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あなたは死んだらどこに行きたいですか? 『古代の楽園-神話、来世、桃源郷…』

アイコン辿り着くところは同じなのかもしれない

2014/04/16(公開:2013/11/12)

 古代の楽園-神話、来世、桃源郷…

東京都 / 古代オリエント博物館

 

古代の「楽園」を美術品を通じて紹介する展覧会。しかし、「楽園」と言っても、時代、地域、宗教、思想、そして個人でも、それぞれ思い浮かべるものは異なる。

楽園、極楽浄土、天国、理想郷、ユートピア、楽天地、桃源郷、仙境、エデンの園、約束の地・・・。イメージが多様になれば、それを表す言葉もまた多様になる。

そんな漠然としたイメージの「楽園」を、展示品を見ることで当時の人々の暮らし、考え方に想いを馳せながら再構築してゆく。
 

○みどころルーペシステム・・・会場入り口に端末が2台設置されていた。これは、デジタルルーペを使った美術鑑賞システム。タッチパネルのディスプレイを使って、展示資料の細部を見ることが出来る。かなり緻密で、質感などもはっきり分かる。

小さな展示物だけでなく、上部が見にくい大きな展示物も、肉眼では確認しにくい箇所もはっきり分かるのが良かった。絨毯などは縫い目の一つ一つまで鮮明に分かる。自分で好きなところを拡大して観られるので、非常に使いやすい。

また、展示解説パネルに収まりきらなかった説明も、画面に触れながらインタラクティブに知ることが出来るので、より深く学べる。

ただ、いきなりこの「みどころルーペシステム」で詳細を見てしまうのは、少し興ざめな気もした。設置場所の問題もあるが、会場の中盤、もしくは終盤に置いて、気になったものを詳細に見る方が面白いかも良いかもしれない。

最近こうしたデジタルシステムを使った展示が増えてきて、より多角的に展示物について知ることが出来るようになったのは喜ばしいことだ。今後技術が進めば、質感を再現してまるで本物に触れているような感覚を味わえるようになる日も来るだろう。

 

<展示内容>

○古代エジプト・・・神々の像、死者の書、ミイラマスク、ツタンカーメンのミイラ複製、壁画墓の復元など。

ツタンカーメンのミイラの複製はかなりリアル。ちょっとした小部屋になっているのも、玄室に入ったようで雰囲気が出ている。古代エジプトの私人墓のほぼ実寸の復元は、やや写真ぽさがあるテカテカした感じだったが、3000年前に描かれたとは思えない、鮮やかな壁画が美しい。部屋を埋め尽くす、来世への憧れ、熱望が伝わってくる。

どちらかと言うと「楽園」というより、「あの世」、「再生」への願いという印象を受けたが、古代エジプトの人々にとっては、あの世が楽園だったのだろう。
 

 

○西アジア・・・メソポタミアの円筒印章、神像、銀器、絨毯、ハンムラビ法典碑複製など。

『目には目を、歯には歯を』でお馴染み、ハンムラビ法典の石碑複製。おそらく実物大。教科書でお馴染みの石碑を複製とは言え、目の前で見ることが出来て少し感激。だが、ここでの見どころは、何と言っても見事なペルシャ絨毯。色、図柄、構図、織り目、どれをとっても素晴らしい。ぜひ自宅に欲しいが、現在同じようなものを買おうとしても、とんでもない値段がするのは間違いない。

また、円筒印象も興味深い。太さ1cmあるかないかという小さな筒に、かなり細かい模様が彫られていて、転がすと絵柄が粘土に転写される。今でもくっきりと分かる図柄は非常に繊細だ。

メソポタミアでは、来世に想いを馳せながらも人は不死ではない、よって現世の楽しみを享受すべき、という考えが出てきたようだ。

 

 

○地中海世界・・・陶器、ガラス器、ガラス瓶、古代ローマのフレスコ画など。

ローマ時代の楽園は、現世そのものと言える。宴、酒池肉林が楽園と考えられていたのだろう。細かいところは忘れたが「私は存在しなかった、存在した、そして死ねば存在しない。だから今の思考だけが重要だ」というような考えがあったのだという。非情に合理的、かつ現代的な考えにも思える。こうした思想や、‘メメント・モリ’という考えにより、より今を楽しむべき、という風潮が広がったのだろう。

 

 

○南アジア・・・彩文土器、ガンダーラ彫刻、銀製舎利容器、葡萄唐草文様など。

ギリシャ文化と、アジア(仏教)の出会いによって生まれた芸術が興味深い。しかし、ちょっと「楽園」的な要素からは離れているような印象を受けた。ただ、‘ガンダーラ’という言葉を聞くと、どうしてもゴダイゴの曲「ガンダーラ」が浮かんでしまう。あの曲はインドにある理想郷を歌ったそうなので、そういう意味では楽園とも言える。

 

 

○東アジア・・・中国の鏡、銀器、仏像、和鏡など。

楽園=桃源郷や、極楽浄土。どちらもこの世には存在しない、理想の世界。心の静寂を求めるものもあれば、今がどんなに苦しくとも、仏にすがれば来世で幸せになれる、という考えもある。極楽についてはいわば諦めのような雰囲気も感じてしまうが、それによって救われるのであればその人にとっての楽園であることには違いない。

 

 

時代や、形は違っても、幸せになりたいという思いは変わらない。幸せになるのが、現世であろうが、来世であろうが、人々はひたすら‘楽園’に行くことを、願い、祈ってきた。

楽園とはすなわち、幸せに暮らせるところ。人類の歴史は、楽園を求めてきた歴史でもある。そして、私たちの楽園を求める旅はこれからも続くだろう。

 

2013.11.08 文・写真 篠崎夏美

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