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数学アレルギー vs. これ以上分かりやすくはムリ!?数理モデル 「1たす1が2じゃない世界 ― 数理モデルのすすめ」内覧会とオープニングレセプション

アイコン2ケタの繰り上がり、九九の7の段すらあやしいけれど、『複雑系数理モデル学』に挑んでみた

2014/04/16(公開:2014/02/19)


東京都 / 日本科学未来館 3F メディアラボ 


日本科学未来館の「メディアラボ」は、先端情報技術を使った表現の可能性を、定期的な展示更新を行いながら紹介していくスペース。


今回は‘数理モデル’を使い世界の様々な問題解決に挑む、最先端研究開発支援プログラム「複雑系数理モデル学の基礎理論構築とその分野横断的科学技術応用」(FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト)の研究を紹介している。な、なんて長いプログラム名だ・・・。


つまり、数字を使って世の中を解き明かしていく方法がテーマである。だが、ここまで書いてみたものの、私にはかなり難しい。プログラム名にも‘複雑系’なんて言葉がついていて、ちょっと尻込みしてしまう。


今回は(私にとっては)難しいテーマではあるが、数学が苦手な人間なりに頑張って喰らいついてみた。 相討ち(?)も辞さない覚悟である。


「うわ、めんどくさそう・・・」と思った人ほど、最後まで読むと面白い!・・・かもしれない。





天敵・数学と因縁(?)の対決へ・・・

私は数学が大の苦手である。算数レベルですらおぼつかないし、トラウマレベルと言っても過言ではない。算数の授業では次々に問題を解く同級生を横目に固まっていたし、高校時代数学の追試を免れたことはない。5教科の点数レーダーチャートグラフは数学だけ見事にえぐれ、もちろん大学も数学を使わないところを受験した。今でも、いくら問題を見てもどうしたらいいか全く分からない、あの焦燥感と絶望感はありありと思いだせる。 

そんな数学大嫌い、出来れば関わらないで生きていきたいと思っている人間だが、このイベントには興味を持った。まず「1たす1が2じゃない世界」というこのタイトル。多少なりとも人生経験を積み、1+1=2ではないケースもこの世の中には沢山あることは分かる。しかし、数式という残酷なまでに答えがハッキリするものでも、そんなことがあるのだろうか?

そして‘数理モデル’というものを使えば、世の中の動きは全て数字で表せるのだという。これまで関わらないようにして生きてきた数字だが、私も実はその中で暮らしていたということだ。なんだか取っつきにくいけれど、意外と身近なものなのかもしれない・・・。


 

今回は内覧会とオープニングレセプションにお邪魔してみた。 

 
気持ちは敵陣に一人乗り込む兵士(丸腰)身構えていたが、カラフルなイラストが沢山あり、
想像以上に親しみやすい感じだ。

 
数学で世界の難題を解決出来る・・・?

 
タッチパネルで身の回りの出来事に触れると・・・


その現象を表す数式が現れる。カエルの合唱はこんな数式!?


こんなものも数字で表せるのか!と意外な発見がたくさんある。これがどうしてこの式になるのか?(式の意味は分からないものの)興味が湧いてくる。 

会場では7つの研究事例が「ミッション」として紹介されている。研究者たちがこれらの問題、現象をどのように「数理モデル」化して、解決に取り組んでいるのかを展示を通じて体験出来る。

 

◆ミッション1「感染症の広がりを防げ」

いきなり、かなりの重要ミッションを課せられた。感染症の大流行・パンデミックを防ぐために数理モデルを使う。ウイルスの種類、人の移動パターン様々な条件がある。極限までシンプルにすることで数式化し、そこに重要な要素だけを肉付けしていくことで、多様なケースに対応出来る。


色々考えすぎてしまうと、本質が見えなくなるのは数学も同じ。余分なものを究極までそぎ落とした数式なら、様々なケースに素早く対応できるのだ。やるなぁ、数理モデル。


 


◆ミッション2「脳を解明せよ」
動物同士が仲良く出来るように檻の配置を考えるパズルゲーム、「平和な動物園をつくろう」。人間の脳を真似て作った「カオス脳」(コンピューター)と対決する。


謎解きゲームなどで出てきそう・・・。こういう論理パズルは苦手だ・・・。


可愛い動物たちのパズルにちょっと安心。表とにらめっこしながら置いていく。



制限時間は4分。自分が置くと隣のカオス脳も計算を始める。


ここはかなり人気の展示で、内覧会でも良い大人たちが大盛り上がり。「パンダ・・・、パンダはどこに置く!?」、「うわー、時間がない!!」、「やったー、ランキング良い結果だ!」などと楽しそうだった。動物という親しみやすいモチーフを使っており、自分の順位、カオス脳の順位も表示されるので盛り上がれそうだ。

一見相当な量の計算が必要にも思われるが、人の脳は直感的にベストに近い物を見つけることが出来るのだとか。完全な正解ではないが、そこそこ満足できる結果を見つけ出せる。こうした行動はコンピューターには出来ないことだ。人間の脳スゲー!!

 


◆ミッション3「コウモリの"超"能力を解明せよ」
コウモリは自ら超音波を発車して、その反射音を聞くことにより、獲物いる方向、距離を認識している。ソナーというこの能力を使うことで、コウモリは効率の良いルートで獲物を捕まえることが出来る。そうした行動も数理モデルで表すことが出来、小型ロボットなど、工学分野への応用が期待される。


研究者自らが説明してくれる映像


研究者の顔が見られる、ということもこの展示の大きなテーマ。文字通り、映像で研究者の顔が見られるコーナーもあるのでとても身近に感じられる。ちなみに、研究者の方がレセプションで「コウモリは超音波を出せてスゴイ、しかも可愛い。そんな変わった生き物も数理モデルで表すことが出来る」というお話をされていたのが面白かった。



◆ミッション4「投薬のスケジュールを組み立てよ」
前立腺がんの患者に、投薬の中断と再開を繰り返す投薬スケジュールを作ってあげる。投薬を続けてしまうと薬が効きにくくなり、かといって薬を中断するとがん細胞が増加してしまう。これは責任重大だ。タイミングが悪いと患者さんの顔色が悪くなってくるので、顔色をうかがいつつ、ボタンを使って投薬、中断を決定する。かなり責任重大である。

 


◆ミッション5「病気の予兆を見極めよ」
遺伝子は発病の前に‘ゆらぎ’という予兆があり、それを見極める必要がある。ここで簡単な治療で回復するのか、はたまた発症してしまい急激に悪化してしまうかが決まるという、ギリギリの不安定な状態なのだ。これまた責任重大なミッション。 


このアイテムを使うと‘ゆらぎ’が見つかる


なんと、病気になってしまった!すごく申し訳ない気持ちに・・・。
(この後、アイテムを使ったら、きちんと未然に防げた。良かった!)

 


◆ミッション6「余震を予測せよ」
これは特に、一刻も早い対応が求められる問題である。本震直後は余震が多すぎるせいで全て観測が出来ないのだそうだ。こうした情報も初めて知るものが多く、興味深かった。正確なデータを取るためにも、数理モデルは重要な働きをする。


クイズ形式なのでとても分かりやすい 

 


◆ミッション7「ホタルとシンクロせよ  
それぞれバラバラに動いていたのに、いつの間にか動きが一緒になっていた、と言う経験はないだろうか?拍手などもそうだし、自然界でもそうした現象が起こる。一つ一つはシンプルな動きなのに、集団になると複雑なパターンが発生する。

このLEDホタルはそれぞれ光り方、光る速さが異なる。そして、周りの光を感じるセンサーがついている。  


始めはバラバラに光っているLEDホタルだが・・・ 


近づけるとだんだん光り方が同期してくる。野生のホタルにLEDホタルを近づけても、
同様の現象が起こるのだそう。


並べ方を変えたり、複数にして光り方の変化を見ても面白い。色々と並べ替えて、反応を見ているとあっという間に時間が経ってしまう。


数理モデルを使うことにより、これまで経験、推測で行っていたものを解決に導けるのだ。私のような数学オンチを始め、一般的な知識を持っている人、そして専門的な知識がある人まで幅広い人が楽しめるような展示になっている。まずは簡単な概略を見て、次に体験を通じて実践をし、最後にまとめ、という流れになっているので情報がスムーズに入ってくる。


一見難しいグラフと数式にやや及び腰になるが、吹き出しを追っていくと分かりやすい。


もっと深く知りたい人向けのコーナーも


ファイルを開くとこんな感じ。・・・本当に深かった。

 


レセプションの様子


今回の展示は半年以上ディスカッションが重ねられてきたそう。もっと分かりやすく、ということを突き詰めて出来上がったもの。関係者からは「ここまで分かりやすくなるのかと思った」という感想も聞かれた。 



最後のセレモニー。入り口の大きな看板にライブペインティング。


出展者の合原一幸先生が「お気に入りの数式」を書き入れる


その後、展示のミッションに関わった人たちも次々に数式を記入


書き直しが出来ないので、皆さんやや緊張されている様子。周りからは「いやぁ、これは良い式だね!」とか、「あれは○○(不明)の式ですよ」とか、「△△(不明)にすれば良かったかなー」などという声が聞かれるが、さっぱり理解不能。ちょっと寂しい。


合原一幸先生 「沢山の人に楽しんで欲しい」とのこと


グラフィックの合原先生


司令官「モデロウ」
合原先生はフクロウが好きで、色々なフクロウグッズを持っているらしい。このキャラクターは
とてもお気に入りだそう。



数学嫌いにこそ・・・

最初は理解できるか不安だったし、正直興味を持てるだろうか?という気持ちもあった。しかし、身の回りの問題がテーマとなっていたので非常に入りやすかった。解説も色々なレベルの人が見ても興味を持てる工夫がされていた。

世界の謎に挑むためのツール「数理モデル」と、そこから見えてくる新しい世界観。スクランブル交差点の人の動き、株価の上下、シマウマの縞模様まで、一見乱雑に見えるものも数学で表せる。数理モデルを使って見てみると違った発見がある。

こういうことがもっと早い段階で分かっていれば、私の算数嫌いも少しはマシだったかもしれない。授業中「こんなの何の役に立つんだろう」と思っていたものが、実際に我々の役に立っているということを身をもって体験できる。

数学が苦手な人、苦手だった人にこそ、ぜひ訪れていただきたい。



2014.02.19 文・写真 篠崎夏美

 

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