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ぐるぐる、うねうね・・・。“動く芸術”に頭も視覚もだまされる!『不思議な動き キネティック・アート展 ~動く・光る・目の錯覚~』

アイコン「この絵・・・動くぞ!」

2014/07/10(公開:2014/07/09)
「動く絵」を見てきた。

・・・と言っても『落ち武者の眼玉が動く』とか、『女の髪が伸びる』というような怪しい絵ではない。

“動く芸術”と言われるキネティックアートの作品だ。以下の作品は1960年代に作られたもの。CGではなく手書きによって丁寧に線が描かれている。じっと見ていると、絵が動いているように見えてくる。

  
【写真左より】
フランコ・グリニャーニ 空間のトラウマ 6 1965
フランコ・グリニャーニ 波の接合 33 1965
フランコ・グリニャーニ 動力学 1 1965
フランコ・グリニャーニ 動力学 2T 1965


 
07.08[火]~08.24[日] / 東京都 / 損保ジャパン東郷青児美術館  

今回のイベントは日本で初めてキネティック・アートを総合的に紹介するもの。30名以上の作家による平面・立体作品、およそ90点が展示される。いずれも全てイタリア国内のコレクションからの出品で、日本初公開!

1960年代にイタリアを中心として広まったキネティック・アート(kinetic art)は、大きく分けて2種類の作品がある。

1:実際に動く作品(動力はモーター、風、人の力など)
2:実際には動かないけれど、錯覚で「動くように見える」作品


ジョエル・スタイン 青と赤の大きな円筒 1973

見ているだけで目がチカチカするが、絵の前を行ったり来たりすると、模様がぐわんぐわんしてくる。幾何学模様によって目が錯覚を起こし、動いているように感じる「オプ・アート」もキネティックアートの一種だ。


人間の五感(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚の中)で、視覚は一番騙されやすいそうだ。そのくせ、外部から入ってくる情報の大半の視覚で処理している。一番騙されやすいやつが、一番大事な仕事をしている状況。これは危ないんじゃなかろうか。全く、人間てやつは適当なものだなぁ。


かなり抽象的な作品も多いし、何となく難しそう・・・と思っていたが、見ていると

「まぁ、私の視覚ったらこんなに騙されちゃって・・・!」とか、

「うはwwwスゲー!!!動く!!!」とか、

だんだん楽しくなってくる。難しいことは考えず、シンプルなスタンスで見たほうが面白い。


  
左)ダダマイーノ ダイナミックな視覚のオブジェ 1962
右)ジュリオ・ル・パルク 赤い横縞柄の曲技的な形 1968


  
【写真左より】 トーニ・コスタ 線 1963 トーニ・コスタ 交錯 1967


  
左)グルッポN(トーニ・コスタ、アルベルト・ビアージ) 視覚の動力学 1964
右)アルベルト・ピアージ 光学的動力学 1962

色のついた模様の上に、テープで出来た線が貼ってある。見る角度によって色、形が変わる。全ての線が中央に集まっていくので、何だか吸い込まれそうになる。

このエリアの作品は、上下左右に動くたびに色や模様が変化する。それが面白くて‘一人EXILE(Choo Choo TRAIN )’状態になってしまうので、周りには気をつけよう。

  
左)エンニオ・キッジョ 線の干渉 12 遠心分離機 1966-70 
右)エドアルド・ランディ 反射映像 球体ヴァリエーション 1967-69

右は今回の展覧会の中で唯一、‘風’で動く作品。鋼鉄の半球の中二、蛍光色で裏表が塗り分けられた紙が下げられている。じーっと見ていると空気の動きに合わせてわずかに紙が動いて、色が動く。息を吹きかけたりしちゃダメだよ!


  
左)ダヴィデ・ボリアーニ 磁力の表面 1959/85
右)ダヴィデ・ボリアーニ 磁力の表面 1961/64


どちらも磁石で動く作品。左はモーターが動くと、鉄の削りくずが集まって9つの円が出来る。基本的な仕組みは小学校のときにやった‘砂鉄と磁石の実験’と同じ。懐かしい・・・。砂鉄が毛虫みたいに動いて面白かったな。右は鉄くずが不規則な動きをする。アリの巣の観察のようでもあり、コマ撮りアニメーションのようでもあり、じっと見入ってしまう。



ジョヴァンニ・アンチェスキ 円筒の仮想構造 1963年

円の両端に立てられた白黒の棒が回る⇒円筒が出現(したように見える)、という作品。あまり速くないのでそこまで立体的には見えないけど、静かな会場に響くモーター音が物悲しくも、愛おしい。

今回展示されている作品はどれも50年近く前の製品。当時としては最新技術を使った最先端アートだったのだが、現在デジタルメディアに常に触れている私たちにとっては、デジタルにはないレトロな温かみも感じられる。実際にモーターを動かすことも出来るが、人間で言うと中年に差し掛かっているので、出来るだけ優しくしてあげよう。

   
左)ダヴィデ・ボリアーニ 全彩色 no.6 1967-76
右)グルッポ MID 円形マトリクスの発生装置2 1966

左)5×5=25マスにカラフルな電灯が付く。灯りはマスごとに色や明るさが変わり、色とりどりでキレイだ。これも瞬間ごとに色と模様が『動く』作品だ。約50年前の作品なので、中の構造や仕組みが良く分からないものも多いらしい。

右)丸の大きさは同じはずなのに、回転が始まると大きさが変わって見える。同じ方向に回っているはずなのに回転する方向が逆になるものまであって、見入ってしまう。詳しい仕組みは良く分からないのだが、ライトの光の揺らぎが関係しているらしく、最近のインバータ蛍光灯ではこうならないらしい。


   
左)グラツィア・ヴァリスコ 可変的な発光の図面 ロトヴォド+Q44 1963
右)グラツィア・ヴァリスコ 変化するHG AL(水銀)+Q151 1965

グラツィア・ヴァリスコという女性アーティストの作品。宝石の輝きのような美しい光がちらちらと動いて、とても幻想的だ。右の作品は段ボールにボタンを貼り付けているらしい。

展示構成は大きく分けて4つ。

Ⅰ:視覚を刺激する―絵画的表現― (錯視、錯覚を利用した作品)
Ⅱ:干渉しあう線・形―さまざまな素材― (視点を移動させると動いて見える作品)
Ⅲ:不思議な光・動き (実際に動く作品)
Ⅳ:知覚を刺激する―立体的な作品― (立体作品が中心)

一言に‘動く’アートと言っても、様々な動きや、動きの見せ方があり興味深い。



人の「見る」という感覚を刺激し、働きかけるキネティックアート。人が機械と暮らし始めた時代の、テクノロジーとアートの融合がここにある。機械に支配されるのではなく、機械と共存し、機械を使うことでより‘人間らしさ’(騙されてしまうこと)を実感出来るアートだ。

現代アートという抽象的でなかなか難しいものを、キネティックアートは理屈でなく、視覚的に感じることが出来る。アナタの視覚はどれだけ騙されるか、楽しんでみて欲しい。



【会期】2014.07.08[火]~08.24[日] 
【会場】損保ジャパン東郷青児美術館  


2014.07.09 文・写真 篠崎夏美
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