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ド肝を抜かれる、ミステリアスかつユニークな神社仏閣が目白押し。『珍寺大道場 大博覧会』 で珍寺を愛でる。

アイコン海外からのお客様や、現職のお坊さんまで来場。

2016/02/09(公開:2015/06/22)
6月のある日、私は普段ならば確実に降り立つことのない駅に興奮気味に降りた。クレープの香りと、やたらおしゃれな若者。そう、原宿である。

おしゃれな若者に「場違い感」を悟られないように足早に向かったのは、白い壁が印象的なギャラリー。そこはかとなく漂うサブカル感に一瞬怯むものの、中に進む。入り口には目当ての展覧会のタイトルがあった。

珍寺大道場 大博覧会 

06.19[金]~06.21[日] / 東京都 / デザインフェスタギャラリー 


原宿を歩くおしゃれな人々にはいささか刺激が強すぎるのではないかと心配になるタイトルである。

これは、珍妙な寺、つまり珍寺を愛する珍寺ラバーにとってバイブル的なインターネットサイト「珍寺大道場」を運営している小嶋独観さんが、満を持してリアルの世界に珍寺の写真コレクションを大放出することを試みた展覧会である。
日本やアジアの、ミステリアスかつユニークな神社仏閣を「珍寺」と称し、18年にわたりレポートしてきた「珍寺大道場」。その歴史の中で初めて、ネットの世界を飛び出したリアルイベントなのだ。


入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、会場の中央に据えられた小嶋独観さんの代名詞とも言える台湾・金剛宮の目から手が飛び出した「甲子太歳金辨大将軍」のオブジェや、カラフルでキュートな仏ドール。





どうやらグッズ売り場のようだ。その周りには仏モチーフのニット帽、甲子太歳金辨大将軍のアップリケのついたバッグなどなど……。これらはなんと奥様である小独観子さんの手づくりだというから恐れ入る。





独観子さんによる不思議な可愛らしさを持った作品たち。色々な国を巡り、色々な場所を見て、色々なものからインスピレーションを受けた作品は、一つとして同じものがない。細部にまで装飾が施されており、神々しさとキュートさが同居している。 







かなり手の込んだニット帽子。よっぽど時間がかかるのだろうと思いきや、一つ作るのにかかる所要時間は、一日~一日半くらいとのこと! そんな短時間でこんなに細かいデザインを編めるなんてすごい……。模様や色は作りながら考えるそう。









目から手Tシャツも数量限定で発売されていた。なんと、プリントではなく布が縫い付けてある! 独観子さん曰く「プリントが良く分からないから、縫い付けちゃえって(笑)」



某エレクトリカルなパレードを彷彿とさせるLED後光なども、会場のサイケデリックさを盛り上げるのに一役買っていた。ミャンマーで購入したというLEDライト。あちらでは仏像の後光を表現するために大活躍しているらしい。 

独観子さん
「本当はもっと大きいものもあったのですが、持って帰ってこれませんからねぇ……。ミャンマーはもう20年くらい前に家族で行きました。まだ小さかった次男も一緒だったのですが、日本人、しかも小さい子供はとても珍しいらしく、たくさんの人に声を掛けられたり、触られたりしました(笑)」

独観さん
「急な階段があったときも、周りの人が『おんぶしてあげようか!?』と声をかけてくれました。家族で色々なところに行くと、自分が忘れてしまっても誰かが覚えていてくれるからいいですね」

独観子さん
「次男は食いしん坊だから、その時食べたもので覚えていたりするんですよ。『そこは〇○を食べたところだよ』って(笑)」




エレクトリカルな後光を放つ、仏ドール。動画はこちら⇒https://youtu.be/nYYSsm1uJgg  


会場にはご長男もいらっしゃった。幼い頃から様々な珍寺や珍スポットを巡り、いわば“英才教育”を受けてきたという。

独観さん
「教育というか、もはや調教とか、洗脳に近いですよね(笑)」

息子さん
「周りの友達は家族旅行にメジャーな観光スポットに行っているのに、うちはなんでこういう場所なんだろうと思ってました。でも、だんだん見ているうちに興味が湧いてきて、1人で珍寺に行ったこともありますよ」

余談であるが、私は先月台湾に旅行し、件の甲子太歳金辨大将軍の像のある金剛宮を訪れた。そこにはおびただしい数の仏像やコンクリ像があった。その数1,000には上っていたように思う。

様々な像に感嘆の声をあげていた私に、金剛宮のスタッフがおもむろに近付き、片言の日本語でこう話しかけた。「目ぇカラ手?」と。

もしや、甲子太歳金辨大将軍のことを言っているのかと思い、「Yes,yes」と言うとこう続ける。「ニホンジン、ミンナ目ぇカラ手、ミル」と……。

日本人がみんな『目ぇから』手を見るようにしむけたのは間違いなく珍寺大道場だろう。珍寺大道場はそれだけ多くの珍寺ラバーに影響を与えているサイトなのだ。


会場の角に鎮座する、ハンドメイド甲子太歳金辨大将軍の像。

王の腐敗、堕落を諫言したある役人。しかし、王の怒りに触れて目をえぐられてしまう。哀れに思った仙人が彼の目に仙丹(霊薬)を入れたところ、あら不思議! 目から手が生えて、手に目玉ができたそう。手が届くところなら、何でもどこでも見られるそうな。

しかし、なぜわざわざ手を生やした上で目玉を付けた……? 独観氏はそんなシュールさ、ナンセンスさが気に入っており、SNSのアイコンにもしているとのこと。 


小嶋独観氏と、甲子太歳金辨大将軍 a.k.a 『目ぇから手』。


話を会場に戻す。グッズが置いてあるテーブルを囲むように、9畳ほどのギャラリーの壁には、所狭しと写真が展示されている。

 

日本の珍寺や巨大観音、国内外の地獄寺、ド派手寺など、その数約70点にも及んでいた。ちなみに、地獄寺という言葉を聞きなれない方もいらっしゃるだろう。地獄寺は多くはタイに存在する、地獄の風景(想像図)をコンクリ像で具現化した建造物のある寺である。

 


額縁の柄には全てレースが施されていて、それがなんともキッチュだったりシュールだったりする珍寺にマッチしていた。

展示されている写真を比べて見ると、国内の寺や仏像のシンプルな色合いに対し、国外(ここでは東南アジアがほとんど)の仏像やコンクリ像のカラフルなこと……。もはや海外の珍寺は、宗教のテーマパークのような存在なのであろう。

また、コンクリートに彩色する際には、ペンキを使うことが多いのでビビッドな仕上がりになっている。特に東南アジアはカラフルなものが多い。独観氏によると、コンクリートは石や木よりも大きなものが作れ、なおかつ風雨にも強く外に置けるため、こうした“珍寺”ではメジャーな素材だそう。






全くもって霊験あらたかな感じはしないが、妙に楽しそうである。

その斬新な色合いや形状によって遠目からでも目を引き、人目をはばからない「明らかに“珍”なもの」である海外の珍寺に対し、国内の珍寺は「そっと当たり前のようにそこにあるけど、何かがおかしい」という“不思議ちゃん”度が高い寺が多い印象を受けた。


独観さん
「同じ日本国内でも、信仰の性格というか特色や、仏像の顔は地域によって異なります。東北の方はじめっとしているというか、心の奥底から湧き上がる何かを表現したものが多い。一方、九州など南の方はもっとカラッとしている。仏像の顔も目がぱっちりしていて、ハッキリした顔立ちが多いですね」

 
主に国内の珍寺のエリア


主に国外の珍寺エリア

独観さん
「海外の地獄寺は地獄を表現しているはずなのに、カラフルな色合いとゆるいデザインのせいであまり怖くないですよね。地元の保育園児や小学生なんかは遠足で遊びに来て、これらを見てキャッキャと笑っています。

でも、思わず笑ってしまうような見かけでも、作った人たちはすごく真剣に、情熱を持って作品を作っている。技術が追い付かなくても、溢れ出す熱意や信仰心をなんとか形にしようとした結果なんです。こうしたものは個人で、一生をかけて作っているものが多い。

そういう姿勢には感銘を受けますね。だから、ただ面白がるだけではなくて、見ている方も真剣にというか、尊敬の念を忘れないで欲しいです」


私も「珍寺大道場」を度々拝見しており、この壁に並んでいる寺々に独観さんを追いかけるようにして訪れたことがある。その数は20にも満たないと思うが、実際にこの写真の寺を見てきた者として言えることは、その寺の一番インパクトのある、味のあるポイントがこの会場に集結しているということだ。

いわば、珍寺ベストショット。いや、珍寺フォトジェニック!!!

それを撮りこぼすことなくカメラで切り取ることができるからこそ、珍寺大道場は多くの珍寺ラバーの心をつかみ、探究心を刺激し、珍寺に足を運ばせるのだと感じた。






独観さん
「インターネットだと、どうしても顔が見えない部分があります。実際に来てくれた人とあって、直接感想を聞けるのが嬉しいですね。会期は短いですが、その分ずっと在廊することができるので良いと思っています。

“珍寺”は個人でやっているところが多いので、管理する人がいなくなってしまうと、荒廃して存在自体がなくなってしまうこともあるんです。だから、そうしたものを記録して、残しておくためという目的もあります。まだまだ色々な行かなくてはいけない場所がありますから、珍寺のルポは続けていきたいですね」


会場にいらっしゃる方もかなり多種多様であった。会場をゆっくりと見て回っていると、若い外国の方が来場し「Strange temples!! Wooow!」と大喜びの様子。

英語が堪能な独観子さんと珍寺トークに花を咲かせ、「こういうとこ行ってみたいんですよネー」「関東にもあります?牛久?大仏?近いジャン!」と、海を越えた珍寺伝導の瞬間を目の当たりにすることができた。

また、2人組の坊主頭コンビはモノホンのお坊さんのようで「いつか僕が住職になったら、うちをこんな寺に……」と珍寺誕生を予感させる発言も飛び出していた。


こうして広がる珍寺の輪。インターネット上でも、現実世界でも、「珍寺大道場」は間違いなくその輪を広げ続け、珍寺カルチャーを世に広めるための大きな役割を担っているのである。

このキテレツかつサイケデリックな珍寺の世界が気になった方は、インターネットサイト“珍寺大道場”をチェック。遠い異国の珍寺に興奮するのもよし、自宅近くの珍寺を探してみるのもよし。まずは、奥深い珍寺の魅力に触れてみてほしいと思う。


2015.06.22 森嶋千春 (撮影・インタビュー 篠崎夏美)

 



 


 
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