今回の展覧会のキャッチコピーだ。
そんなこと考えたこともなかったけど、確かに魅力的かもしれない。
病院や歯医者に並ぶ様々な器具。
何に使うか分からない不思議な形の物も・・・。
あなたも、気になったことはないだろうか?
医療従事者でもない限り、あまり馴染みのない医療器具。そんな医療器具を大量に展示する(展示数はおよそ200点)。全て個人のコレクションだそうだ。 ディレクターには緊縛師・春兜京氏、日本広告写真家協会・菅野秀明氏を招いており、医療器具がどのように表現されているかにも注目したい。
とても新宿とは思えない住宅街の奥。ギャラリー新宿座のドアを開けると、目の前にナースが座っていた。白いナースキャップ、白いナース服、白いマスク。実は彼女、緊縛氏・春兜京氏がプロデュースした女性。会期中は日替わりでナースたちが会場の案内役を務めるという。
医療器具展ビジュアルの一例
怖いのもグロイのも大嫌い。血も無理だし、胃カメラの映像(他人の)を見て貧血になったこともある。今回の展示も、コワイ・グロイだったらどうしよう・・・と心配していたが、全くそんなことはなかった。
病院や保健室とは違う、明らかに「見せるため」、「魅せるため」の展示。冷たく光るメスやハサミ。思わず見入ってしまう‘本物’の美しさだ。
これらの器具は明確な目的を持って作られている。そして、明確なイメージを持っている。『この器具が肌に触れたら、ひんやりするだろうな』、『すっぱりと肌を切るのだろうな』というリアルな想像が働いてしまう。
それが怖くもあり、抗いようもなく魅力的でもある。
左)こうして見ると、カラフルでポップなアート作品。
右)一見無造作に器具が置かれた棚は、洒落た雑貨店のようでもある。
左)リンゴと並べられた歯。シュールであり、ユーモアがある。
右)モノクロ写真の骨格模型に物語を感じる。
右)モノクロ写真の骨格模型に物語を感じる。
医学書だけでなく、美術解剖学、ボディア―トの本も紹介されていた。患部の症例写真は、正直かなり気持ち悪いのだが、見てしまう。保健室の廊下や、病院に貼ってあったポスターを怖いもの見たさでチラチラ見ていたことを思い出した。
ナースにいざなわれて、もう一つの展示室へ。真っ黒いカーテンが引かれており中がどうなっているかは分からない。覗いてみるとかなり暗い。妖しい青っぽい光の中に、身体の中身を晒した人体模型やら、骸骨やらが佇んでいる。
お化け屋敷の類が非常に苦手な私はここで足がすくんでしまったが、懐中電灯を渡されて恐る恐る足を踏み入れる。
輪郭のはっきりしない灯りで照らし出される人体模型。まるで肝試しか、『学校の怪談』の世界だ。人体断面図やら、デスマスクと思しきものやら、暗闇で見るには恐ろし過ぎるものがずらり。
しかし、だんだんと慣れてきて、一つ一つをじっくり見る余裕も生まれてきた。そもそも、怖がっているけれど、全部自分の体にもあるものなのだ。皮一枚剥げば、私もこうなるんだ、と思ったら落ち着いてきた。ライトが当たって、ぬめりと光る模型は、エロティックでもある。
鑑賞者は自分の手に持ったライトで、自分の好きな器具を照らして見ることが出来る、アトラクション性がある展示だ。まるでスポットライトのように、小さな灯りが模型を暗闇の中に浮かび上がらせ、その人だけの展示空間が出来上がる。
リアルな赤ん坊の人形は今にも泣き出しそうで怖かったが、子宮の中にいる胎児が生まれ出てくるまでを表した彫刻の写真は気に入った。とても美しく神々しくて、神話のレリーフのようである。
ギャラリー新宿座を経営する木村さんにお話を聞いた。企画のきっかけは、個人で大量の医療器具をコレクションしている人がいたことだそう。
医療器具展と聞くと‘性的’、‘猟奇的’というイメージを浮かべる人も多いだろう。最近も、ある事件の容疑者が医学書や人の解剖に興味を持っていた、と報じられ話題になった。
しかし、医療器具に対するイメージはもちろんそれだけではない。医療器具は人を救うための道具であり、人を(肉体的、時には精神的にも)変える力を持っている。
見る人によって受け取り方は様々である。木村さんは敢えてイメージを導かず、鑑賞者それぞれで感じて欲しいという。受け取り方によってはエロティックな部分もあるが、それを前面に出すのではなく、妄想の余地を残している。
痛そう、怖そう、だけど見てしまう。
ひっそりと、つつましやかに。しかし、明確な使命を持った医療器具たちが美しくレイアウトされた会場は、全体が一つの大きな作品とも言える。
大量に医療器具が並べられた空間で、あなたはどんなことを感じるだろうか?
2014.08.18 文・写真 篠崎夏美