレーションも行われた。津軽三味線が畳の上で披露され、秋田の民謡や津軽あいや節、花笠音頭に浪花節と、バリエーション豊かな演奏となっていた。
◇さらに楽しい畳の世界
ステージ以外にもさまざまなコンテンツが。会場の一角に用意されたのは「いまどき畳ライフスタイル」の4畳半モデルルーム。
東洋美術印刷株式会社のデザインブランドである「文様百趣®」とコラボした企画だという。畳を使ったとても現代風なお洒落空間を提案している。ちゃんとコンセプトも細かく設定されているのだ。
仕事に疲れた時は、こんな部屋で、グダーッと寝っ転がりたいものだ。このスペースに畳メイドさんも座ってみてくれた。「畳のネコ耳」に「畳エプロン」装備も手伝ってよく似合う。
江戸時代前期から伝承されているという畳職人の技が見られるブースも。ひとつひとつの工程が丁寧に行われており、多くの人が足を止めて見入っていた。手さばきも なめらかで、見ていて気持ちの良いお姿だった。
「畳コースター作り体験」のスペースでは、畳を素材にして直径15㎝のオリジナル畳コースターを作成できる。お気に入りの柄を貼り付けていくだけの作業なので、時間もそこまでかからない。
もちろん、畳のグッズもいろいろ販売されている。もっこすファイアーさんも履いているという草履に、インソール、スリッパ、クッション、ござといった商品が並ぶ。
中にはあの「スペースインベーダー」のゴザという珍しいアイテムもあった。ゲームの画面がゴザに織り込まれている。
畳づくしの数時間を満喫したイベントだった。畳の持つ力と可能性、そして新しい形を知る事ができる濃密な時間を過ごすことができた。そしてあの36畳の畳スペースで思いっきりゴロゴロ転がってみたかった……。眺めているとそう思わせる魅力が畳にはあるのだ。
筆者のように、最近畳に触れていないという方。畳の部屋に心当りがあるなら、もう一度思いっきり寝転んでみてはいかがだろうか?
(取材:イベニア)