壁一面に並ぶポートレート。ふと感じる違和感。
モデルの目が全て「白目」になっている。思わずぎょっとするが、壁一面の白目の人々に見つめられていると不思議な気分になってくる。
01.09[金]~01.21[水] / 東京都 / 新宿眼科画廊 スペースM
画像提供:沼田学氏
人の心を理解することは出来るのか?
「目は口ほどにものを言う」のか?
人の外見は内面の一番外側なのか?
その人の部屋や持ち物は、脳みそや内面の延長なのか?
「目は口ほどにものを言う」のか?
人の外見は内面の一番外側なのか?
その人の部屋や持ち物は、脳みそや内面の延長なのか?
そういった疑問から始まった展覧会。今回が3回目の開催で、およそ150点の「白目写真」が展示されている。人の心、内面は写真に絶対写らないと考えたフォトグラファーの沼田学さん。だからこそ、ひたすら‘外側’を撮り続けてきたという。
目は口ほどに物を言う?
これらの写真はいわゆるポートレートだが、沼田さんが求めたのは個性を消して『“ヒト”を“モノ”のように撮りたい』ということ。瞳を消すことが、一番簡単にヒトらしさを失くすことだという結論に達した。
確かに、瞳はヒトの身体の中でも非常に小さな部分だが、そこを隠すだけでこれほど写真の雰囲気が変わってしまうとは。考えてみればこんな小さな器官だが、それを見つめることで得られる情報は少なくない。
最初は違和感を覚えた白目だが、慣れてくると妙に安心する。焦点の合わない白目だと“見られている”という意識が少なく、モデルたちの視線をあまり感じないせいかもしれない。
撮影場所は基本的にモデルとなる人の部屋。沼田さん曰く、どんな部屋で撮影しても面白くなるのだとか。その人に関するものが詰まっていて面白いし、単に人の部屋を見てみたいという、誰しもが持っているちょっと下世話な好奇心を刺激する。
実際に写真を間近で見てみると、着ている服、本棚に並べられた本、無造作に置かれたオブジェなど、さまざまな物が見て取れる。事前にWEBで何点か写真は見ていたのだが、比較にならないくらい、多くの情報が得られる。まさに部屋はその人の縮図だ。
虫を食べている人。食用に飼っているという虫も写っている。
これ以外にも(傍から見ると)摩訶不思議な部屋の住人がたくさん。
白目写真の秘密
3年ほど前から撮影を始めた白目写真、これまでの撮影回数は200回程になるらしい。撮ったからには見せる場所が欲しい、ということで「界面をなぞる」も3回目となった。
ちなみに開催されている場所は毎回『新宿眼科画廊』。眼科画廊で白目。テーマに合わせて場所を探したのかと思ったが、たまたまだそう。
そしてこれらの写真だが、実は『白目をむいている』訳ではない。白目が出来ない人でも『ある方法』を使うとほぼ100%、白目になれるのだ。白目を撮りたいと考えた際に、この方法も編み出したそう。
被写体となったのは、下は4歳の子供から上は70歳代のご老人まで、幅広い年代。中には毎年撮って欲しいという人もいるんだとか。 都築響一さん、ろくでなし子さんなどもモデルになっている。
沼田さん本人にお話を聞いてみた。
フォトグラファー・沼田学さん。ご本人の白目写真も展示されている。
奥さんと一緒に撮影した白目写真。上下逆に写っていることもあり、
目の前の本人と見比べてみても同一人物か良く分からなかった。
○こういうところを見て欲しい、というのはありますか?
― 特にはないのですが、自由に見て、自由に感じて欲しいです。説明することも特にないですし(笑) ただ見るだけでもオモシロ写真として楽しめると思いますし、もっと深いことを考えながら見ていただくことも出来ます。
― 特にはないのですが、自由に見て、自由に感じて欲しいです。説明することも特にないですし(笑) ただ見るだけでもオモシロ写真として楽しめると思いますし、もっと深いことを考えながら見ていただくことも出来ます。
それから、やっぱり実物はパソコンの画面では見れないものが沢山写っていると思います。YouTubeと実際のライブの違いみたいなものですね。写真にした方が圧倒的に情報が多いし、感じられるものも多いと思います。
○撮影をするときに気を付けていることはありますか?
― 良く見ること、丁寧に撮ることです。あとは段取り良く進めることでしょうか。
○撮影にはどれくらい時間がかかりますか?
― 30分位です。ほとんどを部屋のロケハンというか、どこで撮影するか決めるために費やします。色々と話を聞いて、本棚、ベッドなど『ここで撮ったら面白い』という場所や、その人らしさが出る場所を探します。
○こんな人を撮ってみたい、という人はいますか?
―あまりないですね。有名人とか、役者さんとか、顔で売っている人ってこの写真は不向きなんですよ。白目になることで個性を消して、匿名性が出てしまうわけですから、そういう点では微妙ですよね。でも、色んな人を撮ってみたいです。
基本的にはその人の自宅などで撮るが、まれに外で撮影することもある。
白目写真を撮影した人からは「自分じゃないみたい」、「知人に自分と気付いてもらえなかった」という感想を良く聞くそう。
瞳を消すことでその人らしさが消える。沼田さんが仰った『自分らしさって、眼球の面積なのか?ってことになっちゃいますよね』 という言葉が印象的だった。
瞳を消すことで残るものは何だろう。“白い目で見る”ことで、自分でも気付かない自分らしさに気付けるかもしれない。
2015.01.12 文・写真 篠崎夏美