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江戸時代から現代まで、女子たちの「キレイになりたい!」を叶える創業約190年の老舗 「愛せよコスメ!~message from KISS ME~」

アイコンコスメの歴史は、女性を幸せにしてきた歴史でもある

2014/04/16(公開:2014/02/05)

 
東京・伊勢半本店 紅ミュージアム 


 
 
伊勢半本店 紅ミュージアム 入口
 
 
株式会社伊勢半は、今からおよそ190年前(1825年)に紅屋として創業。紅屋ならではの優れた技術と、品質へのこだわりで、飛躍的に発展してきた。その成長を支える中心となったコスメブランドが昭和初期に生まれた「キスミー」である。このイベントでは、戦後から現代までの「キスミー」化粧品を、当時の広告、メイク、流行、世相の変遷など併せて振り返る。
 

 
 
<展示内容>
 
1: 紅屋こだわりの口紅づくり


紅屋として創業した伊勢半は、昔から品質にこだわり続けてきた。終戦後はすぐに残っていたわずかな物資で口紅の製造を再開したとのこと。金属などがなかったため、紙で紅をキャンディーのようにくるんで販売していたそうだ。昭和21年には本格的に口紅作りを再開する。そして1947年には「唇に栄養を与える」というキャッチコピー。日々の食べ物にすらまだ困窮していた時代。人々の心に強く響くものだっただろう。

 

物資が不足している時代、どんな商品でも作れば売れる状態だった。しかし、「粗悪品は必ず淘汰される」という六代目の強い意志で、質のよい原料にこだわり商品を開発してきた。その結果、日本のメイク業界を牽引する存在にまでなったとも言える。当時の化粧品は高級品というイメージが強かった。彫金の細かい模様が入った素敵なデザインの口紅は、今でも人気が出そうだ。また、小売店に卸される箱も展示されていたが、この箱までおしゃれでゴージャス感がある。お客様に見られることがないところにも工夫が凝らされている。

  

そして1955年、『キッスしても落ちない口紅』というキャッチコピーで、スーパー口紅が発売される。広告にはキス寸前の男女。今であれば特に何ともないが、当時としてはかなり大胆なものだった。破廉恥である、風紀を乱す、と主婦連合から抗議されたり、新聞紙には広告を断られることもあったそうだ。

 
戦後の化粧品広告を見ると、‘アメリカ’風、‘アメリカ’で流行っている、など、とにかくアメリカを意識したものが多いことに気付く。手書きの味がある文字のポスター、レトロなイラストのパッケージなど、今見ても魅力的なものばかり。キャッチコピーの表現も面白いものがある。商品そのものだけでなく、こうした広告にも当時の文化、情勢が現れており興味深い。
 

 

2:世相を反映した商品たち

年表の手前にはキスミー商品がずらりと並べられている。年表にはその年の出来事、発売された製品に加え、メイク(リップ、アイ、チーク、スキン)の流行などが書かれている。サラリーマンの平均月収の情報もあり、商品の値段と比較してみると、当時の金銭感覚と照らし合わせることができ、より理解が深まるだろう。

ここに並べられているものは、単なるキスミーの歴代商品ではなく、戦後のメイク史そのものとも言える。トレンドを取り入れながら、時代ごとの、‘こんな女性になりたい’、という願いを叶えてきたコスメたち。容器ひとつ取ってもその時の流行・世相が反映されており、楽しく歴史を振り返ることが出来る。

また、母娘で訪れてお互いが使っていたものについて話したり、学生時代の同級生同士が当時を振り返ってはしゃいでいたり、という光景も良く見られるそうだ。いつも女性のそばにあるキスミーの商品は、そのまま人生の思い出の一部になっていることを実感した。
 

 
 3:ユニークな商品・宣伝活動


品質にこだわりながらも、常に時代をリードしてきた‘キスミーだからこそ’出来た、様々な商品、宣伝などが紹介されている。香水の醸造にかかる時間を『超科学装置』によって短縮したり、京急電鉄とタイアップし、湘南行の電車で香水のプロモーションを行ったり。また、現代でも広く使われている「リップクリーム」という言葉を生み出したり、BBクリームの元祖とも言えるオールインワン・ファンデーションを1954年と言うかなり早い段階で発売したりと、日本のコスメ界の先端を走ってきたことが分かる。

 
ここで注目したのは、バラエティに富んだ販促活動だ。今のように景品表示法が厳しくなかった頃のこと、驚くような特典が並んでいる。例えば、‘キスミーマンボ祭り’に8000人ご招待(マンボ、というところに時代を感じる)、ファンデの空箱で映画館の入場無料、身長の高さ×5000円(例えば、160cmの人なら160×5000円=80万円!)プレゼント、10万円のネグリジェ、又は現金プレゼント(やはり、というか現金を貰う人の方が多かったそう)などなど・・・。その他にも、小さな子供がいる母親層をターゲットにして、飛行機の模型が付いていたりと今のマーケティングにも使えそうなアイディアも沢山ある。
 
また、日本の売り場に大きな影響を与えた「PSP(パーフェクト・セルフ・パッケージ)システム」という台紙付き商品もキスミーが導入したものだ。それまで対人式のカウンターでの販売が常識だったが、当時の社長がアメリカでの視察で、スーパーで気軽に化粧品を買っている様子を目撃し、『これからはスーパーの時代が来る』と確信。パッケージに入れた商品をまとまった区画に陳列するシステムを取り入れた。これにより店員に気を遣わず自分のペースで買い物が出来るようになった。会場には当時の売り場が再現されているのだが、昭和40~50年代の雰囲気が出ていて非常に興味深い。
 
 
復刻記念!シャインリップ先行発売

コスメ界の伝説’とも言われる「キスミーシャイン®リップ」。1970年に発売され、これまでになかったツヤとその持続性、手軽さ、そして色付きであっても『リップクリームです』と言い張り学校にも持ち込めるという、女子中高生のオシャレ心を満たし、大人気となった。

あまりの人気で、学校では色付きシャインリップの持ち込み禁止の規制も出来たほどだという。人気アイドル・キャンディーズをCMに起用したり、1979年には漫画家・里中満智子さんのイラストを広告に採用。その年、一年間でシリーズ合計1000万本以上という驚異的な売り上げを記録した。口紅のジャンル、しかも一年でこれだけの販売実績は、世界でも類を見ない。

 
パッケージも当時のまま、レトロで可愛らしいデザイン。値段も手ごろで全種類揃えたくなる(4色が入った復刻版限定ボックスも)。ちなみに4色の中で一番人気は、今も昔も「シャインワイン」だそう。
 

3月に限定復刻される「キスミーシャインリップ」を先行発売
 
シャインリップ、シャインピンク、シャインレッド、シャインワイン 計4色
【販売価格 630円(税込)】

 


図録
 
化粧品雑誌のような表紙。目次、裏表紙など、かなり細かいところまで雑誌を表現している。中身も非常に読み応えがあるが、一番驚いたのが表紙のイラスト。実はキスミーの化粧品を画材にして描かれているのだ。
 
 

‘企業史展’という言葉からは、どうしても企業の業績などが中心の硬い内容を想像しがちだ。しかし、この「愛せよコスメ!」は見ているだけでワクワクしたり、懐かしくなったり、時間を忘れてしまうほど楽しめた。当時の繊細なデザインにうっとりしたり、レトロ可愛いイラストに心躍らせたり、自分が使ったことのあるもの見つけてテンションが上がったり・・・。

また、見ていて楽しいだけでなく、江戸時代からこれまで日本のメイクを支えてきた、モノへのこだわりが随所に感じられる。特に第一章の展示では、戦中・戦後の混乱期ですら化粧品作りをしていた事を知り、非常に感銘を受けた。物資も不足し、人々の心も荒んでいた時代。そんな時ですら、少しでも女性たちの力になろうと原料の確保を始め、飽くなき努力で商品を作り上げてきた。

そうした伝統に甘んじず、常に人々が求めるものが何であるかを考えてきた伊勢半。そんな伊勢半「キスミーブランド」を様々な切り口で紹介する企業史展。それは、心身ともに女性を豊かにしてきた歴史をたどる展示でもある。
 
 
 
 
2014.02.05  文・写真 篠崎夏美

 

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