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現代日本の“サムライ”、サラリーマンたちをのぞき見。 ブルノ・カンケ 「サラリーマン・プロジェクト 2015 有終の美」

アイコンフランス人写真家が見た、ニッポンのサラリーマン。

2014/12/14(公開:2014/12/07)

あなたは今日、何人の「サラリーマン」を見ただろう?

オフィスはもちろん、電車、街角、さまざまなところで見かけるサラリーマンたち。平凡な姿にも思えるが、あるフランス人によると日本のサラリーマンは、他の国の雇い人とは違うらしい。

『彼等は戦士、サムライの末裔なのだ。自我を殺して会社に仕える。礼儀正しく24時間会社の看板をしょっている』
(オーナー、アツコ•バルーさんより)

 

ブルノ・カンケ 「サラリーマン・プロジェクト 2015 有終の美」
SALARYMAN PROJECT 2015 Bruno Quinquet

11.29[土]~12.07[日] / 東京都 / アツコバルー ATSUKOBAROUH arts drinks talk

フランス出身の写真家、ブルノ・カンケ氏は日本のサラリーマンに魅せられ、2006年からサラリーマンを撮りはじめた。そこには日本の季節の移り変わりを背景として、男性性、規則性、匿名性が表現されている。 

そう、ここにいるサラリーマンたちはほとんど顔が写っていない。そのため、とても不思議な印象を受ける。桜の枝、大量のおみくじ、交通標識、うなぎ屋ののれん、さまざまな方法で顔を隠されたサラリーマンたち。首から下げているネームプレートを、ワイシャツの中にしまっている場面も。

サラリーマンを象徴するような場面、良く見かける「あるある」な場面。見慣れているはずなのに、なぜか新鮮だ。

 



プロジェクトが始まったのは2006年。きっかけは河口湖の森でサラリーマンを見かけたことだった。日本に語学留学していたブルノさんにとっては、既に見慣れた存在だったサラリーマン。しかし、スーツにアタッシュケースを持った男性が山道に現れた。「サラリーマンが森にいる!」と驚き、新鮮に感じサラリーマンの写真を撮り始めたという。(もっとも、森の中にサラリーマンが突如現れたら、日本人だって驚くだろう)

そして『ビューロー・デ・チュード・ジャポネーズ(日本学研究所)』という、彼曰く“もっともらしい名前”の研究所を設立し、所長としてオフィスワーカーの観察記録であるサラリーマンプロジェクトを開始した。 

 
ブルノ・カンケ写真集「サラリーマン プロジェクト 2015」
ビューローデチュードジャポネーズ研究所/2014年10月発行
B5/並製/カラー/64ページ/写真点数:53点
定価:2400円(税込) 

「サラリーマンプロジェクト」は、ビジネス手帳形式の作品。実際に2013年版、2014年版、2015年版が発行されている。残念ながら今回の2015年版が3年に渡るプロジェクトの最終章だ。 


会場で写真家、ブルノ・カンケ氏にお話を聞いた。

◆これまで撮影したサラリーマンの人数は?

手帳に掲載されているのは、三冊合わせて157人くらいかな。今まで撮影した人数はとてもたくさん!!多すぎて伝えられない・・・。


◆看板や建物で上手く顔が隠れていますが、どうやって撮影しているのですか?

たまたま見かけて撮影したり、ずっと同じ場所で待っていたり、色々です。渋谷駅前の喫煙所で撮影しようとしたときは、サラリーマンが大勢いすぎてなかなか撮影出来なかったですね。一つの作品に一人と決めているので・・・。その時はいったん『花まるうどん』で昼食をとることにしたのですが、そこで良いシーンがあったので別のシーンも撮影しました。

また「ココで撮りたい!」と思って決めた場所に、なかなかサラリーマンが来なくて、数日かかったこともありました。ある日、そこにフェンスが立てかけられて入れなくなっていたんです。ウロウロしていた僕がジャマだったのかな(笑) はたから見たら、ただ外国人観光客が写真を撮っているように見えるでしょうね。

背中にバックのひもの汗染みが出来ている人の写真を撮った時は、渋谷のスクランブル交差点で‘(アイドルを追いかける)オタク’みたいにカメラを持って、サラリーマンを追いかけました。相手は汗をかいた男の人なのに(笑) アートのためですから頑張りましたよ!


◆ビジネスマンがマンガを読んでいる写真もありますね。こういう場面は、海外の人からすると奇異に写ると聞いたことがありますが、どう思いますか?

特に変だとは思わないですね。この写真は確かに(紙の本になった)マンガを読んでいますが、最近は電車の中でスマホやタブレットで見ている人も多いです。写真はこうした変化の記録にもなっています。


◆フランスのサラリーマンと、日本のサラリーマンの違いは?

フランスにサラリーマンはいません。オフィスで働いている人はいますが、普段着なので街に出てしまうと分からないんです。一方、日本のサラリーマンは“ビジネスマン”に見えます。フランスでは(揃いのスーツ上下だと)会社のトップのように見えますが、日本だと平社員もスーツですよね。

私はオフィスで働いたことがないので、日本の侍や、お寺と同じようにスーツ姿のサラリーマンもエキゾティックに感じます。不思議でミステリアスな存在です。


◆特にお気に入りの写真はありますか?

ヒカリエで撮影したベンチに座っている人の写真でしょうか。頭を下げている姿を後ろから撮ったので、まるで灰色のオブジェのようです。まるで私がいることに気付いていないよう。撮影者の気配を感じさせないところが気に入っています。


 
2015年版写真手帳のプリント、地図(Google Map)を使った参加型インスタレーションもあった。 

 
箱の中には小さな写真がたくさん


後ろの壁に貼られた写真から、同じものを探す。


写真には
撮影場所が書かれている (かなり見づらいが「Hibiya Park」と書いてある)


東京の地図上に写真をピンで留めていく

一度集めた写真をバラバラにして、また再構築する。「サラリーマンの聖地」と言われる新橋が意外と少なかったり、どこかで見覚えのある場所があったり、発見が多い。ブルノさん曰く、あまりにサラリーマンが多いと撮影がしにくいそうだ。



汗染みの出来たワイシャツ、花火を見上げる、満員電車の曇ったガラス・・・。サラリーマンと日本の四季が1枚の写真として、見事に切り取られている。会社のため、家族のために一心不乱に働く‘サムライ’たち。頑張る彼等が1人の人間に戻っている姿、ちょっとした休憩の姿。そうした一瞬をこっそりと写している。

いつもは景色の一部で見慣れた存在だった『日本のサラリーマン』が新鮮に見える。そして、張る男たちがときおり見せる‘素’の一瞬。見ていると称賛の気持ちと、愛しい気持ちが湧いてきて、「お疲れ様です」と声を掛けたくなる。

日本にはこんな美しい景色があって、こんなに頑張っている人たちがいるのだ。

 

2014.12.01 文・写真 篠崎夏美
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