地上最強はどっちだ?!研究者の意地がぶつかり合う生物トークバトル!
東京都・ロフトプラスワン
‘クマムシ’という生き物をご存じだろうか?
緩歩動物(かんぽどうぶつ)という種類で、体長はわずか1㎜以下。苔、土の中、水中など幅広いところに生息している。英語では「Water Bear」と言い、種類によってはずんぐりしたクマのような体形をしている。その可愛らしい姿からも人気となっている。
それだけではない。クマムシを一躍有名にしたのは何と言っても‘不死身’、‘地球最強’とも言われるその生存能力だ。極度の高温、低温、紫外線、圧力、放射線、そして宇宙でも生存可能というデーターがある。また、仮死状態になれば数年後に蘇生することもあるという、驚異的な生物。
メディアなどで取り上げられ、そんなハイスペックとは裏腹の愛らしいルックスで、たちまち人気となった。特にクマムシ博士こと堀川大樹氏は、若き研究者として、本を出版するなどクマムシ人気の立役者の一人でもある。
しかし、そんなクマムシと、堀川氏の人気を快く思わない学者(と、生き物)がいた・・・。極限環境微生物と、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者・高井研氏だ。高井氏は、会ったこともない堀川氏にいきなり喧嘩をふっかけた!!(堀川氏曰く「学術的地位が高い人からの一方的な、アカデミックハラスメント」)
そして、戦いの場はWEB版ナショナルジオグラフィックへ。このあたりの経緯と、両氏のコメントは大変面白いので、ぜひ見ていただきたい。
そして、遂に両者は、直接対決を行うことに・・・。
入場時に‘クマムシ党’のバッチが配られた。これも戦略か?頭の上のは脱皮した殻かと思ったら、髪の毛らしい。
グッズ売り場。やはりクマムシさん、可愛い・・・。
先日発売された堀川さんの著書。
対する微生物側は「スケーリーフット」という、貝なのに鉄の鱗を持った生き物のマグネット。渋い、渋すぎる・・・。そして、何より‘微生物’じゃない!同じ深海仲間というだけ。しかし、まさかこのスケーリーフットが思わぬ波乱を巻き起こすことになるとは・・・。
こちらは高井氏の著書。
いろんなクマムシぬいぐるみ。もちろん、こちらが堀川氏の席。ちなみに、左のチョンマゲのように見えるのは、深海にある‘チムニー’という熱水噴出孔らしい。一応、対戦相手にちなんだものを「つけてやった」ということ。
堀川氏と、司会の‘虫好きブロガー’メレ山メレ子さん登場。対戦相手の高井氏はどこかにいってしまったらしく、出てこない・・・。
ちなみにメレ子さんは、アゲハチョウの幼虫をイメージしていて、緑の服に黄色の触覚カチューシャ(ガンダムではない)、胸元にはチョウのブローチも。服も可愛けりゃ、顔も可愛い。実写版‘虫愛でる姫君’ナウシカやれるんじゃないだろうか。
Twitterでは「明日の最強生物トークバトル、クマムシと極限環境微生物の どちらを応援したものかいまだに決めかねている人は前門の虎・後門の狼状態になるで あろうMCメレ子を応援してください…!」とつぶやいていて、二人の研究者の板挟みとなる苦悩が伝わって来た。
堀川さんはファンの方お手製というフェルトのクマムシベレーを被りこなしていた。
高井氏不在のまま、クマムシプレゼンは続く。表は高井氏が作ったもの。いかに極限環境微生物が優れているかを示しているらしいが・・・。「マジカル☆樽るート」とか懐かしすぎる。表はナショジオのWEB版にも掲載されているので、詳しくはそちらを。
可愛いすぎるクマムシ助手。緑のはクマムシのエサ、クロレラ?
ここでいきなり「クマムシさんの唄」ライブが始まる。
可愛すぎるクマムシ助手登場!
助手さんが、ウクレレを弾きながら「クマムシさんの唄」を歌う。可愛い!
そして歌も可愛い!『かんぽ かんぽ かんぽどうぶつ 最強生物 クマムシさん~♪』みたいな歌詞で、今も頭から離れない・・・。
そんなまったりとした空気が漂う中、怪しい黒ずくめの男たちが・・・。
プロレスさながらのマイクパフォーマンスと共に、高井氏登場。着ているのは「海底紳士スケおじさん」のTシャツ。ここでもスケーリーフット。
プレゼンを始めようとするも、高井氏のカオスなデスクトップに観客騒然。
いよいよ高井氏の反撃開始!!色々とヤバイワードが・・・。
クマムシ最強教・・・?こちらが色々ヒヤヒヤするワードが・・・。
「クマムシなんて、イベリコ豚そっくりで可愛くないじゃん!むしろイベリコ豚の方が美味しいからエライ!」的な発言も。
高井氏は二人のお弟子さんを従えての登壇。このお二人も、大変味のあるキャラクターで面白かった。堀川氏も関係者席にクマムシ応援団(クマムシ研究の大家も・・・)がいたのだが、なぜか大多数が極限環境微生物派に寝返る、というまさかの展開。そして、その中には『微生物派になればスケーリーフットの標本を触れるから』という方まで・・・。
あっと言う間に前半戦は終了。休憩をはさんだ後半戦は、会場のお客さんからの質問に答えながら、割と学術的な雰囲気で進む。来場者の質問も、思わず唸ってしまうような的を得た、それ聞きたかった!というものばかり。非情に有意義で、面白いイベントだった。
堀川大樹氏著「最強生物学講座」
高井研氏著「微生物ハンター、深海を行く」
最後は、高井氏から「クマムシ、微生物、どっちも好きになってくれればいい。研究者がこうして前に出てきて、皆に研究成果を見てもらうチャンスだ」というコメントが。堀川氏からは「微生物が意外に人気があることが分かった(ここにきても毒舌を崩さない堀川氏)理科離れと言われているが、まだまだ捨てたものではない。こうしたことをきっかけに興味を持ってもらえれば」という発言があり、とても和やかな感じで終幕となった。
予想はしていたが、地上最強生物を決める戦いの結果は、‘引き分け’。そもそも「最強」の定義からして良く分からないし、決めようがない、ある意味‘出来レース’だ。しかし、こんなに楽しい八百長ならいくらでも参加したい。
堀川氏も仰っていたが、変な生き物をきっかけに色んな物事に興味をもち、自分の世界が広がるなら素晴らしいことだ。難しく考えず「何これ面白そう!」と思ったらやってみる、人生においても大事なことではないかと思う。
クマムシと微生物から、そんな人生の教訓を学んだ夜だった。
2013.09.26 文・写真 篠崎夏美