西武池袋本店 西武ギャラリー
『黒執事』は、19世紀後半のイギリスを舞台にした漫画作品。名門貴族若き当主に仕えるセバスチャンは、執事としてはもちろん、料理、武術、教養、容姿など全てにおいて完璧。しかし、彼と主人であるシエルの間には大きな秘密があった・・・。
魅力的な登場人物、様々な要素が交じり合うストーリー、怪しげな世界観、そして繊細かつ美しい絵で多くのファンを持つ人気コミック。海外版も含めると、コミックスの累計発行部数はなんと、1800万部も突破している。また、アニメ、舞台、実写映画と、その世界は広がり続けている。
執事 セバスチャン・ミカエリス(リーフレットより)
今回のイベントは原作者の枢やなさんのデビュー10周年と、黒執事の実写映画化を記念して行われる初の原画展。「黒執事」の原画、原稿、扉絵イラスト、デビュー作など過去の作品なども展示されている。
会場に入ると目に飛び込んで来るのは、壁を埋め尽くす原画の数々。それもそのはず、この原画展では肉筆画200点以上、デジタルツール画100点以上を見ることが出来るのだ。コミックスの表紙や、扉絵などで目にした、あのイラストがあちらこちらに並び、どこから見たら良いか迷うほど。そこまで大きいものではないが、びっしりと展示されている。そのまま絵画として通用するほどの美しさ。
そう、黒執事の魅力は何と言ってもその美しい絵である。冒頭のあいさつ文で枢さんは『原画を見られるということは、‘白鳥が水中で足をバタバタさせているところ’を見られるようなもの。がっかりされたらどうしよう、と不安だった・・・』という内容の事を仰っていたが、とんでもない!原稿段階のものを見ても、すでに綺麗なのだ。直しが少ない物を選んでいるのかもしれないが、修正箇所などがほとんどない。漫画制作の知識皆無の私が見ても、その線の正確さ、細やかさ、センスの良さは一目瞭然である。
最近ではアナログで線画を描き、それをスキャンしてデジタルで色を付ける方法で制作しているそうだが、線画の段階でも既に完成された作品のようだ。また、かなり近寄って見ても良く分からないくらい細かいパーツも、非常に繊細に描かれていたのが印象的だった。コミックなどにすると更に見えにくくなるのだろうが、そうした些細な部分にも一切妥協しない姿勢が伝わってくる。もちろん、色の選び方、塗り方も素晴らしく、線画と出来上がった作品を比べると、どうしてこんなこと出来るのだろうと、素人はただただ感心するばかりの仕上がり。
そんな制作の裏側を少しだけ覗ける、「枢やな先生製作室コーナー」もある。実際に使っている画材などが見られるのは、ファンや、自分でも漫画を描く人にとっては非常に興味深いものだろう。これまでに使ったペン軸が瓶に貯められていたり、鼻炎の時に使うという鼻栓(?)があったりもした。また、作画用の資料として、コート、レイピア、バイオリン、クリケットの道具などもあった。さらには屋敷や、学校の、壁、家具、カーテンの房、暖炉の装飾、ランプの笠など、かなり細かい設定イラストなどもあり、こうしたところからあのリアルな世界は生まれているのかと感動した。
その他、これまでに制作されたグッズ、舞台で実際に使われた衣装、小道具、実写映画版の台本、アニメの映像コーナー、セバスチャンとシエルの球体関節人形なども展示されており、黒執事ワールドを堪能できる。
比較的広い会場だったが、平日にしては人が多い気がした。どの人もかなり真剣に絵に見入っているようだった。自分も気が付けば1時間以上会場にいた。陳腐な感想だが「綺麗」という言葉しか出てこない。一枚の小さな絵に、一体どれだけのアイディアと、労力がかけられているのだろう。しかし、枢やなさんの絵には一切の妥協がない。だからこそ、美しい完成された世界が出来上がり、あの美しい執事のように人々を妖しく魅了し続けるのだ。