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純度100%の闇!体験した事ある?いくら目を凝らしても真っ暗な空間 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク レインバージョン 」

アイコン暗闇ってやさしい

2014/06/11(公開:2014/06/11)
最近、「まっくら」を見ていない。

電気を消しても外から光は入ってくるし、何かの電源ボタンが光っていたり、うすぼんやりと明るい。

「まっくら」というのは、かなり貴重なのかもしれない。

一方で、完全な闇というのは怖いものだ。人間は本能的に闇を怖がるように出来ている。だが、敢えてそんな闇の中で様々な体験をするソーシャルプログラムがある。




06.06[金]~07.13[日] / 東京都 / ダイアログ・イン・ザ・ダーク 東京外苑前会場


外苑前会場入り口

「DIALOG IN THE DARK(ダイアログ・イン・ザ・ダーク )」
完全に光を遮断した空間の中にグループで入る。そして、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)のサポートのもとで様々なシーンを体験する。


扉の奥が体験スペース

事前に予約した8名のグループで部屋に入る。数名で来ている人も、1人で来ている人もいる。もちろん全員初対面。薄暗い部屋に案内される。良かった、いきなり真っ暗になるわけではないようだ。

私たちのアテンドは、視覚障がい者のMさんという女性。注意事項などを聞いた後、自分に合うサイズの白い杖を選ぶ。駅などで白杖を持って歩いている人を見かけたことはあるが、実際に持ってみると杖一本でこんなに地面の感覚が分かるのかと驚いた。段差の有無はもちろん、どんな質感で、どんな固さかも伝わってくる。



完全な闇の中へ

奥のカーテンを開けてさらに中に入って行く。 ここから本格的に真っ暗な空間だ。目を開けていても、閉じていても、全く分からないくらいの闇。昔話で出てきた‘鼻をつままれても分からないくらいの闇’とはこんな暗さだろう。

あちこちから「怖い・・・」という声が聞こえてくる。Mさんの声と、白杖、そして自分の感覚を頼りに進む。いつの間にか、参加者同士で声をかけたり、手を取り合ったりしていた。入る前はぎこちなかったのに、こんなに短時間で距離が縮まることに驚いた。知らない人同士でも、協力し合わないと前に進めないし、さっき会ったばかりの人でも近くに誰かがいることでとても安心できる。

Mさんは常に優しく声をかけてくれ、誘導してくれるので心強かった。 ここではいつもは‘見えている’私たちが見えなくて、‘見えていない’Mさんが見えている、という逆転現象が起こる。

最初はただただ真っ暗なことに戸惑っていたが、足の裏の感覚、耳元でカサカサ言う葉っぱの音、触れてみた地面の感覚、どんどん色んな感覚が研ぎ澄まされていくことが分かる。初めは一歩踏み出すことすら怖かったのだが、どんどん辺りを歩けるようになってくる。




真っ暗な中で遊ぶ。

遊具を手探りで見つけ、尻餅をつきそうになりながら恐々と座る。思い切って漕いでみるとまるで暗闇の中で浮かんでいるような感覚になった。自分の手足がどこにあるかも見えないので、自分が闇の中に溶けているような気分だ。

その後、Mさんが『これから皆さんを、私の家にご招待します』と言う。進んでいくと、何やら建物に着いたようだ。声の反響で壁があることが分かる。押し合いへし合いしながら、縁側に座る。

這いつくばるようにして畳の部屋に上がると、ちゃぶ台がある。その上には、昔懐かしい糊の容器。匂いでも懐かしさが甦る。ここで‘アジサイ’を作ると言う。和紙のような手触りの大きな紙を渡された。どうやって作るかも自分たちで考える。誰かがこれを丸めて、そこに千切った紙を貼っていくことを提案した。自然と紙を千切る人、糊を付ける人も決まった。何か一つのものを作り上げることで、一体感が生まれる。




真っ暗な中で冒険と食事。

次は吊り橋が出現。手すりがあると言われたけれど、いくら手を伸ばしても分からず、ぐらぐらする吊り橋を歩く。バランスを取ろうにも、真っ暗なので水平を保つことも難しい。途中で大きく橋が揺れ、思わず悲鳴を上げてしまった。 

 一足歩くごとに「坂になっています」、「段差があります」という声が飛んでくる。誰かが近くにいると、手を取って「これは誰?」、「○○ですよ」と確認しあったり、数十分前に出会ったばかりの人たちとは思えないくらい、心地良い空間が出来上がっていた。

その後、歩いていくとカフェが出現。・・・と言っても全く見えないのだが、建物の中に入ったこと、テーブルと椅子があることは分かる。そこでお菓子や飲み物を注文。店員さんは真っ暗な中で注文をとり、きちんと注文した人のところに品物を届ける。私たちは椅子に座るのもやっとだったのに、配膳や会計などもスムーズで驚いた。後から聞いたところ、あの‘カフェ’で働いている店員さんも、皆さん視覚障がい者だそうだ。

食べ慣れたお菓子も、これは苺味かな?これは何の形かな?と一つ一つの事に意識を配りながら食べることで、普段とは全く違って感じた。味や、食感がより鮮明になる。限定メニューの梅酒も頼んでみたが、香りがいつもより濃厚に感じた。視覚に頼らない分、氷のカラカラ鳴る音、爽やかな梅の香りと甘み、そういうものをじっくり楽しみながら味わった。





居心地のよい暗闇

いよいよ最後の空間。あっと言う間に感じたが既に75分も経過していた。顔が見えないくらい照明を抑えた部屋に入ったが、それでも眩しく感じた。正直、暗闇から出てしまうのが惜しいくらい、いつの間にか暗闇を楽しんでいた。

全員が口を揃えて「楽しかった」、「すごく新鮮な体験だった」、「人のぬくもりを感じた」と言っていた。また、普段引っ込み思案な人が率先してみんなをまとめていたり、大きな体格な男性が怖かった・・・と呟いたり、その人の意外な面が出てきたようだった。

そして、出発点へと戻ってきた。落ち着いた照明のはずなのに、まぶしくて、まぶしくて、目が開けられない。暗闇の中で作った「アジサイ」もここでお披露目。



とても不恰好だけれど、みんなで力を合わせて作ったと思うと愛しい。ベースとなる紙は黒だった。明るいところで渡されていたら、きっと黒い紙に色紙を貼ってアジサイを作っていたに違いない。見えないからこそ柔軟な発想が出来たのだ。

およそ一時間半の体験。さっきまで他人だった人たちが、暗闇から出てきたときには大切なパートナーになっていた。


アテンドのMさん

とても朗らかで、いつも的確な指示をくれた。また、メンバーの声をすぐ覚えて、誰がどこにいるのかを瞬時に判断していたことに驚いた。 彼女の声が聞こえると皆安心していたようだった。



外苑前会場エントランス

普段、人は約8割の情報を視覚から得ているのだという。それを遮断することによって、残りの2割の感覚、さらには潜在的な感覚までフルに使っていることを実感できる。

全ての感覚が研ぎ澄まされる一方、目から常に大量に入ってくる情報が無くなることで、楽になる部分もあった。余計なものを見なくても済むので、いつも酷使している目を休められるのだ。

また、人の温かさ、ぬくもり、信頼、という曖昧な概念になりがちなものを、ダイアログ・イン・ザ・ダークでは‘言葉’や‘行動’という分かりやすいものとして体験することが出来た。

暗闇は不自由で怖いもの、と思っていたが、実際にはやさしくて温かくて、これまでにない気付きと驚きに満ちていた。



2014.06.11 文・写真 篠崎夏美


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