暗くて、ひんやりしていて、静かな空間。
心細いような、そのくせずっといたくなるような、不思議な空間。
神秘的で、謎めいた地下。
実は私達の非常に身近なところにも、広大な地下空間が隠されているのをご存じだろうか?
都市伝説として語られる「東京地下秘密路線説」などではなく、 今この瞬間も使われている実用的なものである。
それは、‘地下鉄’が作り出した空間だ。
このイベントは地下鉄建設によって出来た地下空間の秘密を紹介するもの。普段は見ることが出来ない施設、設備について、パネル展示などで紹介している。
地下鉄が建設された後の地下空間には、駅に関係する設備、商業施設の他、乗客からは見えない鉄道を運行するために必要な様々な設備があるのだ。
また、現在は使われていないが、非常に興味深いものも残されている。
幻のホーム・幻の駅
写真は新橋駅の旧ホーム。当時新橋には、東京地下鉄道と東京高速鉄道、2つの会社の地下鉄駅があった。乗り換え時には、一旦改札を出てホームを移動する必要があったため、とても不便だったそう。
そこで乗り入れを開始し、東京地下鉄道側の新橋駅に東京高速鉄道が接続することになる。これによって東京高速鉄道の新橋駅は閉鎖されてしまう。実際に使われた期間は1939年1月から9月までの8か月という、まさに幻のホームだ。今はイベント時などに特別公開されているそう。
幻の駅もある。それは東京地下鉄萬世橋(まんせいばし)だ。当時、アジアで初めての地下鉄として銀座線が建設されていた。しかし、工事は停滞してしまい、その間の暫定的な駅として作られたのだそう。使用期間は1930年1月から1931年11月までの約2年間。
ちなみに、ホームは取り壊されたものの、地下鉄の出入り口は換気口として残されており、現在でもその名残を見ることが出来る。今は使われない駅やホームが、人知れずひっそりと眠っている。何だかとてもロマンチックだ。
地下鉄建設が考古学発掘に!?
これが何だかお分かりだろうか?
石のようにも見えるが、実はある動物の身体の一部である。
写真中央:大きさは約30cm
これは‘ナウマンゾウ’の歯(臼歯)である。ナウマンゾウは氷河期に生息していたが、今は絶滅してしまった。そんな太古の生物の化石が、地下鉄建設中に見つかったのだ。
原宿近くでは、ほぼ一頭分のナウマンゾウの化石も発見されたという。写真左側はナウマンゾウの椎骨。一つの骨からも、その大きさが想像できる。
写真右は木樋。 江戸時代の上水道管だそう。この他にも小判(ただし、かなりグレードの低いものだったらしい)、縄文土器、江戸時代の陶器、江戸城の石垣など、博物館級のものが見つかっている。
地下を掘って空間を作る、地下鉄ならではの発見かもしれない。
地下は想像力をかき立てる
普段何気なく立っている地下鉄のホームや、歩いている道路の下に、こうした意外な歴史があるのは興味深い。
あなたが乗っている地下鉄の窓の外には、ナウマンゾウや、小判が眠っているかもしれない。そう考えると、毎日の通勤、通学も地底探検のようでワクワクしてこないだろうか?
2014.03.12 文・写真 篠崎夏美