JR(山手線、京浜東北線、常磐線)、京成線に、日暮里舎人ライナー。これだけ電車が通っているにも関わらず、イマイチ知名度が低い日暮里。
東京都民ですら、その地に降り立ったことがある者はごくわずかな、日暮里。
「そもそも何て読むの?」なんて人もいるかもしれない、日暮里。
そんなマイナーな、日暮里。
ある日、目にしたのは「オルタナティブ日暮里」という文字。平和でひっそりとした日暮里が、まさか主役になる日が来るなんて・・・!日暮里に関わりがある者としては、気になって仕方ない。
なぜ日暮里なのか?オルタナティブとは何か?日暮里に何が起こっているのか?
07.11[金]~07.30[水] / 東京都 / HAGISO
優しいタッチの昭和レトロな雰囲気の女の子。背景はかなりリアルに描き込まれている。そこにちりばめられた意味深な言葉。
最初は女性が描いているのかと思ったが、作者のうえむらさんは平成元年生まれの男性だった。ちょっと意外。
なぜ日暮里なのか?
‘にっぽり’、という言葉の持つ音。「日が暮れる里」という漢字から受ける印象。少し物悲しい雰囲気が‘終末’というモチーフに重なったのだそう。
この個展が開催されるまで、日暮里に来たことはほとんどなかったらしい。しかし地元から東京に来る際に常磐線に乗ることがあり、そこで無意識に‘日暮里’という言葉が刷り込まれたかもしれないですね、と話してくれた。実際に日暮里の街を歩いて、そこからイメージを膨らませていったという。
イメージがないところに名前を付けたり、シンボルを作り出すことによって、そこに何かが生まれるのだ。 正直、日暮里には目立つスポットも、ランドマークもない。だからこそ、自由な発想が出来るのかもしれない。
突如現れた‘方舟’が日暮里を変えた
ある日巨大な物体が出現。誰が?何のために?なぜここに?謎は明らかにならないが、この現象によって日暮里が大きく変化してしまった。このイベントでは、方舟によって起こった事象が10人の女性の目線で語られる。
意味深なセリフ、少女、物悲しい風景。まるでレトロな映画のポスターを思わせる作品だ。一つの関連した大きな物語の中に、また別の小さな物語がある。背景が日暮里近郊のどこなのか想像してみるのも楽しい。
壁には作品と共に日暮里周辺の地図、今回の製作のアイディアメモや、うえむらさんの他の作品の原画も。‘もう一つの日暮里’が生まれた経緯を知ることが出来る。
にっぽり娘と記念撮影をどうぞ。
方舟とは?終末とは?SFの要素と、実際の日暮里という土地が融合して作り上げられたパラレルワールド。謎は謎のままだし、結局日暮里がどうなるのかは誰にも分からない。
そして、日暮里は日暮里のままだ。しかし、どこかであったかもしれない‘オルタナティブ’な世界。そして、この展示を見たことによって訪れる人にも「自分だけの日暮里」が出来上がる。日暮里を知っていた人も、知らなかった人も、新しい日暮里のイメージを抱くはずだ。
帰り道に見た景色はいつもと同じようで、何かが違う。これと言って特色がない場所だけど、だからこそ自由に想像が出来る。
ある作品の中で少女が言った。
「まだ これから これからが 日暮里」
2014.07.15 文・写真 篠崎夏美