美味しそうなチョコレート!
© Julie Rothhahn
チョコレートが乗っているのは、なぜかターンテーブルの上。
しかも、レコード針が落とされて、回転しているようです。
でも、まだ信じられませんよね?では、こちらの写真をどうぞ。
どこからどう見ても、正真正銘のチョコレートです。
欠けている部分は、食べられてしまいました!
不思議なチョコレートのレコードは一体、 どうやって作られたのか?
そして、本当に音を聞くことが出来るのか?
楽しくて不思議なパフォーマンスをご紹介します。
09.27[土]~09.28[日] / 東京都 / アンスティチュ・フランセ東京
美食文化に関する多彩なプログラムが楽しめる、第6回「美食の祭典」 の一環で行われるパフォーマンスイベント。チョコレートでLPレコードを製作して、その行程のサウンドを採取しながら音楽を創作します。
フランスの若手パフォーマンスユニット『グループ・アントルス(GROUPE ENTORSE)』 による味覚、聴覚、視覚、3つの感覚で体験できる、新しくて“美味しい”パフォーマンスだそう。
ユニット名のアントルス(entorse)とは、ねん挫のこと。ある瞬間に加わる‘ひねり’が、身体、物質、そして空間すらねじ曲げます。そして公演名の「モルソー(morceau)」には、かけら、一節という意味があります。一体、どんなものになるのか、正直想像もつきません。
東京でフランス気分!
名前は発音しにくいですが、とってもオシャレな空間なのです。一歩足を踏み入れれば、そこはまさにフランス!ちなみに建物はあのル・コルビュジエの弟子、建築家・坂倉準三氏によるものだそう。
左)パラソルもオシャレです。 右)フランスのリキュール「Ricard(リカール)」のお店。オシャレです。
左)ムール貝。フランスっぽい!オシャレです。 右)屋台、というにはあまりにもオシャレです。
庭では暮れゆく秋の陽の中で、お料理やワインを片手に人々が談笑しています。何やらフランス語でフランスの方とお喋りしている人もいます。うわー、オシャレだ!フランスだ!!さすが、美食文化が無形文化遺産になっているだけあります。ただ食べるだけではなく、フランス文化そのものを体験出来るイベント、それが「美食の祭典」なのですね。
まさかの大爆発!!チョコレート作り
会場となるのはアンスティチュ・フランセ東京『ラ・ブラスリー(Le Brasserie )』フランスの美食 文化を紹介するための場でもあり、人気のカフェレストランでもあります。東京のプチ・パリとも言われ、一度来てみたかったんです!
でも、今日はなんだか雰囲気が違いますね・・・。
部屋は暗幕で覆われて、イスだけが並べられており、その前には不思議な装置が置かれています。ぶら下がっているのは白や茶色の粉、点滴のようなチューブに入った液体、カカオまで・・・。
そして、女性がおもむろにカカオの身を取り出しました。あまりに自然で、いつのまにかパフォーマンスが始まっていた、という感じでした。
取り出した身を石の板とすりこぎで潰していきます。マイクが『ゴリッゴリッ』という音を拾います。なるほど、こうしてチョコレートを作る工程の音を採取するのですね。
『ゴゴゴー』とバーナーで焼いて、ふるいにかけて細かくしたものをシリコンの型に吹き付けます。ココアパウダーがもうもうと立ち込めます!!目の前で作業しているので、粉が飛んできます!
ラップを貼ったボウルに一滴ずつミルクを垂らしたり、『ザラザラーッ』と粒状のチョコを落としたり・・・。
ハサミで袋の先を切ると、白い粉がドバババー!!下にはスピーカーが置いてあるらしく、『ドーン!』という大きな音が!!その振動で粉が飛び散る!!ものすごい大爆発!!観客との距離は数十cmなので、かなり臨場感があります。
当然、床はこうなります。(だから裸足だったのかしら・・・?)しかし、荒ぶるスピーカーをもとのもせず、パフォーマンスは続きます。
ペンダントライトの熱で、チョコレートの塊を溶かしていたようです。型にチョコレートを塗り、スプレーのようなものを吹き付けます。
出来上がった円盤型のチョコレートにレコード針を落とすと・・・曲が流れました!!本物のレコードと同じように、溝を針がなぞることで音が出ているのかは不明ですが、本当にチョコレートのレコードから音が出てびっくり!!
目の前でチョコレートのレコードをバリバリ砕いて、みんなで試食タイム。ちょっとほろ苦い、本格的なチョコレートです。みなさん、不思議な顔でチョコレートを齧っていました。
お客さんも初めはやや戸惑っていた様子でしたが、粉が吹き飛ぶあたりではクスクスと笑いも起きていました。正直、非常にシュールな空間です。でも、何だか良く分からないけれど、今そこで起きている事を、音もろとも全て受け入れて楽しめるような不思議なパフォーマンスでした。
<動画>短いですが、Facebookに動画をアップしました。
‘音楽’を味わってみる
パフォーマンスの後にもお楽しみがあります。多摩美術大学メディアアーツ学部の生徒さん達がある‘音’を聞き、そこからインスピレーションを得たお菓子を食べることが出来ました。
チョコレートにおかきや砕いたキャンディーを入れたもの。「バリバリ、カリカリ」という音を表現しています。スピーカーでは実際にその音が流れるので、聞きながら実際に食べてみると面白いです。
フランスの焼き菓子‘クロッカン’。フランス語で「カリカリ」という意味があるようです。『焼き過ぎた固いパンにバターを塗るような音』から発想を得たそうです。また、「カリッ」という音から木の実を齧るリスをイメージし、カボチャの種、くるみ、カシューナッツが入っています。もちろんチョコレートも。楕円形はリスの‘シッポ’を表現しているとのこと。
棒に縦長の紙袋がぶら下がっています。赤いテープを引っ張ると、中からチョコレートが。紙を破るような音を表現したお菓子です。柔らかなトリュフチョコに、甘いような、酸っぱいような、不思議な味のパウダーがかかっていました。
‘音楽を演奏する’という感じではなく、黙々と作業をすることで音が生まれます。 最初はチョコレートを作っていく作業の音だけだったのですが、そこに様々な音や曲が加わって、どんどん厚みのある音楽になっていくのが分かりました。
パフォーマンスとしてのパフォーマンス、出来上がった音楽、パティスリー。眼で見るだけではなく、音と味でも味わえる‘一粒で3度美味しい’グルメなアートイベントでした。
2014.10.02 文・写真 篠崎夏美