一日の間に、何度見たり、開けたりするか分からない窓。
空気、光、音、匂い、時には鳥や虫、様々なものが入ってくる。
もし部屋に窓がなければ、部屋は暗く、空気はよどんでしまう。
でも、窓を‘研究’するってどういうこと? 窓は窓じゃないの・・・?
今回の展示を行っているのはYKK AP。YKK APと言えば、窓の会社。
そして、(私の中で)YKK APと言えば、窓のCM。
可愛い猫たちが登場したり、映画や文学作品をテーマにした窓のCM。正直、それまで特に窓なんて気にしたことがなかったが、これを見て『窓って、すごく深いな・・・』と思わされた。
同時に、YKK APの‘窓に対する並々ならぬ熱意’も感じた。この人たちは、本気で、真剣に窓に取り組んでいる。
自分たちが売っている商品だから、という一言では片づけられないくらいの熱意を感じたのだ。
恐らく世界で一番、窓について考えている会社は、遂に『窓学』なる学問にまで乗り出した。
東京ミッドタウン・デザインハブ特別展
(写真は模型を撮影したもの)
インスタレーション“Kaleido-window” (内観写真) 写真 太田拓実
「窓学」とは
YKK APは「窓は文明であり、文化である」という思想のもと、窓に特化した独自の調査研究「窓学」に取り組んでいる。2007年に始まった活動をさらに推進する目的で、2013年には「窓研究所」を設立した。
YKK APは「窓は文明であり、文化である」という思想のもと、窓に特化した独自の調査研究「窓学」に取り組んでいる。2007年に始まった活動をさらに推進する目的で、2013年には「窓研究所」を設立した。
窓文化創造に向け、窓の専門知識を収集・保存し、その魅力や新しい可能性を社会へと発信・提言している。
(YKK AP 窓研究所 HP参照)
このイベント「窓学“WINDOWSCAPE”展」は、日本で初めての「窓学」研究展示だ。東京工業大学 塚本研究室とYKK APの約7年にもわたる共同研究成果を、豊富な資料とエピソードを交えて展示する。
※WINDOWSCAPE(ウィンドウスケープ)とは、「窓景」を意味する造語。
また、今年4月に開催された世界最大規模のデザインの祭典「ミラノサローネ」で発表された“WINDOWSCAPE”展の帰国展も兼ねている。現地で多くの来場者を魅了したアトリエ・ワン設計による窓のインスタレーション(空間展示)、現地での模様を模型、記録映像などで紹介している。
窓の研究プロセス (展示の一部)
「窓と旅コーナー」
東京工業大学 塚本幸春研究室が、約30か国で行ったフィールドワークの成果。
東京工業大学 塚本幸春研究室が、約30か国で行ったフィールドワークの成果。
およそ100都市での調査で集められた測量メモ、スケッチ、窓の写真がずらり。他にも、現地で買ったお土産、地図、パンフレット、拾った石、食べたご飯の写真、エピソードなどが資料として並べられている。沢山の海外で撮られた写真、何に使うか分からない小物、メモなどを見ていると、誰かの旅行の土産話を聞いているようだ。自分も一瞬だけその土地の匂いをかいだような気分になる。
これまでに2冊の‘窓学’関連の書籍が発行されているが、そこには使われなかった資料もあるそうだ。実はそういう表に出ないところにこそ、調査の雰囲気、空気感が残っていたりする。また、こうした資料により調査そのもののプロセスや、楽しさを伝える意味もあるのだという。
現地での調査の場合、民家などは事前にアポイントを取ることが出来ないので、その場で気になる窓があるお宅を訪問するのだと言う。『突撃!隣の窓』といった雰囲気だろうか。「窓の調査に来た」と伝えると、ほぼ間違いなく「なぜ?」と聞かれるそうだが、皆さん自分の家・窓には愛着があり、様々な話を聞かせてくれるそうだ。
ヨーロッパなどでは、古くなった建物を壊すのではなく、外装を修復したり内装を変えたりすることで、何百年も同じ建物に住み続ける。そのため、先祖代々同じ家、同じ窓ということも珍しくない。家族の歴史にも、窓が関わっているのだ。
「ドローイング原画」
窓のふるまい学のドローイング原画が並べられている。
現地で測量し、メモしたものを参考に、帰国してからドローイングとして描くそうだ。一口に‘窓’と言っても、これだけ様々な種類、形の窓があるのかと、一枚一枚見入ってしまう。
窓研究所の方は「初めは窓だけを描こうとするんですが、『ここに柱があったな』、『壁はこんな風につながっていたな・・・』と考えだすと、どんどん絵が広がってしまうんです」と笑いながら話してくれた。良い窓は、良い建築でもあり、建物と一体化している。窓だけでは意味がない。周りの柱や壁があって初めて窓になるのだ。
ミラノサローネ
新たな窓の可能性をテーマとして“WINDOWSCAPE展”を出展。歴史あるミラノ大学中庭に、窓だけで作られた万華鏡のようなトンネルの空間インスタレーションを作り出した。
(写真は模型を撮影したもの)
無数の窓が映し出した風景、光が乱反射し、参加者が動くことで変化する不思議な空間。まるで自分が窓になったかのような感覚が楽しめる、カレイド・ウィンドウ。
ミラノサローネでは、世界の窓の写真と図面資料をポスターとして展示して、持ち帰れる仕掛けが作られた。およそ4万枚もの窓のポスターは早々になくなってしまったという。ちなみに、一番人気はこの展覧会のメインビジュアルにもなっているものだそう(ミラノサローネ開催地がイタリア・ミラノだったことも関係しているのだろうか・・・?)
右の写真はその時と同様の窓のポスター。一つが3000枚ずつのブロックになっていて、5種類・計15000枚用意されて る。まるで大きなメモ帳のように、一枚ずつ切り取れる仕組みになっており、参加者は自由に持ち帰ることが出来る。一過性の展示ではなく、ポスターを持ち帰って家に飾ることで、そこに新たな窓が生まれる。
戴いたポスターを、早速オフィスに貼ってみた。
左)アルハンブラ宮殿:ナスル王朝の栄華に思いを馳せる
右)イタリア・ポジターノのホテル:窓の外にはアマルフィ海岸
殺風景な白い壁に、新しい窓と新しい景色が生まれた。
窓は暮らしと共にある。
窓は建築より身近だ。 「建築」には少しとっつきにくい雰囲気があるが、「窓」には多くの人が親しみがあるのではないだろうか。
様々な国や地域の窓を見ると、それぞれの歴史、目的の多様さに驚かされる。それらは似ていたり、違っていたりするが全てに共通していることは、生活に密着したものであると言うことだ。その土地の文化、気候などが窓を育ててきたとも言える。窓を切り口にして、文化や社会を考えると、新鮮な気付きがある。
インスタレーション“Kaleido-window” (内観写真) 写真 太田拓実
2014.06.05 文・写真 篠崎夏美