汗をしたたらせた男性が、鋭いまなざしをこちらに向けている。思わず目が離せなくなるほどの目力だ。
彫りが深く精悍な顔立ちは『イケメン』と言えるが、普段日本で目にしている『イケメン』たちとは要素が違い過ぎて、同じ『イケメン』という言葉ではくくれない。
彼らを写真家の三井昌志(みついまさし) さんは「渋イケメン」と表現した。2017年4月13日から19日まで、銀座・キヤノンギャラリーにて写真展「渋イケメンの国」が開催されている。写真集『渋イケメンの国』に掲載された作品に加え、5か月に及ぶ旅で撮影された新作も半数以上。合計40点の作品を展示する。
◇写真家・三井昌志さんにインタビュー。「渋イケメン」とは?
先月帰国したばかりの三井さんに話を聞いた。
―― なぜ「渋イケメン」を撮り始めたのですか?
三井:最初は全く意識していなかったですね。旅で撮った写真を見返していた際に、かっこいいなと感じました。そして「改めて見るとオッサンが多いな!」と(笑)
―― 三井さんが考える「渋イケメン」の定義とは?
三井:まずは目力ですよね。あとは写真展の紹介にも書いたんですが、異性からのモテを意識していないところ。外見にも気を使ってないし、服とかもボロボロなんですが、無駄にかっこいいんですよ。彼らは結婚も親が決めたりするし、別にかっこくてもメリットなんてないんですけど。
そして年齢を重ねることを恐れないところ。無理に若作りしないですし。さらに言えば過酷な中で生活をしていますから、日本に比べると老けるのが早いと思います。平均寿命も短いですが、その分濃いというか。
―― 撮影しているときの彼らの反応は?
三井: 基本的にいつも観光客が行かないようなところで撮影しているので、最初は「なんでこんなところに外国人が?」「何をしているんだ?」って感じ。でも、言葉はなくてもかっこよく撮影できた画像をモニターで見せると喜んでくれます。デジカメの画像は撮ってすぐ見られるのがいいですよね。これが何よりのコミュニケーションになります。
―― 撮影しているときに心がけていることはありますか?
三井: なるべく自然な姿を撮りたいので、仕事場を撮影することが多いです。毎日やっていることなので、黙々と作業している様子がかっこいですよね。働いて家族を支えているわけだし、なんだか誇らしげに見えます。
◇働く男たち。そこにいるだけなのに超カッコいい!
インタビューでも話があったように、今回展示されている写真のほとんどは渋イケメンたちの仕事場で撮影されたものだ。
例えば鋳造工場で撮影された写真。ただでさえ猛暑なのに1500℃もの温度で溶かしている。かなり危険な現場だが男たちは気にする様子もなく、なんと素手で足元はビーチサンダルだったとか。
白い服に真っ赤なターバンが印象的なラジャスタン州・ラバリ族の男たち。とてもスタイリッシュな伝統衣装で特別な日に着るかと思いきや、彼らにとっては普段着。このままラクダや羊の放牧に出かける。
さらに「渋イケ牛」の写真もあった。農耕用に使われる雄牛で大きく立派な角を掲げ、堂々とした佇まいがイケメンである。さすが牛が神様の使いとしてあがめられている国だ。
作品を見ていると、どの「渋イケメン」たちも非常に引き締まったいい身体をしている。腹筋がキレイに割れている男性も。しかし、彼らにとっては仕事を続ける中で自然にそうなったもの。特に誇る様子もなく、まったく気にしていない。それがまたかっこいい。
年老いた男性はさらに「渋イケメン」度がアップする。白くなった長髪と白い髭をたくわえた男性は、まるで映画のワンシーンのよう。白いターバン、白い服で農作業中の男性は、背筋をピンと伸ばし老舗ホテルのドアマンのような風格。
「自分は『渋イケメン』のようになりたいとは思わないし、なれないと思う。いろいろなものが違うから」と三井さんは語る。ただ、単純に彼らが好きだし、かっこいいと感じるし、尊敬している。そうした憧れや想いが「渋イケメン」を撮影させるのだ。
誰にも注目されないかもしれない彼らは、今も地球のどこかで働いている。日本から現地に行かなくても、写真を見て思いを馳せることはできる。どこかでいろいろな人たちが働いて、汗を流して暮らしを支えていることを感じられるだろう。
外見にとらわれない、だからこそ美しい。渋イケメンたちの姿はただかっこいいだけではなく、多くのことに気づかせてくれた。
ちなみに、三井さんの写真集『渋イケメンの国 ~無駄にかっこいい男たち~』では、さらにいろいろな渋イケメンたちを見ることができるので、おすすめしたい。
取材/篠崎夏美
<三井昌志 写真展「渋イケメンの国」 >
◆開催日時
2017年4月13日(木)〜4月19日(水)
10:30〜18:30(最終日15:00まで) ※日曜休館
◆場所
キヤノンギャラリー銀座(東京都中央区銀座3-9-7)
※巡回 梅田(5月11日〜17日) 福岡(6月15日〜27日)