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五差路の不思議な画廊で‘10人目’の夢を見る 「画廊珈琲 Zaroff ザロフ企画 夢-こんな夢を見た」

アイコン他人の夢を覗いてみたら・・・

2014/06/24(公開:2014/06/20)
こんな夢を見た。

夜の静かな住宅街。五差路に佇む建物。


突然現れた濃い影のようでもあり、大きく優しい木のようでもある。木の洞に身を寄せる動物のようにドアを開ける。薄暗い店の中で、先客の眼が灯りを受けてきらりと光った。

壁を埋め尽くす大量の本、古い写真、西洋人形、骨格模型・・・。色々なものに目を奪われながら、喫茶店の奥へと進む。

急な階段が現われる。靴を脱いで登っていくと、ここにも石膏像や絵画が飾られている。棚には本がぎっしり。『不思議の国のアリス』が落ちた穴にも戸棚や本棚があったが、ここはその穴を逆行しているようだ。

足の裏に感じる階段の感覚はリアルなのに、どんどん不思議な空間に入り込んでいく気がする。

   



06.19[木]~07.01[火] / 東京都 / 画廊珈琲 Zaroff ザロフ



‘こんな夢を見た’というのは、夏目漱石の『夢十夜』の冒頭の一文である。2階の会場では夏目漱石の「夢十夜」の朗読CDが流れていた。 夢という視覚的な体験。このイベントでは、視覚芸術を代表する作家たちが、 個人的な体験である夢を客観的に作品化している。

出展作家は、小川香織、おぐらとうこ、木村龍、雲母りほ、黒木こずゑ、清水真理、関野栄美、立島夕子、横田沙夜の9名。オーナーが『この人の夢が見たい』と思った作家たちを集めたのだそう。それぞれの作風、大きさなど様々なバランスを考えて集められている。

なぜ9名なのか問うと、オーナーは冗談で『野球が好きだから』と仰っていた。もしかすると、作家9名の夢に鑑賞者(自分)の夢を加えて、「夢十夜」が完成するということなのだろうか。



夢を思い出すのは難しい。見たことは確かなのに、朝起きたときにはどこかに行ってしまう。切れ端が頭のどこかに引っかかっているのだけど、上手く捕まえられない。夢は暗い水の中の魚のように、鱗を一瞬光らせると、身を翻して消えてしまう。


   

そんなぼんやりとして儚い夢を立体、絵画にすることで、この世に繋ぎとめた作品たち。自分の意識の一部を、形にして現実に残せる人たちが少し羨ましい。


   

夢は時に、荒唐無稽で不条理で無秩序だ。そんな夢の断片を集めて、くっつけたような作品たち。人の夢の中を覗いているような、興味深いけれど少し後ろめたい気分。

   

夢は時に、グロテスクでエロティックで暴力的だ。起きた時もずっと頭から離れない映像や、思わず飛び起きてしまう悪夢もある。そういう悪夢も、作品として向き合うことで自分の深層心理が見えてきたり、克服出来たりするのだろうか。

   

   

出展作家の一人、立島夕子さんに話を聞くことが出来た。彼女は良く夢を見るそうで、特に印象に残ったものは、起きた時に‘ミミズがのたくったような’状態でもメモを書いておくらしい。左端の絵も入院中に見た夢を記録しておいて、それを絵にしている。

ちなみに良く夢を見るが、ほとんどが悪夢だそうだ。試しに「最近見た一番良かった夢は?」と聞いてみた。すると、一面の見事な桜の中(ラピュタみたいな、とのこと)で、制服を着た自分と同級生たちが手を繋ぎ、輪になってどんどん空に昇っていく夢だと教えてくれた。切ないけれど、美しいイメージが浮かんだ。


   

夢は儚いけれど、中には頭の隅にずっと残るものもある。同じシーンやモチーフが何度も繰り返し登場することもある。それらは、もはや自分の一部なのかもしれない。 

小部屋に9人のアーティストの‘夢’が詰まっている。そこに入ると、自分がいつか見た夢のイメージもいつの間にか引っ張りだされてしまう。綺麗なものも、汚いものもごちゃまぜだ。とらえどころがなくて、怖くて、優しくて、切り取る部分によって様々な色をしている。夢とはそういうものかもしれない。



一階に下りて、‘テオブロマ’のココアをいただく。ミルクとココアが描くマーブル模様を見ていると、この瞬間も夢の中のように思えてくる。濃いココアは、まるで血液のように体を巡っていく。熱くて、甘くて、身体の奥からじんわり溶けてしまいそうだ。

隣の席には人形作家・画家の木村龍氏がいた。不躾ながら、またもや「最近見た夢はありますか?」と聞いてみる。木村氏はうたた寝をしていた時に浮かんだと言う、詩のごとく幻想的なイメージの話をしてくれた。そして『現実も夢も、同じようなものだねぇー』と、ふわりと笑った。まるで煙がたゆたうような、優しいチェシャ猫のような笑顔だった。


駅までの道を歩きながら、何だかあの場所自体が夢のようだったなぁと考えていた。明るい時にまた行ってみたら、そこには何もなかった、という結末でも納得してしまいそうだ。まるで夢と現を行き来するような、不思議で癖になる空間。

そこであなたはどんな夢を見るだろうか?



2014.06.20 文・写真 篠崎夏美
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