東京・太田記念美術館
江戸後期、歌川国芳を中心に浮世絵でも、新しいアイデアや、ユーモア溢れる作品が生まれた。それらの‘笑える’浮世絵作品を展示している。浮世絵そのものが、一般の人にも親しみやすい芸術だが、今回はその中でも‘戯画’が特集されている。
ポスターもユーモアたっぷり。
『み、見えた!魚のこころが見えたぞっっ』
・・・何か悟ったようです。ちゃんと尾びれもセンスで再現してます。
『・・・あ、これ暴力じゃないよ。写さないで(怒)』
警察24時とかでありそうなシーン。蛙の擬人化です。
笑い1:何でも擬人化
擬人化と言えば、もはや日本のお家芸。動物、植物、日用品なんて当たり前。国、都道府県、鉄道、最近話題の軍艦、果ては曜日、思想まで、形のないものまでが擬人化されている。
そんな擬人化大国日本。まぎれもなく我々のルーツはご先祖から受け継がれている、と実感させられる。野菜、生き物、お金などなど、擬人化のオンパレード。ただ、現在の擬人化と異なる点はあくまでも‘人ではない’こと。今の擬人化は、対象物が美少女・美少年になっているが、江戸時代の擬人化はモノはモノとして、‘人のような’服装や、ふるまいをしているだけである。
笑い2:形・組み合わせの妙
人が集まって大きな人になったり、障子に映るシルエットで形を作って遊んだり、鳥や動物の身振りを真似したり・・・。非情にシンプルながらも、どうやって楽しむか?ということを真剣に、熱心に考えて出来た作品だと感じた。そして、有名な歌川国芳のネコたちも。みんなで『かつを(鰹)』を作っていた。中にはちゃっかりカツオに齧りついている猫もいて可愛い。
笑い3:ユーモラスな人々
良く見かけるタイプの顔を皮肉たっぷりにダジャレで紹介したり(両鼻穴から鼻水垂らしてる人を‘日本橋’=日本出し、など)、ユーモラスな中にも社会風刺の意味が込められた絵だったり。中には、一度は検閲を免れたものの、あまりに人々の間で話題になってしまったので『隠された皮肉』がばれてしまい、発行禁止になった作品もあるとか。今のように自由に発言できなかった時代、絵を使うことで密かに自分たちの考えを伝えようとした、熱意と覚悟が伝わってくる作品もあった。
笑い4:文字と言葉の戯れ
七福神が‘寿’の字を作っていたり、縁起が良い物を使って絵を作ったり、絵を使った謎々のような「判じ絵」などが紹介されていた。判じ絵は、私の知識が乏しいこともあるが中々難しかった。こちらもほとんどダジャレが多い。昔から日本人は洒落が好きだったのだ。言葉通り、それがお洒落で、粋だったのだろう。
笑い5:浮世絵で遊ぶ
じゃんけんのような、「拳遊び」を面白おかしく描いたもの、厚紙に目を描いて切って使う「目鬘(めかつら)」など、現代の感覚からすると浮世絵で‘遊ぶ’とは・・・?と思ってしまうが、当時は娯楽の一つだったことが良く分かる。
単純に面白いもの、可愛らしい物、思わず苦笑してしまう脱力系のもの、ブラックユーモアなど、様々なな笑いがあり、見ていて飽きなかった。
しかし、『笑い』をテーマにしてはいるが、緻密に書き込まれた絵は思わず笑いを忘れて見入ってしまう。人や生き物の表情も非常に生き生きとしていて、美術作品としても素晴らしい。多種多様で、豊かな笑い。日本人の「笑い」の源流は、とても奥深いものだった。
2013.10.01 文・写真 篠崎夏美