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今世紀最大の謳い文句、すごいキャッチコピーのオペラ「The Opera Ecstacy」

アイコン果たしてその内容は・・・

2014/04/16(公開:2013/12/19)

 The Opera Ecstacy

横浜みなとみらいホール   

         

ここ数年、様々なイベントの告知を見たが、これほどのものは見たことが無い。

そんなすごいキャッチコピーのイベントを見つけた。あまりにも衝撃だったので、以下に紹介する。 ザ・オペラ・エクスタシー 公式サイト http://classic-concert.info/opera/

 

 

「98%の日本人はまだこの快楽を知らない・・・ これこそワールドクオリティ」

 


「これまでオペラの何が面白いか、何が素晴らしいのかわからないと思って来た人へ贈る実力派を揃えたスペシャルオペラステージ」

 


「あなたがこれまで観てきたオペラがオペラの真の姿でしょうか? 未知なる快楽の世界が貴方を待っているかもしれません」



「このステージを観たら、何故、オペラの虜になる人がいるのか、なぜ何百年もの間愛され続けているのか、その理由がきっとお分かり頂けるはずです」

 


「このステージを見てそれでもオペラの何が素晴らしいかわからないという貴方にはもう、私は二度とオペラをおすすめしません。 これでダメなら諦めます」

 

「貴方は12月18日みなとみらいホールでこんな経験をするかもしれません。
・身体中の血が波打つ ・鳥肌がおさまらない ・呼吸が乱れる ・涙が止めどなくあふれる ・身体が重力から解放される 」

 

などなど・・・。 

ここまで派手に煽られると、一体どれほどのものか確かめてみたくなってしまうのが人情と言うもの。これだけ自信たっぷりに宣伝されているものが、果たしてどんなものなのか?キャッチコピーはどこまで正しいのか?実際に行ってみた。

 

このイベントを主催しているのは、コンサートのチラシなどを制作している会社、株式会社ライズサーチ。これまで演奏家の方々から、集客、チケット販売などの悩みを聞く機会があり、現場で何が起きているかを知るためにコンサートを行ってきたそうだ。今回のコンサートの「これでダメならあきらめます」という言葉には、どうにかしてオペラの素晴らしさを伝えたい、という主催者の‘覚悟’が込められている。

パンフレットによると、全てのオペラ公演で心も体も解き放たれるようなエクスタシーがある訳ではないという。10回に1回あるかないかという確率だ。会場、天候、歌手はもちろん、観客のコンディションや、精神状態など、様々な条件が重なったときにだけ起こる奇跡とも言える。果たして、今日奇跡は起こるのだろうか・・・?

 

開演を知らせるベルがドラの音で驚く。少し物悲しく、不思議な余韻がある。調べてみたところ、横浜港に係留されている帆船・日本丸で使われていた銅鑼の音(現在は録音したもの)だそうだ。ライズサーチ代表取締役・内田さんが直々に公演の解説をしてくださる。とても優しく、親しみやすい解説だった。オペラの魅力、素晴らしさを伝えたい、という思いが伝わって来た。 

いよいよ公演が始まった。オペラの知識が全くないので非常に抽象的なレポートになってしまうことをお許しいただきたい。

 

三人の作曲家によるアヴェ・マリア

○カッチーニ「アヴェ・マリア」濱名さおりさん

中世ヨーロッパのお姫様みたいな、袖がふんわりした白のドレス。舞台に登場するだけで、一気に非日常の世界になる。歌が始まってすぐ、膝のあたりから鳥肌が立った。綺麗なのだが力強い声に引き込まれた。その後も高音の度に全身がゾクゾクする感覚になる。人はこんな音が出せるのか、と驚きと感心を禁じ得ない。

 

 

○マスカーニ「アヴェ・マリア」山口安紀子さん

ロイヤルブルーのマントのようなショールが付いたドレス。聖母マリアは青い衣を着て描かれることが多いが、今回のアヴェ・マリアを意識しての選択だろうか。一音目からとても良通る、1人で歌っているとは思えない響きがある声だ。

 

 

○グノー「アヴェ・マリア」笛田博昭さん

音のリボン、というか流れが見えるような気がした。男性が歌うアヴェ・マリアも力強く、温かみがあり良かった。音の波に揺られているような心地よさを感じる。

 

 

○ヴェルディ 歌劇『トロヴァトーレ』より
「穏やかな夜~言葉では言い尽くせぬこの恋」山口安紀子さん

マントを取ったドレス姿。ピアノのメロディーが不安ながらも、ヒロインの沸き立つ気持ちを表しているよう。歌に聴き入ってしまい、目が離せなくなった。終わったあと、思わず自分もふうっとため息をついてしまう位集中していた。高音パートが終わると、身体がぞくぞくした。

曲や、歌い方そのものを楽しむのも良いが、その次のステップとして内容を知った上で聞くのも良いだろう。実際にこの歌を聞いて、どんな物語、歌詞なんだろう?と気になって家に帰ってから調べてみた。こうしてどんどん自分の興味や、知識が広がるのは面白い。

 

 

○グノー 歌劇『ロミオとジュリエット』より
「私は夢に生きたい」濱名さおりさん

先ほどのドレスの袖を取っている。背中の編み上げがクラシカルで、雰囲気にあっている。こうしたドレスも見ていて楽しい。どんなシーンか事前に解説があったので、歌に集中出来た。説明があることでより楽しめるので、初めての人、知識がない人にとってはこうした心配りも大切だ。

 

「恋よ!恋よ!」笛田博昭さん

天井、床、壁までが震えているようだった。歌声が風のように吹き抜け、吹き上げ、身体をかすめていくのを感じた。

 

二重唱「私はあなたをお許しいたしましたわ」濱名さおりさん・笛田博昭さん

肩を寄せ合って歌うロミオとジュリエット。そうだ、オペラは劇なんだ!と改めて気付く。歌とお芝居が融合した、ミュージカルともまた違った魅力がある。目の前で繰り広げられるドラマから目が離せなくなった。1人の歌も良いが、2人で歌うことでより深みや響きが出る。声が響くたび、身体の内側から震えるよう。

 

 

ここで休憩。あっと言う間の45分だった。最初から最後までオペラにすっかり入りこんでしまった。休憩中、どうやったらこの魅力を多くの人に伝えられるのだろう?と考えている自分がいた。

ロビーに出ると、おめかしした女の子たちが数人いて、楽しそうにオペラの感想を話していた。そうか、こういう楽しみ方もあるのか、と気づかされた。オシャレをして、綺麗なドレスを着た歌手の美しい歌声を聴いたり、ホワイエで飲み物を飲んだりする、少し特別なイベントとしてのオペラだ。

子供たちが「すごかったねー」と単純に、心から感想を話し合うように、まずは難しいことは考えずに、すごかった!来てよかった!と思えれば良いのではないだろうか?

 

 

○プッチーニ 歌劇『蝶々夫人』より

「ある晴れた日に」 山口安紀子さん

赤いドレス。有名な曲だが、やはりTVやCDで聞くのと実際に聞くのでは全く違う。一音一音が耳にきちんと入り、集中する。空気がビリビリとする感じ、歌手の息遣いはその場でこそ体験できるものだ。

 

「さらば愛の家」笛田博昭さん

ポケットチーフが赤から黄色に。男性はこういうところで変化をつけるのか。舞台の役者は表情と動きでそこにあるものを見せるが、オペラは歌でそれを見せる。おのれピンカートン、と思いながら見ていたが、歌と表情で彼の心情がここまで伝わってくるとは・・・。

 

「愛らしい目をした魅力的な乙女よ」山口安紀子さん・笛田博昭さん

まるで身体を持ち上げられそうなソプラノ。高くて優美なのに、包容力さえも感じさせる。こちらが恥ずかしくなってしまうような、ピンカートンと蝶々さんのラブラブっぷりが数メートル先で繰り広げられる。なかなかこんな間近でオペラを見る機会もないと思うが、ステージに向いている方の膝、耳、うなじまでがゾクゾクする感覚を味わった。

 

 

○バーンスタイン 歌劇『キャンディード』より

「着飾ってきらびやかに」濱名さおりさん

鮮やかなオレンジのドレス、胸元から身体の中央、腰の下あたりに眩しいビジューが付いている。大振りのアクセサリーもキラキラして、この曲にぴったり。歌詞も英語。途中にセリフもあったりしてミュージカルのような雰囲気。ソプラノの超絶技巧アリアには思わず手を握りしめてしまった。 

 

 

○ヴェルディ 歌劇『椿姫』より

「乾杯の歌」全員

声は見えないけれど、艶が見えるような歌声。その背景に楽しく、豪華なパーティーが見えるような曲だ。

 

<アンコール>

「私の大好きなお父さん」山口安紀子さん

「ドレッタの夢」濱名さおりさん

「誰も寝てはならぬ」笛田博昭さん

「オー・ソレ・ミオ」全員

 

 

正直、当初は大仰にも思えるキャッチコピーが気になり「確かめてやろう」、という気持ちもあった。だが、コンサートが始まるとすっかり魅了されてしまった。私はこの日、オペラの‘奇跡’を体験したと言っても良い。あのキャッチコピーの数々は、どうにかしてオペラの持つ魅力を知る機会を作ってほしいという、切実なる願いの表れだったのだ。

だが、その奇跡に出会う前に、たいていの人は「オペラはつまらない」、「難しい」などの理由から諦めてしまう。このコンサートは、そうした人を一人でも減らしたい、という使命をもって行われているコンサートなのだ。主催者によると、日本人はまだオペラの快楽と出会っていない、出会っているならもっとチケットは売れるはずだという。確かに、今回の会場も空席があった。折角良い物を用意しても、それを知る機会がないことは本当にもったいないことだ。

全員に見てもらうのは難しくても、少しでも興味がある人にこそ見てもらいたい。そこから広がる世界もあるだろう。我々のサイトも、こうしたものを含め、世の中にまだまだある面白いものをより多くの人に知ってもらうべく努力しなくてはならない。

 


2013.12.19 文・写真 篠崎夏美
 

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