02.05〔金〕~06.09〔火〕/東京都/多摩動物公園

これまでライオンの群れ飼育、チーター、ユキヒョウなど希少種の繁殖など、小型から大型までネコ科動物を飼育してきた実績がある多摩動物公園で「野生のネコ」(ネコ科動物)たちについての展示が行われています。
今回の企画展示イベントを通じ、ネコ科動物に対してより深い知識、関心を持ってもらうことが狙いだそう。展示されているのは動物園で飼育されている、トラ、ライオン、チーター、ユキヒョウ、サーバルの5種。
動物園のネコも「血統書」が付いている
ネコ科の動物は、基本的に単独で暮らしなわばりを持ちます。ライオンのみが唯一群れ(プライドと呼ばれる)を作って暮らし、獲物が豊富な場所では数十頭近くの大きな群れを形成することも。
ネコ科動物は絶滅に瀕している種が多い
国際自然保護連合では、野生ネコ科動物37種について、レッドリストを作成しています。37種のうち、70%もの種が絶滅危惧種、準絶滅危惧種にあたるとのこと。
ネコはイヌより“野生”に近い!?
ペットとしてもお馴染みのネコですが、一般的に家庭で飼われているネコは動物学上「イエネコ」と呼ばれるそう。
ペットとして飼育されているイエネコの祖先はリビアヤマネコであり、今からおよそ4000年前にエジプトで家畜化されたと考えられています。
イヌは品種改良により約350種もの種類がありますが、ネコは約40種のみ。(※学者によっては100種類くらいまで、諸説あるそうです)ネコはイヌほど、人による改良が加わっていないと言えるでしょう。(ある意味野生に近いのですね。だから筆者が飼っている猫は、あんなにも『俺様』な態度なのか……)
美しい「幻のヒョウ」、「ヒマラヤの貴婦人」。
ユキヒョウは「幻のヒョウ」とも言われ、足が大きく、シッポが長いことが特徴。近年、毛皮や漢方薬にすることを目的とした密猟、羊など家畜の過放牧、温暖化による生息地の減少により、個体数が減り絶滅危惧種に指定されています。
ユキヒョウはヒマラヤ山脈などの、標高が高い寒冷な山岳地帯に生息しています。その美しい姿から、「ヒマヤラの貴婦人」とも呼ばれています。基本的には1頭で暮らし、繁殖期にペアとなった2頭は1週間ほど一緒に過ごした後、また単独生活に戻っていきます。(1週間だけ密に過ごすのって、ちょっと素敵)標高がとても高い山に生息しているため、現地でもめったに姿を見ることができません。
野生のユキヒョウ映像が見られます
ユキヒョウを絶滅から守るための任意団体 「まもろうPROJECT」による活動の紹介も行われていました。
※「まもろうPROJECT」では、希少種の繁殖研究を行う木下こづえさんと、コピーライターの木下さとみさんの双子姉妹を中心に、大学(研究者)、クリエーター、動物園、水族館がひとつになって、絶滅危惧種の保全活動を行っています。
※「まもろうPROJECT」では、希少種の繁殖研究を行う木下こづえさんと、コピーライターの木下さとみさんの双子姉妹を中心に、大学(研究者)、クリエーター、動物園、水族館がひとつになって、絶滅危惧種の保全活動を行っています。
②保全活動の参加者(パトロン)を募集し、絶滅の危機から守るため生息調査に必要な赤外線カメラの購入資金をWEB上で募りました。これにより合計で1,113,055円もの募金が集まったそう。
③生息地モンゴルでの生息調査を実施。募金で購入した赤外線カメラ8台をモンゴルのバガボグド山に設置し、その様子をWEB上で公開。調査の結果、初めて親子のユキヒョウを撮影することができました。
動物園で飼育されているユキヒョウ。白い毛並みが美しいですね。
まだまだいるよ。野生の肉球たち。
<トラ>
トラ:ロシア、中国、インド、東南アジアに生息
アムールトラ、マレートラ、スマトラトラ、インドシナトラ、ベンガルトラ、ジャワトラなどの亜種がいます。野生のトラの生息数は約4000頭とも言われており、絶滅が心配されています。
また、多摩動物公園に昨年完成した新アムールトラ舎は、一部がガラスになっており、間近でトラを見ることができます。
<ライオン>
ライオン:アフリカ、インド北西部に生息
ライオン=アフリカのサバンナというイメージがありますが、インドにも生息しており、インドライオンと呼ばれるそう。アフリカライオンよりやや小柄で、淡い色をしているものが多いそう。生息数は約39,000頭(インドライオン320頭)。
ちなみに冬の多摩動物公園のライオンたちは、ライオン園の北側東寄り(橋側)の壁沿いの日だまりに集まることが多いのだとか。
<チーター>
チーター:アフリカ南部と東部、イランの一部に生息
生息数は10,000頭以下。ネコ科の動物は爪をしまうことが出来るのが特徴ですが、チーターは出た状態になっており、走る時にスパイクの役目を果たします。
可愛いぬいぐるみ。一見同じに見えますが……
模様が違います。
キングチーターと普通のチーターの柄の比較が出来ます。「キングチーター」 は世界でも数十頭しかいない珍しいチーター。発見された当初は別種と考えられていましたが、その後の研究で同種と判明。普通のチーターの斑点模様がつながって帯状となったもので、劣性遺伝によって産まれた個体です。
<サーバル>
サーバル:アフリカ大陸サハラ砂漠以南のサバンナに生息
「サーバル」という名前はスペイン語の猟犬に由来します。以前は英名を翻訳した「サーバルキャット」という呼び名が主でしたが、最近は「サーバル」と呼ばれています。
小さな頭、長い手足、そのスタイルの良さから『サバンナのスーパーモデル』、『ネコ科の中でも美しい動物 』とも言われます。
もっとTAMA ZOOのネコたちについて知りたい!
多摩動物公園スタッフの方に、TAMAZOOのネコたちについて伺いました。
○ネコ展で展示されている動物たちは、それぞれ何頭飼育されていますか?
トラ2頭、ライオン17頭、ユキヒョウ6頭、チーター13頭、サーバル6頭です。(2/16現在)
アムールトラ【画像提供:多摩動物公園】
○野生のネコについて、飼育の難しさを教えてください。
イエネコと異なり、野生動物は体調が悪いことを態度に出しません。そのため動物の体調を理解し、把握することが一番難しいことです。当園で飼育しているネコ科動物の多くは、絶滅の危機にあります。飼育・繁殖は困難ですが、来園者のかたに現状をお伝えし、遺伝的な種の保存にも貢献していくことが大切だと考えています。

チーター【画像提供:多摩動物公園】
○飼育をされてきた中で、印象深い出来事がありましたら教えてください。
私はライオンの飼育係を6年間担当していました。ある雌のライオンが妊娠し、出産のために他のライオン達から離したのですが、その母親は出産後、育児放棄に近い状態となってしまいました。
子どもに授乳を行わない状態であったため、やむを得ず人工哺乳に切り替え、母親の体調のケアを行い、元々仲が良かった雌を個室の近くに移動させることでストレスを減らす対策を取りました。その結果徐々に授乳を再開し、最終的には親子で群れに戻ることができたのです。このケースから、群れで行動するライオンは個体同士の関係性をよく理解すべきであること、母親へのケアがより重要であることを学びました。
ライオン【画像提供:多摩動物公園】
我が家の“肉球”は幸せ者…?
日曜日だったこともあり家族連れの来園者が多かったのですが、ジオラマやぬいぐるみなどの子供が喜びそうなコンテンツ以外にも、ネコ科動物に関しての詳細な資料などがあり、大人も十分に楽しめる展示内容でした。
また展示の入れ替えも予定しているそうなので、何度か足を運んでみても面白いかもしれません。
サーバル【画像提供:多摩動物公園】
ネコ好きな筆者ですが、個人的にサーバルという野生ネコを初めて知ることが出来たのが嬉しかったです。カフェテラスが併設されているネコ展の会場。動物園をぐるっと回った後、暖かいコーヒーを飲んでひと息ついてから、野生の肉球たちに思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
厳しい自然の中で生きる、様々なネコ科動物について学び帰宅しました。するとそこには、エアコンの効いた部屋で寝ている愛猫の姿が。彼を見て、「完全室内飼いの都会ネコは幸せだね……」と思ってしまいました。
あなたの周りにいるネコと似ているところ、違うところ……。魅力あふれる野生の肉球たちに会いに行ってみては。
ユキヒョウ【画像提供:多摩動物公園
2015.02.18 文・写真 小松田久美