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自然を切り取った「生きたアート」を見つめる展示 『天野尚ネイチャーアクアリウム展』

アイコン大きなモノの源は小さなモノ

2017/11/14(公開:2017/11/12)

美しい魚を愛でる人は多い。ときには水族館で、ときには金魚鉢で、そしてときには自宅にアクアリウムを作り、魚を鑑賞する。



そんなアクアリウムの世界には、伝説と言われる男が存在した。「水景クリエイター世界のアマノ」と呼ばれた人物であり、自然の生態系を水槽の中に再現させた ネイチャーアクアリウム(水草水槽)の提唱者、天野尚(あまの たかし)である。

2015年8月に61歳で他界した天野氏にスポットを当てた「天野尚 NATURE AQUARIUM展」が、東京ドームシティのGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で開催されている。『水景にすべてを捧げた男』、そんなサブタイトルがつけられた展示だ。



◆超細密な自然写真

会場に入ると、天野氏が愛用した大判カメラが展示されていた。とても大きなカメラであり、撮影にも相当の技量が必要になる。



天野氏は写真家としても有名であり、アマゾンなど、世界中の熱帯雨林をテーマにした写真を撮影していた。この巨大なカメラからは、天野氏の細部へのこだわりが感じられる。

天野氏が撮影していた8×20インチの超大判フィルム。富士フイルムによる特別生産であり、当時最新のカラーリバーサルフィルムは世界最大の大きさがあった。拡大してみると大きな写真にも関わらず、非常に細かいところまで写し込まれている。





展示の前半はそんな天野氏が撮影してきた「写真」が主役。天野氏にとって、写真を撮影するということは「自然を切り取る」という行為に他ならない。そしてネイチャーアクアリウムは「自然を構築する」という行為となる。まさに氏の制作活動の全てを知ることができる場なのだ。







2008年の洞爺湖サミットで展示された「金剛杉屹立」は、佐渡島の金剛杉を撮影したもの。超特大の写真パネルを間近で眺めると圧巻だ。写真でありながら緻密な絵画やCGのようで、その絵の世界に吸い込まれそうな気分になる。



◆森の中を飛んでいるような魚たち

後半はアクアリウム作品の写真や、実物のアクアリウム展示となる。まさに森の中で、木々の間を魚が飛び回っているような世界が創造されている。このアクアリウムが存在感を放っているのは、魚たちがいる空間も「生きている」からだろう。





泡となって水槽内に供給されているのは二酸化炭素。この二酸化炭素と水槽上部から照射される光によって、水槽の水草が光合成を行い酸素を供給してくれる。酸素を吸った魚たちもまた、二酸化炭素を水草に供給する。





アクアリウムの楽しみはその美しい情景を鑑賞すること。ただし、手入れを怠ると水槽内にコケが繁殖してきてしまう。このコケ対策として有効なのが、コケを食べてくれる生物達の存在だ。 

ヤマトヌマエビは、コケ対策の生物として有名。その食欲によって、どんどんコケを食べてくれる。このエビは、天野氏がコケ取り生体として有用であると海外に普及させたことでも知られている。そのため海外では「アマノシュリンプ」と呼ばれることもある。彼らが頑張ってくれることで、アクアリウム内のキレイ」が保たれるのだ。





自然の中にある情景にしても、アクアリウムとして人が創り上げた情景にしても、その大きな図を構成するのは、生物や草木、石に砂粒といった小さな小さな存在なのだ。アクアリウムを注意深く覗いてみると、その小さな構成員たちに気が付くことができる。 

こうした生き物や環境による絶妙なバランスにより、ネイチャーアクアリウムは創り上げられる。このバランス感覚こそ、天野氏が追求したものであっただろう。写真家として世界中の自然に間近に触れてきた氏は、同時に人間による自然環境の破壊も強く感じていたという。

 

進んでいくと壁一面を活かしたアクアリウムが登場した。アクアリウムの中から壁まで樹や草といった植物で繋がっており、光を照射する上部からは同時にミストが噴き出している。

このミストシャワーは水槽のろ過した水を気化させたもので、壁の木々に供給されている。設置には高さが必要なため、準備場所の天井を改造してまで作ったという特別な水槽である。







天野氏を語る上で欠かせない、リスボン海洋水族館におけるネイチャーアクアリウム水槽「水中の森」についても紹介されていた。2015年に完成した、全長40メートルという世界最大規模のものである。



大量の石、流木を使い、水族館の中に自然の川を表現させたものだ。天野氏が指揮をとり、総勢60名ものスタッフにより創り上げられた。使われた流木なども、全て日本から持って行ったものだという。

巨大な水槽の模様を大型のスクリーンで体験できるほか、リスボン海洋水族館の展示会場で流されているオリジナル曲も流れていた。



超巨大なものから、小さなものまで、ネイチャーアクアリウムの姿は様々だ。しかし、どのアクアリウム内にも確かに生態系が存在し、小さなものたちの力によって大きな空間が確立されている。

◆これまでにないネイチャーアクアリウム展示

アクアリウムの世界は、主に男性に人気の趣味かと思っていたが、会場には女性やファミリーでもいた。天野氏が表現した美しい世界に魅了される若い女性も多いのだという。



会場では写真や動画撮影も可能である。今回の展示は、天野氏が新潟に設立した株式会社アクアデザインアマノの協力によって実現した企画。そのアクアデザインアマノには、ネイチャーアクアリウム・ギャラリーが置かれており、ADA作品を鑑賞できるが、撮影などはNGなので、今回の展示は貴重な機会と言えるだろう。



この水槽展示を実現させるには、すでに新潟で展示されていたアクアリウム作品を水を抜いて平行移動させてくるという多大な労力を必要としている。水槽管理にも専門スタッフが当たっており、万全の体制で来場者を迎えている。

ぜひこの場所に足を運び、天野尚氏の自然観を、圧倒的な美しさとともに感じてみて欲しい。ひょっとしたら、アクアリウムを自宅で作ってみたい、とあなたにも思わせてくれるかもしれない。



【天野尚 NATURE AQUARIUM展】

<開催日時>
2017年11月8日(水)〜2018年1月14日(日)
平日 12:00〜17:00 / 土日祝 10:00〜17:00
※開催期間中無休
※年末年始の営業時間については、決まり次第公式ホームページ等にて開示

<料金>
・当日 一般 1,300円 / 大学・高校生 1,100円 / 中学生以下 800円
※未就学児無料

<会場 >
ギャラリー アーモ(Gallery AaMo)
東京都文京区後楽1丁目3番地61



















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